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おもしろいコンテンツづくりは「悩み相談」から始まる
よく「どうやったら取材が盛り上がりますか?」「どうやったら記事がおもしろくなりますか?」と聞かれることがあります。
ぼくが振り返ってみて思うのが「取材って、たいてい自分の悩み相談をしているなー」ということです。
「株主総会って緊張するんですか?」
「取材なのに悩み相談ってどういうこと?」と思われるかもしれません。
たとえば以前UUUMの鎌田さんの取材をしました。そのときは数日後に何かのセミナーで話さなければいけなかったので、鎌田さんに話し方やプレゼンの仕方を聞いた記憶があります。
鎌田さんもたしか株主総会を終えられたタイミングでした。そこでぼくは冒頭「株主総会って緊張するんですか?」と聞きました。続けて「発表やプレゼンをどうやったら緊張せずにやりきることができるんですか?」と聞いたのです。
すると鎌田さんからこう聞き返されました。
「そもそも緊張して困るのって誰なんですかね? 緊張したら何が悪いんですか?」と。ぼくは「うーん、緊張して困るのは……ぼくですね」と答えたところでハッとしました。
そうか! 緊張しても困るのは自分だけ。ちょっと恥ずかしいなと思うだけなのか! だから別に何の支障もないのか……。鎌田さんは続けました。
「プレゼンの中身さえよければ、少しくらい話し方が下手だろうが大丈夫。そもそも中身が悪ければそのプレゼンは通らないし、中身がよければ多少話し方が下手でも通るはずでしょ」。
この答えを聞いて「めっちゃおもしろいな! さすがだな!」と思いました。当然ながらコンテンツはおもしろいものになったと思っています。
悩み相談は「本音」のぶつかり合い
なぜ、悩み相談をすることがおもしろいコンテンツにつながるのか?
それは双方が本音でぶつかるからです。悩みというのは、当然ながら聞き手の本音です。そして、本音の悩みをぶつけられた取材対象者も「本音」で答えてくれるはずです。
本音どうしのぶつかり合いになるので「悩みを相談し、それに答える」という取材はかならずおもしろいものになるはずです。
もちろん「与えられたテーマ」とか「書かなければいけない話題」はあると思うので、悩み相談だけで終えることはできないかもしれません。ただ、悩み相談をして出てくる回答には取材対象者の個性や考え方の癖が表れます。
よって、アイスブレイクでもいいので、まず悩み相談をしてみると「人となり」が見えてきて、盛り上がるのではないかなと思います。
「初対面で話すとき、緊張しちゃうんですよね」とか「会話が途切れたときに気まずいなと思っちゃうんですよね」とか。本当に悩んでいることをぶつけてみると、意外な答えが返ってきておもしろい取材につながるかもしれません。
「ふつうの人」として素朴な疑問をぶつける
悩み相談とはちょっと違うんですが「素朴な疑問をぶつけてみる」というのもおもしろい取材になるコツです。
目の前の取材対象者は「自分とは立場の異なる人」のはずです。その「自分とは異なる立場」から見える景色とはいったいどういうものなのか? その視点で疑問をぶつけてみるわけです。
昔、ぼくは福岡市の高島市長の本をつくったことがあります。
ぼくは「若くして福岡市のトップになって政治を進めていくというのはどんな気持ちなんだろう?」と思っていました。
どれほど大変なことなのか? その苦労は想像を絶するもののはずです。そこで、そういう素朴な疑問をぶつけてみました。
30代で市長になると、いわゆる「部下」は年上の人だらけのはずです。自分とは違う「派閥」の人も多かったはずです。そういう人とどうやって政治を進めていくのか?
ポイントは「相手が政治家だから」とか「偉い市長さんだから」といって「それっぽい質問」をしないことです。自分が本当に気になっていることを素直に聞いてみる。「取材なんだから」とかしこまらずに、ふつうの人としての素朴な疑問をぶつけてみるほうが絶対にいい。
なぜなら、読者も自分たちと同じようにふつうの人だからです。
株主総会を終えた経営者に対して「今期の売り上げは何億円でしたが、手応えはいかがですか?」と聞くよりも「株主総会って緊張しないんですか?」と聞いたほうがおもしろがってくれたりします。
市長に対して「外でデートとかできなくないですか?」などと聞いてみると意外な本音が聞けるかもしれません。「本当に聞きたいこと」を聞くことで、コンテンツも自然とおもしろいものになるんだと思います。
「取材をしよう」とすると、かしこまってしまって「一問一答」になりがちです。そうではなくて「あの人にどういう悩みをぶつけてみよう?」というマインドでのぞんでみてください。
「事前準備」を徹底的にしたうえで素朴な質問をする
ここまで「悩みをぶつけよう」とか「素朴な質問をしよう」と言ってきましたが、もちろん事前の準備は必要です。
相手に失礼にならないように、
・これまでのSNSでの発信
・雑誌の記事
・手に入るだけの新聞の記事
・ネットで見られる主要なインタビュー
はすべて読んでおく。もちろん著書があるならきちんと目を通す。そうやって取材対象者を自分なりにきちんと理解しておくことは必須です。
ただここで難しいのが、自分が今から書く記事は「何の予備知識もない、事前準備もしていない読者が読む」ということです。
よって、相手のことを徹底的に調べ、現時点で得られる情報は得るのですが、そのうえでふつうの人として聞くことがポイントになってきます。このあたりは、コミュニケーション力の差、経験の差が出る部分かもしれません。
徹底的に調べたうえで、自分の本音の質問をぶつける。それが相手の信頼を獲得しながら、おもしろいコンテンツをつくるコツなのではないかなと思います。
いまはプロの編集者やライターでなくても、noteだったりYouTubeだったり、最近はclubhouseだったり、あらゆる人が「おもしろいコンテンツ」を意識するような時代だと思います。
そのときは、今日の話をちょっと頭に入れておいてもらえると、話も盛り上がってコンテンツもおもしろくなるはずです。