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はじめての古文書講座に行ってみた話

このあいだ、はじめて「古文書講座」に行ってみた。

会場は兵庫県・明石市立文化博物館。

明石市立文化博物館

わたしはドレスの仕事のかたわら、通信制大学の大学院で日本の歴史(服飾史・民俗学)に関する研究をしている。歴史の研究をするうえで、避けては通れないのが「古文書」だ。

その古文書を学ぶべく、ふたまわりも年下の「学友」と明石市立文化博物館へ向かった。彼女は、通信制大学で文芸を学んでいる。同じ大学ではないけれど、学びの話ができる「学友」だ。そして、同じくゴールデンカムイを愛する「金カム友だち」でもある。


わたしが古文書を学ぶ理由

あれは忘れもしない。大学院の最初のゼミ(オンライン)で、これから研究していきたい内容を発表していたときのこと。

担当の教官から、

「ところでタケチさんは古文書読めますか?」

と言われ、

「読めません」

と答えたわたし。

みんなの前で「読めません」と答えるのはくやしかったけれど、読めないものはしょうがないよね。かといってそこを避けていても研究が始まらない。

「間に合わないかもしれないけど、避けて通ってたら余計におかしなことになりそうなので、勉強します」って、みんなと先生の前でつい宣言しちゃった。

やれやれ、この性格。

そんなこんなで古文書を独学で勉強し始めてみて思い出したんだけど、わたし、そもそも漢字が苦手だった。(気付くんおそっ)

なのになんでよりよって古文書なのか。古文書は独学で学ぶのはハードルが高い。だれかに教えてもらわないとイメージがわかないぞ。

というわけで古文書講座に行ってきた。いっしょに行ってくれたふたまわりも年下の彼女も通信制大学で学んでいて、学問を愛す同志だ。そして彼女は何を隠そうゴールデンカムイ友だちでもある。まあ、若干わたしがこの道に引きずりこんだ感はあるけれど。

ゴールデンカムイ友だち

そう、うら若き乙女である彼女を『金カム』、つまり『ゴールデンカムイ』の世界に引きずりこんでしまったのは他でもないわたしだ。

それは、わたしが彼女に映画「ゴールデンカムイ」について熱く語ったのがきっかけだった。彼女はもともとアニメ版でゴールデンカムイを見ていたのと、もともと狩猟にも興味があったらしく、映画を見てすっかり秋田のマタギ・谷垣ニシパ(谷垣源次郎)に惹かれてしまったのだ。(また濃ゆいところに行ったなぁ)

そして、それをきっかけになんとマタギの習俗や、近代以降の民俗学的な分野、歴史分野にも興味を持つようになったのだ。

秋田のマタギ、谷垣ニシパ(谷垣源次郎) 京都文化博物館「ゴールデンカムイ展」2022 撮影可能エリアにて

そのことを娘に言うと、

「なんてことをしたんだ!!!」

と、おこられた。

ご、ごめん…。

でもね、明石文化博物館で行われた「古文書講座」のことを教えてくれたのは彼女のほうだった。わたしが「大学院の研究で古文書読解の壁にぶち当たっている」と言っていたのを聞いて、「いっしょに参加してみませんか?」と誘ってくれたのだった。うれしい。

明石ってどんなところ?

兵庫県明石市は、神戸市のすぐ西隣の市で、海が近く気候は温暖。最近は「子育てがしやすい街」として子育て世代に大人気のまち。

駅のすぐそばには明石城跡の広々とした公園があって、博物館や兵庫県立図書館、駅前にはあかし市民図書館がある。あかし市民図書館にはわたしの研究対象(北前船による海運流通)に関する資料がわりと揃っているので、けっこうな頻度で利用させてもらっている。図書館に力を入れているまちはいいまちだ。(持論)

JR明石駅のホームから明石城跡が見える

明石駅を出てすぐ北側が明石城跡の明石公園。

古文書講座の会場である「明石市立文化博物館」では、いまちょうど源氏物語に関する展示をしていた。源氏物語の「明石の君」にちなんでいるんだね。

途中、公園で駅前の「ダンマルシェ」というパン屋さんで買った明太子フランスパンをかじる。

城跡と明太子フランス
美味しい〜

公園には家族連れがたくさん。さすが子育て世代に人気の街。こんな公園があるといいよねえ。

お堀沿いに徒歩5分ほど歩いて明石市立文化博物館へ到着。

はじめての古文書講座

古文書講座は無料だけど、入館チケットが必要。もちろん学割で入場。

会場に入るとけっこうたくさんのひとがいる。70人くらいの定員だったと思うけど、ほぼ満席だった。すごい。そう、こういうところの古文書講座ってすぐにいっぱいになっちゃう。大人気。

会場のほとんどが、皆さん年上の「シニア世代」だった。比較的男性の割合が多かったように思う。わたしもまあまあええ歳なんだけど、それでも若い部類に入る感じだった。みなさんすごい向学心。いくつになっても学べるって素晴らしい。豊かだなあ。

そんななかで、ふたまわり年下の彼女はすぐに見つかった。おそらく彼女がこのなかで一番年下なんじゃないか。

「たぶんこのなかで最年少だろうね」

「でしょうね」

きっと古文書オタクか古典文学オタク

神戸大学からこられた講師の先生も、彼女と同じくらいに若かった。なんならまだ学生のお兄さんって感じ。優しそうで、えらそうな感じじゃなくてホッとした。なんかもっと、おじいちゃん先生を予想していたよ。

でも、ぜったいに古文書オタクか古典文学オタクだと思った。いい意味で。だってふしぶしに古文書やくずし字に対する愛が溢れてた。

「そうなんですよね〜。これ『う』と見せかけて『か』なんですよね〜。くずし字あるあるですよねぇ〜」

なんかうれしそう。わたしはまだ古文書あるあるにはまだ到達できていないけど、なんか楽しいぞ。

そのものが好きな人から学ぶのは、楽しい。

もちろんこの講座は「はじめての」と銘打ってあるだけにかなりやさしいものだったけど、ああこうやって読み解いていくのか、という道すじがわかった。

何よりも、「古文書、楽しいかも」と思えたのがいちばんの収穫。楽しいって思えたらこっちのもんじゃない?

