見出し画像

第2章 列島が育む食材 05-03.野菜―和食とダイコン:特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」見聞録 その09

2024年02月09日、私は国立科学博物館を訪れ、一般客として、特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」(以下同展)に参加した([1])。

 

ダイコンは和食に欠かせない食材で、日本は世界で最もダイコンの品種が多く、800種以上が存在する。しかし、1970年代以降は青首大根が市場流通のほとんどを占めるようになった。

近年、各地で在来品種である地ダイコンを保存する動きが盛んになり、一度は栽培されなくなった品種が復活した例もある(図09.01,[2]のp.54-55)。

図09.01.和食とダイコン。


同展で展示されたものを含む地ダイコンは、遺伝資源としても重要であるが、地域の伝統知や食文化に果たしている役割も大きい(図09.02,図09.03,図09.04,図09.05,図09.06,図09.07,図09.08,図09.09,図09.10,図09.11,図09.12,図09.13,図09.14,図09.15,図09.16,図09.17,図09.18,図09.19,図09.20,[3][4])。

図09.02.代表的な地ダイコン産地の分布。
図09.03.向かって左から、沖縄島大根。主な産地:沖縄県。レプリカ。
沖縄の在来種。貯蔵性が高く、正月料理のほか、お祝いの席の紅白なます、切り干し大根などに利用される。
および、
桜島大根。主な産地:鹿児島県。レプリカ。 桜島町で江戸時代から栽培。
火山灰土壌と地温が適して独特の形状になる。柔らかく甘みがあり、切り干し、甘酢漬け、煮物などに向く。
図09.04.向かって左から、米良糸巻大根。主な産地:宮崎県。レプリカ。
西米良村で栽培されており、焼き畑地域での主要食材。耐寒性が強い。煮物やなますのほか、切り干しとして保存食にする。
および、
田辺大根。主な産地:大阪府。レプリカ。
大阪市東住吉区田辺で江戸時代から栽培されてきた古い品種。柔らかく甘みが強く、煮物や甘漬けに向く。
図09.05.向かって左から、岩国赤大根。主な産地:山口県。レプリカ。
岩国市で栽培。鮮やかな朱色と丸い形が特徴で、中は純白。正月の縁起物などに利用される。
および、
出雲おろち大根。主な産地:島根県。レプリカ。
ヤマタノオロチを連想させる姿から名付けられた。 辛みが強く、 出雲そばなどの薬味に向く。
図09.06.向かって左から、聖護院大根。主な産地:京都府。レプリカ。
京都市左京区聖護院が原産。 甘みがあり、苦みは少なく冬の煮物に利用される。
および、
源助大根。主な産地:石川県。レプリカ。 金沢市打木町で1942(昭和17)年から栽培。
重量があり柔らかく甘みがある。おでんなどの煮物に最適。
図09.07.守口大根。主な産地:岐阜県、愛知県。レプリカ。
木曽川や長良川流域の深い砂土地帯の一部で栽培。 まっすぐの長い根が特徴で、1.8m 以上になることも。 肉質は緻密でかたく辛みも強い。 守口漬けが有名。
図09.08.向かって左から、方領大根。主な産地:愛知県。レプリカ。
あま市甚目寺町方領で江戸時代中期から栽培される歴史をもつ。 肉質は締まっており、 風呂吹き大根で知られる。
および、
宮重大根。主な産地:愛知県。レプリカ。
清須市春日宮重町の原産で古くからの尾張名物。 甘みがあり、 水分も多く、用途は幅広い。 いわゆる「青首大根」の元となった品種。
図09.09.信州地大根。主な産地:長野県。レプリカ。
信州に古くからある品種。 肉質がかたく、古漬けでも味が落ちず、 漬物に用いられる。
図09.10.向かって左から、三浦大根。主な産地:神奈川県。レプリカ。
昭和時代初期から三浦半島で栽培されている。重量があり、 煮物やなますに向いている。
および、
