【1話完結】グッバイ、お稲荷ちゃん
ありえない事をしてしまった。いや、ありえない事が起こったというべきか。莉子は神社にあるお稲荷様の像の前で肩を震わせていた。その手には狐のお面が握られていた。ただ彼の気を引きたかっただけ。
初めて彼を見かけたのは夏休み。塾に行く道程だった。莉子の住む街は『市』という名前を冠しているものの、開発の波に乗り切れなかった町村を寄り集めて出来た、野暮ったい街だ。都会の流行りものは二、三年経ってからこちらで流行り出したりするし、商店街もシャッターが閉じたままの店が目立つ。莉子の父は