70年前の食器に新しい呼び名を付けてみた
友人の北欧ヴィンテージ食器店を手伝っています。商品のキャッチコピーを書いたり、PR動画を作ったり。北欧デザインは森のように深く、家のように暖かい。知れば知るほど愛着が湧いてきます。
先日、店主から相談を受けました。
「この商品をどう売ろう」
カップ&ソーサー?
にしてはソーサーが大きい。しかもカップを置く位置が中心からずれています。
どう使うかというと‥…
お菓子を載せます。
この食器セット、当時何と呼ばれていたと思います?
ヒントはこちらの写真。
答えはTVカップ&ソーサー。
テレビが家庭に普及しはじめた1950年代以降、テレビ鑑賞のお供に作られました。北欧でも人気で、最先端の家電のイメージに合うポップなデザインが多かったようです。
これ、意外と便利なんですよ。
コーヒーを淹れてテレビの前に腰かけたら、ひとりでのんびりもぐもぐタイム。大きなソーサーを胸元に引き寄せればクッキーのかけらがこぼれても大丈夫。お菓子だけでなくサンドイッチのような軽食も載せていたようです。
古びた呼び名を
トランスクリエート
あれから70年。
ひとり時間の過ごし方もずいぶん変わりました。
家事や仕事が一段落したらテレビをつけて‥…というよりも、今はスマートフォンやパソコンでしょうか。SNSをチェックしたり、癒やし動画を観たり。
TVカップ&ソーサーという呼び名は今の時代にそぐわないので、店主と話し合って店独自の新しい呼び名を考えることに。
トランスクリエイターの仕事は外国語から自国語へのベクトル変換が基本ですが、今回はその発想を応用。1950年代に愛用されていた食器を2020年代の人々にも親しまれるよう呼称をリニューアルします。
で、決まった呼び名がこちら。
ヒトリフィーカ
ひとり時間にフィーカを楽しむ北欧食器セット、の意味をこめています。
こちらはリーキンクッコのヒトリフィーカ(1961-66年/Arabia)。放射状に広がるデザインがあの鳥に似ていると思いませんか。
リーキンクッコ(Riikinkukko)はフィンランド語で孔雀。カイ・フランクがデザインした端正なフォルムにライヤ・ウオシッキネンがのびのびとデコレートしました。ふたりはアラビア社の黄金時代を築いた名コンビです。
その数年前、スウェーデンではこんなヒトリフィーカも作られていました。
キノのヒトリフィーカ(1958年/Rorstrand)。キノ(Kino)はスウェーデン語で映画。ネトフリやアマプラのお供に良さげなデザインです。
ソーサーのかたちがユニークでしょう。くびれた部分に指をかけると持ちやすいので、室内を移動しながらおやつを楽しみたい人にも便利。つややかな紺色の表面には溝が縦横に走り、見る角度によって表情が変わります。
お菓子を載せるとこんな感じ。
パソコン作業の手元をスマートかつクリーンに整理できそうです。
ヒトリフィーカと
名づけた理由
フィーカというと写真のようなイメージありませんか?
そのイメージ、正解です。
フィーカ(FIKA)は単なる休憩時間ではなく、コーヒーとお菓子を囲んで友だちや家族、仕事仲間と楽しく語り合うひととき。会話が気分をリフレッシュさせ、仕事の生産性を高めます。つまり、フィーカは人が寄り集まって楽しむもの。
だったらヒトリフィーカって変じゃない?
いいえ、ちっとも変じゃないのです。
なぜなら今はリモートで人とつながれる時代だから。
この記事を読んでいるあなたは、もしかしたら今お部屋に一人きりかもしれません。でもほら、こうしてつながっているでしょう。投稿したり、読んだり、いいねやコメントを送り合ったり。今時のフィーカは世界とのつながりを再確認するひとときでもあります。言うなればテレワーク時代のリモートフィーカ。
オンラインのお茶会もいいですね。
パソコンの手元にヒトリフィーカを用意して、おやつをおしゃれに楽しみます。画面の向こうのお友だちから「何それ、かわいい」と聞かれそう。
メタバースやゲームの世界で遊ぶ時にもおすすめです。きょうのおやつはソーサーに盛りつけた分だけと決めておけば、つい食べ過ぎる心配もありません。
こちらはエミリア(Emilia)のヒトリフィーカ(1960年代/Arabia)。孔雀のリーキンクッコと同じコンビによる作品です。
カップに描かれているのは晴れた日のカフェでくつろぐ人々。家族連れやおめかしした女性たちがおしゃべりに興じています。
ソーサーには庭の長椅子に足を投げ出した女性が描かれています。カップを置く凹みのまわりには丹精して咲かせた鉢花がずらり。彼女の左手にスマートフォンを描き足せば、リモートフィーカを楽しむ現代人に見えますね。
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リフレッシュのひとときを心豊かにしてくれるヒトリフィーカ。
春からの新生活に、よかったらどうぞ。
あっ。お店はこちらです。