花々と星々を縫いとめる|お母さまのウェディングドレスのリメイク
春に手がけたウェディングドレスの物語です。
わたしは神戸でウェディングドレスのリメイクとお仕立ての仕事をしています。最近では、遠方からのお問い合わせも増えてきました。
今回ご連絡をいただいたのは、広島にお住まいの花嫁さま。どんなドレスに出会えるのだろうとワクワクしながら、神戸から広島へドレスをお迎えに行きました。花嫁さまとドレスに会うための、しあわせな日帰り旅です。
お母さまのウェディングドレス
こちらが花嫁さまからお預かりしたドレスです。
ドレスは花嫁さまのおばあさまが手作りされ、お母さまとお姉さまが着られたものだそうです。お母さまが着られたあと、お姉さま用にいちどリメイクされていました。
before 上半身のデザイン
お母さまが着用されたお写真を見させていただいたら、長袖でハイネックのデザインのドレスでしたので、おそらくお姉さま用にリメイクされた時に袖を取り、衿まわりのデザインを変更されたようです。肩部分のレースは後からつけられたもの。
えりぐりにダーツが入っていますが、これはハイネックのデザインから変更したときに、お姉さまの体型に合わせて入れられたものだと思います。
いちどお姉さまの体型に合わせてリメイクされたものなので、花嫁さまが着るとどうもしっくりこないのだとか。姉妹であっても体型は違うのでこれはあたりまえですね。
上半身のデザインは変えてしまっても大丈夫とのことだったので、花嫁さまの体型と雰囲気に合うようなドレスにしていきましょう。
スカート全体についているお花は、お母さまが着られたときからあったものだそうです。オーガンジーとラメの花びらが、ひかえめにキラキラと光っています。花嫁さまはお花はかわいいので残しておきたいとのこと。
ウエスト部分にお花がかためてつけられているところがあり、花嫁さまが着るとそれもしっくりこないのです。原因はすぐにわかりました。
「もしかしてお姉さまの方が小柄でいらっしゃいますか?」
と聞いてみました。
「そうです、姉の方が身長が低いです」
と、花嫁さま。やっぱり。ウエスト位置が違うんですね。
ウエスト位置が違うのにそこにさらにお花がかたまっていたので、すこしもたついた印象になってしまうのでしょう。ウェディングドレスですからウエスト周りはスッキリ見せたいところです。
この時点で、デザインはわたしの頭のなかにほとんどできていました。あとはイメージ通りの素材が見つかるかどうかです。やっぱり、ウェディングドレスに関して言えば、ドレスの実物を見させていただいて、花嫁さまに着てもらったところをこの目で見るのが一番早いなあと思います。
デザインが決まった
リメイクのデザインが決まりました。
トップ(上半身)は、すべて作り直すことにしました。肩ひもでウエスト位置を調整し、モチーフレースをあしらいます。お姉さまのドレスとはすこしデザイン的にも変えたいとのご要望もあったので、スカートにはチュールスカートを重ねることにしました。お花はチュールにもスカートにも縫い付けてふわふわと動きを出す感じにします。
ウエストまわりについていたお花は腰のあたりに移動してかためてつけます。腰の上のほうにボリュームを出すとスタイルも良く見えます。
素材を探しに
ウェディング資材の市場でイメージに合うレースを探します。
条件は、もとのドレスの色味に合い、花嫁さまの雰囲気に合うレースです。さらに言えばお花のモチーフに合わせ、上品なラメが入っているとなおよし。
ぴったりのレースが見つかりました。身生地のオフ白、お花モチーフのアイボリーのレース、ところどころにラメも入っています。お花モチーフと比べてみても、色合い、デザインがあっているため、同じドレスにつけられていても違和感がないように思います。
さらに、このレースにはシルバーの糸も入っているのがポイント。結婚式のテーマカラーを「グリーン、ネイビー、シルバー系」にされたそうなので、テーマにもぴったりです。
仮縫い
今回は上半身だけ仮縫いを行います。
仮縫いとは、別の生地(シーチング)で作った「トワル」と呼ばれる仮縫いのドレスを作って、サイズのチェックを行うことです。
胸のダーツを外したバージョンと外さないバージョンを左右で作ってみて、フィッティングで様子をみることにしました。
今回はトワルにじっさいのドレスのスカートとチュールスカートを重ねた状態でチェックをします。レースもあててみました。いい感じではないでしょうか。
本縫い
仮縫いチェックで広島に行かせていただき、花嫁さまからのOKをいただきました! 必要なパターン修正を行い、いよいよリメイクを進めていきます。
上半身はいちど1枚の布の状態に戻してから型紙をあてて裁断します。みかえしも作り直し、ダーツも縫いなおします。
首まわりのダーツはとりました。これでだいぶスッキリしたのではないでしょうか。
ちなみにもういちどリメイク前と比べてみるとこんな感じ。かなり変化したのがわかっていただけるかと思います。
甘い感じのドレスですが、花嫁さまの雰囲気と結婚式のイメージに合わせて背中を開けて、シャープな印象に。
こちらももういちどリメイク前と比べてみましょう。「いまの時代」のドレスになった気がしませんか?