大蔵大根。主な産地:東京都。レプリカ。 世田谷区大蔵が原産の白首系大根。円筒形で先が丸いのが特徴。 甘みが強く漬物や煮物に向く。 
図09.11.練馬大根。主な産地:東京都。レプリカ。
練馬区内原産の白首系大根の総称。江戸時代元禄期以前に尾張から伝わったとされ、漬物用と煮物用に分かれる。
図09.12.亀戸大根。主な産地:東京都。レプリカ。
江戸時代後期から江東区亀戸の荒川周辺で栽培。緻密な肉質、 純白で美しい形状の春大根。 漬物、浅漬け、大根おろしなどに向いている。
図09.13.美濃早生大根。主な産地:東京都。レプリカ。
在来の練馬系と亀戸大根が自然交雑したもの。 漬物、 浅漬け、おろしなどに向く。
図09.14.二年子(ご)大根。主な産地:東京都。レプリカ。
東京都の荒川周辺や神奈川県で栽培されている。肉質はかたく辛い。
図09.15.唐風呂(からぶろ)大根。主な産地:栃木県。レプリカ。
足尾町(あしおまち)で栽培されている。 根部のほとんどが赤紫色を帯びる。 漬物、生食に利用 される。 
図09.16.梓山(ずさやま)大根。主な産地:山形県。レプリカ。
米沢市万世町(ばんせいちょう)梓山で生産されている。漬物は人気が高いが、 生産者は少ない。
図09.17.向かって左から、小真木(こまぎ)大根。主な産地:山形県。レプリカ。
鶴岡市日枝(ひえ)で栽培されている。 かたくて小さい。 正月のはりはり漬けは有名。
および、
花作(はなつくり)大根。主な産地:山形県。レプリカ。
長井市花作で江戸時代中期から栽培。かたくて苦い。 一度消失したが、 地元の有志により栽培が復活。 古漬けに最適。
図09.18.肘折(ひじおり)大根。主な産地:山形県。レプリカ。
現在は大蔵村南山滝ノ沢でのみ栽培されている。 根の地上部分の美しい赤紫色が特徴。 辛く漬物にするとおいしい。 
図09.19.松館(まつだて)しぼり大根。主な産地:秋田県。レプリカ。
鹿角(かづの)市松館で古くから栽培されている。そのしぼり汁は日本一といわれるほどの激烈な辛味で、地元での用途は幅広い。
図09.20.安家(あっか)地大根。主な産地:岩手県。レプリカ。
岩泉町安家で古くから栽培されている。凍み大根や煮物、 汁物に使うなど用途は広い。


同展で展示された地ダイコンから、日本各地で食べられている地ダイコンの多様性を改めて痛感した。機会があれば、これらの地ダイコンやその加工品を食べてみたいと思っている。
ところで、あなたが好きな地ダイコンは何ですか?




参考文献

[1] 株式会社 朝日新聞社.“特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」 ホームページ”.https://washoku2023.exhibit.jp/,(参照2024年11月06日).

[2] 特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」ガイドブック,168 p.

[3] 独立行政法人 農畜産業振興機構.“地だいこんの遺伝資源としての価値と全国の地だいこん 東北大学 非常勤講師 佐々木 寿”.農畜産業振興機構 ホームページ.野菜.野菜情報&ベジ探.月報「野菜情報」バックナンバー.発行年月で探す.野菜情報 2019年9月号 目次.2019年08月26日.https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/1909_chosa02.html,(参照2025年01月03日).

[4] 一般社団法人 全国農業改良普及支援協会,株式会社 クボタ.“伝統野菜の品種紹介 【ダイコン編】”.みんなの農業広場 トップページ.農作業便利帖. 野菜・果樹.https://www.jeinou.com/benri/vegetable/2014/06/131320.html,(参照2025年01月03日).

いいなと思ったら応援しよう!