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P19 奇跡の世界
彼は何かを込めるように言った。
”現実に対する意味づけは選べる”と
わたしはすかさず反論したい衝動に狩られたが今はそれを抑えることにした。
いや、”彼の意見を聞く”ということを選択した。
「君は相手の意見を”自分への否定や批判”として捉える癖がある。
”お前は役立たずだ”と言われたら、自分を全否定されていると感じるんや。
【そうか、自分は誰にも役にも立てない落ちこぼれなんだ】、とか考えて塞ぎ込んでまうねん。」
私は何もかも見透かされているようで少し抵抗感を覚えた。
「でも、冷静に考えてみ?
そもそも”役たたず”っていったいどういうことや?
能力が欠如しているということなのか、必要とされていないということなのか、相手の期待に答えられないことなのか
相手がどんな意味づけで言っているのか分からへんで?
もしかしたら、現在の君は求めている能力には至らないが将来的に改善してくれるということを期待して、相手はそう言ってくれたかもしれへんねんで?
けれど、君は相手のそんな意図を汲み取らずに自分の世界で、”自分の観念”で判断してしまう。
”自分は必要とされていないんだ”ってね。
それが君の”相手の言葉によって己が傷ついている”という観念や」
私は考え込むしかなかった。
記憶を棚卸しし、検証すべき事例というものが多くあったからだ。
あの時、あの人は私にどういう気持ちで、どういう意図で、私に言ったのだろう。
そして本当に、”私は私を傷つける意味づけをしていたのか”ということを
私は頭の整理をしながら浮かび上がった疑問を聞きたい気持ちに狩られた。
「言いたいことは、その…なんとなく分かるのですが…」
「分かるのですが?」
静かに彼が確認するように復唱する。
「少し、難しすぎる気がして…」
「なにが難しいんや?」
「その…”相手の言っていることを理解する”ということが」
それは少しの疑問と、少しの反論を交えた私にとって勇気のいる発言だった。
「その通りや」
予想外に静かで、確信と同意を伴う返事だった。
「難しいどころか、
この世界が言葉によるコミュニケーョンで成り立っていることが奇跡と言ってもええぐらいや。
コミュニケーションというのは観念と観念、世界観と世界観のぶつかり合いでもあるんや。
不思議なことはなぁ、みんな知らず知らずに”相手が自分と同じ世界に生きている”と勘違いしていることやねん。
さっき君が、”お前は役立たずだ”に対して意味づけをしたようにな。
それが生じてすれ違いや喧嘩になり、
最悪、殺し合いや戦争になるんや」
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