花々と星々を縫いとめて
ベースができたら、あとはレースや花々を縫いとめていきます。心ときめく作業のひとつです。
お花の花芯のラメがはらはらと落ちてきて、キラキラと光ります。まるで、はかない星々を縫いとめているような気持ちになります。
花々と星々を縫いとめて。
花嫁さまのお名前には「花」という漢字が入っています。花や星や、そういった美しいものに囲まれて、すくすくと育ってほしい、そんな願いが込められているのでしょうか。
わたしはドレスに花々を縫いとめながら、大好きな一冊の本を思い出していました。
犬養道子氏は、犬養毅のお孫さんです。彼女は幼少期に体が弱く、自宅に訪れる(それがまずすごいのだけど)武者小路実篤や岸田劉生、芥川龍之介らの芸術家に囲まれて育ったのだそうです。
体の弱い小さい女の子だった道子にとって、彼らは星々であり花々であったと。そして優しく育ててくれた両親や祖父母もまた、道子にとっては色調ゆたかな花であり、ひときわ輝く星々だったと、この本のあとがきには書かれています。
でもね、とわたしは思います。同じくわたしもじぶんの娘の名前に「花」という漢字をつけたからわかるんです。
両親や祖父母、家族にしてみれば、そこにいる小さな女の子、つまり花嫁さまこそがひときわ輝く星であり美しい花であったのだと。
花々と星々と。
そんな気持ちで大切に大切に、ドレスにきらめきを縫いとめていきます。
仕事のポリシー
もちろん仕事だから、こんな「気持ち」がなくても作業はこなせます。じっさい、つくっているものが華やかなドレスだったとしても、やっているひとつひとつのことは、地道な「作業」であることに他なりません。
そして、新郎新婦さまにとっては一生に一度の結婚式でも、わたしたちにとっては「日常の仕事」でもあります。
でも、ウェディングドレスにはひとつひとつの物語があり、その背景にはそれぞれの家族の物語があります。それをけっして忘れてはいけないと思うのです。
たったひとつの大切な花。大事に育てられた、ちいさなちいさな女の子。その女の子が着る一生に一度のドレス。ちいさな女の子が新しい世界に踏み出す瞬間に、どうかこのドレスがその覚悟を後押しできますように。
わたしはそんな気持ちも、丁寧に縫いとめたいと思っています。
after リメイクドレス完成
ドレスが完成しました。
after フロント
肩を覆うようにレースを縫いとめています。
リメイク前です。
after バックスタイル
こちらがbefore。だいぶ変わりました。
after 全身
after バックスタイル
こちらがbefore
バックスタイルもかなり変わりましたね。
ちゃんと、「花嫁さまのドレス」になりました。
結婚式のお写真とお便り
結婚式のあと、花嫁さまからお写真とメッセージが届きました。(新郎新婦さまの許可を得て掲載)
ショルダーのレース、腰のお花もいい感じです。髪飾りやブーケのイメージにもぴったり。
あらためて、ご結婚おめでとうございます。
花嫁さまからのお便りです。
ああ、よかった。
どうぞ末永くおしあわせに…。
ドレスにはひとつひとつの物語があります。ひとつとして同じ物語はありません。わたしは物語を読むように、ドレスを繕っています。繕うことが好きで、ドレスを愛していて、じぶんの好きなことでだれかに喜んでもらえる。こんなに素敵なことはありません。
・ウェディングドレスのリメイクのお問い合わせは上記InstagramのDMか、プロフィールのメールアドレスにお願いいたします。
・遠方のお客様の場合、ドレスを着た状態を見させていただきたいので、できれば最初はお会いしたいと思います。あとは状況を見ながら、やりとりして決めていく感じです。
・遠方の場合は、神戸のアトリエにお越しいただくか、神戸からの往復交通費をご負担いただいて、わたしが出向かせていただくかのどちらかの方法で対応させていただいております。
最後までお読みいただいて、ありがとうございました。
よい一日をお過ごしください。