伝家の宝刀『学校給食』にかけられていた呪い
戦後にアメリカ指導のもとで導入された学校給食は、未来の担い手である子どもを栄養失調から救い、農家の生活を向上させた。
終戦直後の日本にとって、暗雲を切り裂くひと振りの剣、まさに光輝く宝刀だった。
しかし、戦後から70年の時が経ち、今や世界でも指折りの豊かな国になった日本。貧しかった頃には気付かなかった呪いが、子どもたちをからめとっていく。
呪いの名は『入札』。
入札とは、複数の業者に納入金額などの条件を提示させ、一番良い条件を出した業者を選ぶということだ。
つまり、一番安い牛乳を子どもたちは半強制的に飲まされることになる。
ここまでの事実を述べた時、厄介な勘違いをする人がいる。
『子どもにそんな高価なものを食べさせる必要はない』
と言う大人だ。僕が子どもの頃にもたくさんいた。
誰も高価な物を食べさせろと言っているわけではない。
数十キロ、数百キロ離れたところから持ってくるものではなく、地域の農家が育てた食物を食べることが自然ではないのか?
僕は牛乳屋になって5年、この質問を数え切れないほど、あらゆる大人に投げかけてきた。しかし、返ってくる言葉はいつも同じ。
「規則なので。規則に従って入札してください」
その規則とは、国が補助対象に選ぶ基準となる規則のことだろう。国が決めたことが全て正しいのであれば、地方自治もなにもあったもんじゃない。
それは正しいのではなく、考えていないだけだろう。
ちなみに、宮崎県学校給食用牛乳供給実施方針にはこんな一文が載っている。
自県産生乳を用いた低温殺菌牛乳等の高付加価値な牛乳の供給の推進を図る。
そう書いてあるものの、小中学生の飲用牛乳を低温殺菌牛乳にするなんて、現実的に無理だよね(笑)、で話が終わる。そして、食育だと嘯きながら、今日も子どもの口に一番安い食品を放り込む。
中小乳業メーカーのほとんどが学校給食を基盤にしている。だから躍起になって入札に安価な価格をつける。製造する牛乳のコストを出来るだけ抑えようとする。
農家の収入は上がらない、その上、大量生産を強いられ美味しい牛乳づくりはさらに遠のく。
そんな負の連鎖が、学校給食を巡ってもう何十年も繰り返されているのだ。