ぼくらが与えられないのは、欲しいものを「欲しい」と言っていないだけかもしれない
あなたは欲しいものを「欲しい」と言えますか?
たとえば給料を5万円上げて欲しいと思ったときに「5万円上げて欲しい」と言えるでしょうか?
日本では「察する」「察してもらう」ことが美徳とされます。阿吽の呼吸。以心伝心。忖度する。空気を読む。それが美しいとされています。
よって、自分から「こうして欲しい」「あれが欲しい」と言うことはみっともないことだ、という刷り込みがありそうです。
ぼくは編集者という職業上、仕事ができる人、お金持ちの人に会う機会が多くあります。そうした人たちに共通することがあります。
・嫌なものを「嫌」と言う
・「これが欲しい」とハッキリ言う
この2つの能力が秀でている、ということです。
普通の人は、相手に気を使いすぎたり、忖度したり、怖がって口をつぐんでしまいます。そして結局欲しいものが手に入らず、飲み屋で「なんでうまくいかないんだろう」と愚痴ります。
日本人は「欲しいものを我慢する」「嫌なことを我慢してやる」のは得意だけれど、「欲しいものを欲しいという」「嫌なことはきっぱり断る」が苦手なのかもしれません。
「本田圭佑の右腕」と呼ばれた男
先日、こんな方にお会いしました。
「本田圭佑の右腕」とも言われ、本田選手が買収したオーストリアのサッカークラブ「SVホルン」の社長もしていた神田康範さん。
神田さんは、ブリヂストンスポーツやサニーサイドアップ、ホンダエスティーロなどを経て、現在は福岡のバスケットボールチームの経営をされています。スポーツマネジメントのプロフェッショナルです。
神田さんはまわりから「交渉の鬼」と呼ばれているそうです。「これが欲しい」「あれが欲しい」「これをいくらにしてくれ」ということをものすごくハッキリと言うのだそうです。
「交渉術」と聞くと細かいテクニックや心理戦を思い浮かべますが、神田さんの場合は特にそういった小細工はしません。ハッキリと「何が欲しいのか」ということを伝える。下駄を履かず、向こうにも下駄を履かせず、ごくごく正直に話す。それが交渉を上手に進めるコツなんだそうです。
神田さんにこんな話を聞きました。
あるものが欲しいときに、中国人はまず半額で提示する。ヨーロッパの人は7割くらいで提示する。そして、日本人は……少し高めに提示する。
たとえば1000円くらいの値打ちのものを「欲しい」と思ったとします。
中国人は「500円で譲ってもらえないか?」と言います。
ヨーロッパの人は「700円ほどで譲ってもらえないか?」と言います。
一方、日本人は「1100円くらいでどうですか?」と言うらしいのです。
笑い話のようですが、考えてみればたしかにその傾向はあるかもしれません。良く言えば「日本人の奥ゆかしさ」なのかもしれませんが、これだけ世界がつながる時代に、これでは世界と闘っていくのは難しそうです。
「早く内定を出してください」
その神田さん。はじめての就職活動のときも、早く内定が欲しかったので「早く内定をください」と人事の人に申し出たそうです。すると本当に早く内定をもらえたと言います。キャリアアップするときも「これくらいの金額をいただけないなら、ぼくは御社には行きません」というような伝え方をするのだそうです。
実はぼくらは、欲しいものを「欲しい」と言ってないだけなのではないか。ぼくはそう思いました。人は言わないとやっぱりわからないもの。「ぼくはこれを望んでいる」「あなたにこれをしてほしい」そう言わないとわからないのです。
もちろん、ハッキリと「欲しい」と言うには、それなりの自信と実力が必要でしょう。実力のない人がただ「これをして欲しい」と言っても空虚に響くだけ。しかし、きちんと実力があり、自信があるのであれば、「こうしたい」と申し出ることは決して悪いことではないはずです。
これだけ多様性があって、ひとびとの背景が異なり、先の見えない時代の中で、何も言わずして相手に自分をわかってもらい、察してもらい、欲しいものを先回りして与えてもらえるなどというのは、幻想に近いのではないでしょうか。逆に言えば、「これを欲しい」と言えさえすれば、案外手に入るような時代なのかもしれません。
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