人に求められた仕事をしていたら、なりたい自分になっていた話。
「今の仕事は楽しいけど、これからもずっとやりたいことなのかと言われると、ちょっとわからなくなるんです」
先日お客様である花嫁様から、そんな悩みを打ち明けられた。
そして、私がウェディングドレスのリメイクの仕事をするようになった経緯を聞かれる。
う〜ん、それが自分でもビックリなんだけど、いつの間にかこうなっていたんだよね。
その時々の流れや出会いに従い、そして人に求められるがままに与えられた仕事をこなしていたら、気がついたらいつの間にかこんなところに来ていたのだ。
ただ、この仕事を死ぬ直前までしたいと思ってるってことは、なりたい自分になれてるってことなのだろうか。
表現したいことは別にない。
そんな私も、学生時代は「表現したいことがわからない」美大生だった。
ちいさい頃からお姫様のドレスのお絵かきばかりしていた。絵を描いたり、何かをつくる仕事をすることは決めていたが、具体的なものは何もなかった。
デザイン科にしたのは、美術研究所の友人が「デザイン科だったら仕事もありそうだし」と言ったから。「じゃあ私もデザイン科にする」と。なんと安易な。
課題をこなすのは好きだった。写真の暗室作業も、銅版作りもシルクスクリーンも黙々とできる作業は楽しかった。でも、いざ「自分の表現したいものを表現して」「撮りたいものを撮って来て」と言われた途端に困惑してしまう。表現したいものって、特にない。作業は大好きなんだけど。
そんな私にも就職活動シーズンがやって来た。
友人が受ける会社を「じゃあ私も受けてみる」とついて行くことにした。すると私が内定してしまった。(アイドルのオーディションによくあるパターン)
会社に入ってからファッションに興味を持つ。
そして会社に入って配属されたのがファッション部だった。
それだけ。私がファッションに関わり始めた理由はただそれだけ。「そこに配属されたから」
そこに山があったから登った、みたいな感覚だ。でもせっかくご縁があったのだから、仕事とはいえ楽しまないともったいない。そんな気持ちで目の前の仕事に夢中になっているうちに、いつしか「ファッションの人」「服の人」と呼ばれるようになっていた。
ウェディングドレスに出会う。
そして、ウェディングドレスに出会う。旅先の、中継地タイで。その中継地を決めたのも、旅行代理店の担当者の「タイが絶対におすすめ」という個人的意見に乗っかっただけ。
今ここまで書いていて、私には自分というものがないのか?と不安になる。それくらい、その場のノリで決断し、ここまで来ている。
ただ、与えられた仕事には一生懸命に向き合った。自分なりに調べて、めちゃくちゃ努力して、そこはちゃんと期待には応えられるように。
与えられた仕事を夢中でこなしていたら。
会社から独立して、個人事業主として仕事をするようになってからも、人に頼まれた仕事をひたすらにこなしていた。
60年代のスウィンギング・ロンドンのイメージでドレスを作りたいと依頼されば、資料になる本をいっぱい買って調べて研究した。
チョコレートバイヤーさんにTV出演用の衣装を依頼されれば、板チョコを何枚も購入して採寸し「板チョコの黄金比率」を算出した。
ちょっと難しいことも、自分なりの必死さで面白がってやっていたら、いつしか形になり、同類の仕事が増えるようになり、エキスパートになる。
お母様のウェディングドレスのリメイクも、自分がそれをしたい!と打ち出したというよりも、「リメイクできますか?」と依頼されたのがそもそものきっかけだったのだ。
ポイントは、「面白がってなんでもやってみる」
これに尽きる気がする。
人から求められた仕事を面白がってしていたら、いつの間にかなりたい自分になっていたりして。
そうして流れ流されて現在に至る。
「その時々の流れと出会いに従っていたらそうなったんですね!」と花嫁さま。
そう、だからあんまり悩まなくてもいいと思う。きっとそうなるようになっている。
遠回りもまた楽し。
ウェディングドレスのデザイン画を描いていて、ハッとしたことがある。
私、お姫様のドレス、描いてる。
そう、子供の頃に好きだったことと、全く同じことをしているのだ。流れに流されてここまで来たけれど、本当は最初から辿り着く場所は決まっていたのかもしれない。
かなり遠回りはしたけれど。
でもそれもまた、面白かったよ。
だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!