任せ方のコツを経営者に聞いてきた
ぼくは去年まで一人で動いていました。
業務委託をお願いすることはありましたが、組織としては一人。フリーランスでした。職人のように「いかに売れる本を作るか?」「いかに読まれる文章を書くか?」ということだけを考えて働いていました。
しかし、いよいよ一人では仕事が回らなくなってきたのが昨年の冬のこと。そのタイミングで仕事ができそうな若者が目の前に現れたので、思い切って採用しました。
任せてみたら、予想以上のアウトプット
ぼくは会社員時代もずっと平社員で、部下がいたことはありません。なので、はじめての「部下」ができたのです。ここでネックになるだろうなーと思っていたのが「任せる」ということでした。
当然どんどん任せて動いてもらわないと仕事は回らない。社員のスキルも上がっていかない。
一方で、任せすぎたらお客さんに迷惑をかけてしまうことがあるんじゃないか? しかも会社はできたばかり。やっぱり「最高のアウトプットをしなきゃ」とも思っていたわけです。
任せるか、自分でやってしまうか――。
……と、そこまで悩んだわけではありません。
なぜならやることがいろいろありすぎて、「任せる」の一択しかなかったからです。
まず任せてみて様子を見てみよう。すると、思った以上のクオリティの原稿があがってきました。
「あれ? ……すごいじゃん!!」
任せてみたら、実はすごくできるということに気づいたのです。
「できるから任せる」ではなく「任せるからできる」
原稿は、ただ論理的に正しいだけではなくて「ちゃんと感情が乗っているか?」「心地よい空気感か?」「コンテクストは適切か?」など、注意すべき点が無数にあります。なので、いきなり任せるのは酷かなと思っていました。
なのに予想以上の仕事をしてくれたのです。
社員も「任されるとうれしい! やる気が出る!」とよろこんでいます。入社から2ヶ月ほどしか経っていないですが、すでに社員なしには通常の業務はまわらない状態です。
「できるようになってから任せよう」と思っていたら、こんなに早く能力に気づくことはなかったでしょう。まず任せてみたから「できる」ということに気づいたし、今後も任せることでどんどん成長していくはずです。
「プロセス」ではなく「結果」で管理する
この「任せる」ということについて、頭ではわかっていてもなかなかできないだろうな、と思っていたので、かねてからいろんな経営者にアドバイスをもらっていました。
後半は、そのいくつかをご紹介します。
まず識学の安藤さんからは「プロセスで管理するのではなく、結果で管理する」ということを学びました。
ついつい人は「プロセス」で管理しがちです。
部下が作業してる途中で「こうやったほうがいいよ」などと口を出してしまう。「ああ、そこはこうじゃないよ」「あ、そこおかしいよ」と横から言いがちです。
でもそれだと部下はやる気を失ってしまいます。もしくは「どうせ上司がやいやい言ってくるから、適当に仕事をしよう」と思われてしまいます。
そうではなく「結果」で管理することです。
上司は「◯日の◯時までにこういう状態にしてください」という指示をして、期限まで待つ。その結果を見て初めてフィードバックするわけです。
そこで求めたレベルに達していたらOKですし、達していなかったら「じゃあ、どうするの?」と聞いて改善を促す。この繰り返しで スキルは上がっていくのだそうです。
「イズム」を伝承する
代々木上原のレストラン「sio」のシェフ、鳥羽さんには「イズム」ということを教えてもらいました。
鳥羽さんはシェフなので、言わずもがな「職人」です。
ただ鳥羽さん自身がキッチンに立ち続けていては、「sio」は大きくなっていかない。より多くの人をしあわせにすることができない。
そう考え、どんどん新店をオープンさせ、新人をキッチンに立たせるようにしたそうです。
そのときに大切にしたのが「イズム」です。
鳥羽さんがキッチンに立たなくても、鳥羽さんのクオリティを再現できるように「イズム」を伝承させていく。
「イズムなんて、どうやったら伝承できるのか?」と疑問に思うところですが、鳥羽さんが仰っていたイズムの作り方はこうです。
まず、弟子と一緒にご飯を食べます。そのときに「この玉ねぎの感じがいいよね」とか「この卵の半熟ぐあいがいいんだよね」などと思ったことをどんどん口にします。「これはあり」「これはなし」という感じで評価をしていく。鳥羽さんの感性を弟子たちにも浸透させていくわけです。
するとそのうち弟子は「あ、これは鳥羽さんならこう言うだろうな」とか「これはNGを出すだろうな」と思うようになります。
そうやってシェフの感覚を伝え「このクオリティを目指すんだよ」いうことを自然に浸透させていくのだそうです。
クライアントさんに一緒に育ててもらう
鳥羽さんが仰っていてもうひとつ印象的だったのは「お店をお客さんに一緒に育ててもらう」という話です。
これもなるほどと思いました。
信頼がきちんとあり理解あるクライアントさんじゃないとできないことかもしれませんが、お客さんと一緒に会社を育てられたら理想的です。
育てていただきながら、会社をパワーアップさせる。パワーアップした会社は、さらに大きな価値をお客さんに返すことができます。そうやっていいスパイラルに持っていけたら最強です。
※詳しくは鳥羽さんのnoteに書かれています!
「会社としての合格点」を決める
あとは、自分の基準ではなく「会社としての合格点を決める」と仰っていた経営者の方もいました。
「会社が合格とするクオリティ」と「自分の中でのクオリティ」をわけるということです。「職人」としての自分の基準からすると最高点ではないかもしれないけれど、会社として外に出せるレベルを設定し、それを超えていたら世に出す。
そうやって部下がマーケットのフィードバックを直接受ける状態になれば、責任も緊張感も生まれるでしょうし、成長も早くなるはずです。
識学の安藤さんは「社員を世間の風に当てることが大切」とおっしゃっていました。経営者だけがプレッシャーを感じるのではなくて、市場のプレッシャーを部下にも与えてあげる。そうすると勝手にPDCAが回って、部下は成長するのだそうです。
※その話は安藤さんのこちらのnoteで!
「自分がやったほうがいい」は思い込み
安藤さんの言葉で印象的だったのは「まわりは自分より優秀な人ばかり」という言葉です。
「自分がやったほうが早いとか、自分のほうがうまくできると思うことはないんですか?」とぼくが聞くと、きっぱりと「ない」と仰っていました。
ぼくはこれまで職人のように働いてきたので、ついつい「自分のほうができるんじゃないか」と思ってしまいます。「自分のほうがうまくいくはずだ」と考え、「君はまだまだだな」みたいなことを言いたくなる。
でもそれは錯覚なのでしょう。
任せてみたら案外できるものですし、任せてみないとできるようにもならない。「できるようになってから任せよう」なんて思っていたら、その人は一生できないままでしょう。
今後も社員にはどんどん任せて、どんどん成長してもらいたいなと思っています。