ケンサキミヨシ、それぞれの船

古文書講座が終わって、源氏物語の展示と、常設展示を見た。明石の農業、漁業、文化に関する常設展示。

わたしはやっぱり、船が気になった。明石の船なんだそうだ。

ケンサキミヨシ

展示してある船を見て、すぐに思った。

「ミヨシの形がぜんぜん違う!」

ミヨシとは、船首の波を切る部分のことで、「へさき」ともいう。このミヨシの部分がわたしが今まで見てきた船とまったく違うのだ。

北前船のミヨシはまるっこい (広島県尾道市にて)
ケンサキミヨシはしゅぴっとしてる

これは、ケンサキミヨシといって、江戸時代から昭和30年ごろまで赤石海峡で使われていた船のようだ。

この船は「ケンサキミヨシ」と呼ばれていたものです。「ケンサキ」は漢字で書くと「剣先」。明石海峡の早い流れに負けずに進めるように剣の先のように鋭いミヨシ(水押みよし:船の先たん)を持つ船です。ケンサキミヨシは今から50年ぐらい前まで使われていた魚をとるための船で、船には、とった魚を入れるための場所(いけす)がありました。

明石市立文化博物館 展示キャプションより

なるほどねえ、運行場所や用途によって違うからミヨシの形も違うのかあ。わたしの北前船は(べつにわたしのじゃないんだけど、わたしの担当ってことで)ゴツゴツした岩の多い日本海を運行するのでそのカタチになったのだとどこかで読んだ気がする。(出典すぐに出てこなくてごめんなさい)そういえばミヨシに使う木は山の斜面で採るんだって聞いたな。ミヨシもそれぞれちがってて面白いね。みんなちがってみんないい。うんうん。

ハッ、わたしったらいつのまに「船」オタクになっていたんだろう。

学問としてのゴールデンカムイについて語る

古文書講座と展示を見終わり、お茶をすることにしたわたしたち。

軽くお茶する、つもりが、なんだかんだずーっと喋ってた。2時間くらいは話してたんじゃないかな。まあその内容は、学問とゴールデンカムイにまつわる内容がほとんどだったけど。

例えばこんな話題。

「金カム」がいかに学術的であるかについて、それぞれのキャラクターにはモデルとなった人物がいること、明治という時代について、明治の文学作品と歴史の関係性、日本各地のアイヌ語の地名について、尾形百之助がいかに純文学的な存在であるかについて(個人の感想です)など。

尾形百之助はともかく、ふたまわりも年下だけど、学問(ゴールデンカムイ )について話せる人がいるのはほんとうに嬉しい。

学問とゴールデンカムイ 。

こんなこと、話せるひと少ないから、貴重。

老いも若きも、お互いにまだまだこれから

でもちょっと失敗。学問の話でやたら盛り上がっていたのでわたしはつい、

「(若いから)まだまだこれからじゃない!」

というようなことを口にしてしまった。年をとっているからこう、若いからどうこう、という話ではないのだけど、やっぱり単純にこれからの時間とこれからの可能性がたくさんある彼女がうらやましく思ったのだ。

「タケチさんだってまだまだじゃないですか。だって今日の古文書講座に参加している人たち見ました?」

「あっ、そうよね! わたしだってまだまだこれからだった!」

そうだった。年配の人たちが、みんな、楽しそうに学んでいたではないか。そう、わたしたちはいくつになっても、学べる。

学びが好きな人を見るのもうれしい

それでちょっと思ったんだけど、わたしは学問が好きだけど、学問が好きなひとも好きで、学んでいるひとを見るのも好きなんだなあと思った。それは老若男女問わず。

おじいちゃんやおばあちゃんたちがいくつになっても学んでいるのも素敵だと思うし、若い人がカフェや図書館で勉強しているのを見ても「うんうん、がんばれ!」って思っちゃう。小学生や中学生が調べものをしている姿にもキュンとする。

この感覚は、やっぱり自分が学んでいるからこそ出てきたものだと思う。

だから、自分の研究や、今の学びがこれからどうなっていくのかはわからないけれど、どういうカタチであれ、「学問」に貢献できたらいいなあと思っている。

今日のいちばんの収穫は、そこだったかもしれない。


まとめ

  • 古文書講座はシニア世代に大人気

  • そのものが「好き」なひとから学ぶのは楽しい

  • 「楽しい」と思えたらこっちのもん

  • 明石はいいまちだ

  • 学友はたいせつ

  • 金カム友もたいせつ

  • ケンサキミヨシ それぞれの場所にあうそれぞれの船がある

  • わたしたちはいくつになっても学べる

  • わたしは学んでいるひとをみるのも好きなんだ

  • いつか「学問」に貢献できたらうれしい


最後までお読みいただいて、ありがとうございました!

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タケチヒロミ(Roulottes)
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