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砕かれたのは  ~硝子のハンマー 感想文~

序文

やあみんな、武えのきだ。

もう9月も後半にさしかかろうというのに東京では猛暑日が続き、政局は混迷を深め、私はまだまだキャラ作りに迷走している。そんな絶望的な状況でもせめて心だけは粋でいたい。そんな風に考える9月の猛暑日である。

さて、今回は昨日読んだ貴志祐介著「硝子のハンマー」の感想を書いていきたい。20年程前に書かれたこの作品はドラマ化もされているほど有名な作品だが、私は不勉強にして知らなかった。だが、今回読んでみたら大変面白かったので、なにがどう面白かったのを文章化したくなったのだ。

この文章は同作品の犯人やトリックのネタバレを含まないように注意して書いているが、面白さを伝えるためにやむを得ず核心部に触れている箇所がいくらかある。未読で先入観無しに作品を楽しみたい方はすぐにブラウザバックして他の誰かの記事を読むことをお勧めしたい。無理に私の駄文を読む必要はない。読むべき文章は世の中に溢れているのである。

さあ、それでは始めていこう。

目次


あらすじ

介護会社ベイリーフの社長が社長室で何者かに殴打されて死亡しているのをビル清掃会社の職員に発見するところから物語は始まる。

社長室に面する廊下から何者かが侵入した形跡はなく、ビルの最上階に位置する社長室の窓は嵌め殺しとなっており、窓からの侵入も不可能だった。
唯一の進入路は社長室と接する副社長室へと直接つながるドアであり、その副社長室は同じようにドアで専務室へとつながっている。
事件当時専務室に居た久永専務に唯一犯行が可能であったと見なされ、否認むなしく彼は警察に身柄を拘束されてしまう。

その久永専務の弁護を担当する青砥順子弁護士は、久永専務は無実であると直感的に信じていたものの、どうしても犯人の侵入経路がわからない。そこで防犯コンサルタントを名乗る怪しげな男・榎本径に協力を仰ぎ、共に密室の謎に挑むのだった。

感想

この作品は犯人を読者に明らかにする展開にする手法が素晴らしいと思った。

トリックやそれを解明するための試行錯誤は完全に本格ミステリのそれだが、犯人解明にいわゆる「名探偵皆を集めてさてと言い」という王道の手法をこの作者は取っていない。

探偵役の榎本径が犯人とトリックに気が付いた直後、急に物語は読者の知らない人物のモノローグに移る。戸惑いながら読み進める読者は、このモノローグこそが事件の核心であると気づき、徐々に犯人・そしてその動機を悟るのである。

これにより、読者は犯人が一人の人間であり、一つの人生があることに気づく。何故こうなってしまったのか、本当に裁かれるべきなのは誰だったのか、作品を読み終えた後もしこりのように読者の心に残り続けるのだ。

ミステリ的な仕掛けも一級品だが、物語としても読者の心に残り続ける作品であった。

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