定時先生!第7話 だってさ
本編目次
第1話 ブラックなんでしょ
また、放課後には生徒会活動や部活動が始まるが、この間に規定退勤時刻16時40分が過ぎる。こうした集まりを解散させた後、校務分掌の書類作成事務や行事準備に取り掛かる。
生徒指導案件やそれに係る職員同士の報告・相談、保護者対応は突発的に起き、全ての予定を繰り下げる。これらが一段落する夜に、翌日の授業の教材研究が始まるのだ。
この他、遠藤は未経験だが、成績処理期や進路指導期などの繁忙期もあり、教師の多忙の要因は枚挙に暇がない。
遠藤の今のところの平均的な退勤時刻は21時半だ。学級が立ち上がる4月は日をまたいだこともあった。遠藤だけではない。ベテランや、中堅と呼ばれるような先輩教員でも同程度の超過勤務の者はいる。
これだけ働いても、教員には残業代が支給されない。給料月額の4%が一律に時間外手当として支給されてはいるが、これは、昭和41年、つまり半世紀前の教員の超過勤務時間である週あたり2時間30分をもとに計算されており、現在の教師の労働実態とはあまりにかけ離れている。
遠藤は、トイレで北沢と話しているが、本当は部活動が始まるこの時間には、グラウンドの隅にあるコートで、ソフトテニス部に付いていなければならない。万一顧問がいないときに事故でも起きれば、遠藤の監督責任も問われる事態となる。しかし、最近は職員トイレの個室にしばし籠るようになった。昼休みもそうだ。学年棟で生徒を見守らねばならないが、トイレで時間をやり過ごしてししまう。個室内に貼られた不祥事防止ポスターの文言を、そらで言えるようになってしまっている。
遠藤には、北沢は元気そうに見えた。俺は周囲からどう思われているのだろう、俺より北沢の方が評価されているのだろうか、いや、北沢は講師経験もあるし、俺よりできて当たり前だ。そんなくだらないことを考えてしまう自分が嫌になる。
「遠藤くんはさ、どう思われてると思う?」
「え」
「中島先生だよ」
「…ごめん、もう一回言って」
「だからさ、中島英二先生がだよ。周りの先生達からさ、どう思われてるんだろうね」
「どういうこと?」
「中島先生が生徒の間で何て呼ばれてるか知ってる?英二ならぬ定時、中島定時先生、だってさ」