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道の話 (1)

 皆様、歴史小説家の伊東潤先生と私との対談、お読みいただけましたでしょうか?

【特別対談】早川隆×伊東潤  歴史・時代小説の面白さ -史実と物語の狭間で-


 文字通り、アマチュアに毛の生えたような業界新参者の私が、恐れ多くも歴史小説界きっての伝説的人物と対談させていただいてしまう、という夢のような企画・・・これが、こだま・ひびきの漫才だったら「夢やがなー(チ)」で終わっちゃうところですが、現実です!


 対談中、いくつかダメ出しもされましたが(笑)、合戦描写や心情描写などに高いご評価を頂くことができ、「プロの作品になっている」「これからの執筆活動にも大きな期待が持てる」といった、身に余るお言葉をもあわせて頂戴することができました。

 伊東先生、貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます!


 さて、そんな実り多い学びの場ともなった対談で、もっとも印象的だったのが、物語の舞台となったいわゆる「桶狭間」周辺の地勢、特に当時の道路についての話でした。

 「敵は家康」をお読みいただいた方はご理解いただけると思いますが、同作では、軍隊の「輜重」(補給隊のこと)と、それを通すための道路の確保が、クライマックス・シーンにおける大きなキーワードになっています。

 実際、2万や3万といった、現代でいえば師団規模/戦略単位の大部隊を動かす場合、指揮官がもっとも頭を悩ますのが、実際に敵と遭遇する以前の問題、すなわち、それだけの軍勢を無事に目的地まで移動させることと、そのかん、彼らに満足な給養を行き渡らせること、でした。

 このあたりについては資料も少なく、概説書もあまりありません。もちろん、日本の一氏族の指揮する中世末期の軍隊が、現代軍のように充実したシステマティックな補給を受けていたとは考えにくいのですが、反面、足軽雑兵とも糧食自弁で長期の戦争を戦わなければならなかったとか、欧州中世の傭兵部隊のように、ほぼ全てを現地での略奪前提で進軍していたという極端なイメージも、おそらく間違いです。

 大軍が長期にわたる軍事作戦を行う場合、当時もそれなりに、補給というファクターが考慮されていたはずです。よって、この時の今川軍の東尾張侵攻キャンペーンにおいても、最終目的地であった伊勢湾臨海部(鳴海・大高周辺)へと至る道路状況は、仔細に調査・検討されていたことと思います。


 「敵は家康」を執筆するに際し(約3年前。ちなみにその時はまだ「礫」というタイトルでした)、筆者もかなりそこを意識しました。が、まだ歴史小説の執筆経験皆無だったため、現地周辺(460年前)の道路状況など、それを調べる方法を含めて「???」の状態。

 今なら、幾つかの参考資料をamazonや国会図書館で探し、学会の論文DBを探り、インターネット公開されているものなどを拾うなどして自分なりに仮説を立ててみるところですが、当時はそうした「調べ物スキル」や経験値が全くのゼロで、どうしたら良いかわからず、深夜のファミレスの席で本当に頭を抱えて困り果ててしまいました。

 唯一、手元に持っていたのが地元の桶狭間古戦場保存会(たしか)さんの作成された観光客向けのパンフレット。そこには、三河方面から丘陵地帯を越えて大高城へと至る当時の「大高道」が記載されていました。そこで、その地図をもとに脳内イメージを活性化させ、「自分だけの決戦場」を作り上げ、そのあいまに道路をニョロニョロニョロと幾本も通してしまいました。

 正直な話をすると、「敵は家康」に描かれた当時の道路網は、そうやって私が勝手に創作した、要はほぼ「ファンタジー」と称しても差し支えないものです。このブログの扉に掲げた自作の略図、また実際に作中に入れさせていただいた地図も、そうした私の脳内を反映して、かなりユルいものですね(汗)

「敵は家康」より

 執筆時の私の調査能力の不足、意識の不足を心よりお詫び申し上げます。こうした点は、まだ私の伎倆がプロレベルに達していないことの証左かと思いますが、歴史物語としての本作の面白さを決定的に損なう要素でもないため、敢えて書き直さず、そのままにしてあります。


 当時の道路状況の実相が知りたければ、ぜひ伊東先生の最新刊「合戦で読む戦国史 歴史を変えた野戦十二番勝負」をご覧ください。

合戦で読む戦国史  歴史を変えた野戦十二番勝負(伊東潤)


 ただいま、全国の書店で非常に売れているそうです。この新書(小説ではなく歴史概説書です)の58ページに、「敵は家康」執筆時、まさに私が欲しかった現地周辺の地勢図、道路図がそのまま載っていますね(笑)。ああ・・・3年前に見たかったよぉ!

 もし将来、改稿する機会でもあれば、これを参考資料にして、ストーリーに手を入れてみようかなあ・・・大いに迷うところですね。


 次回も、道路についてもう少し続けます!

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