京都一周トレイル®をゆく #5|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ
「川口さん、ホタルはよかったですね。いやぁ、よかった」
一夜明け、トレイルを再び歩き出してもY内青年はホタルの感動をしきりに口にしました。ぼくだって、野生のホタルを目にしたのは子供の頃以来のこと。それに、ホタルをお目当てにしていたわけではありません。ほんの偶然に巡り会えたのですから、やはり感動はひとしおだったのです。
今日も嵐山を目指して京都一周トレイル®を歩きます。トレイル標識の94番で、ついに北山西部を歩き切りました。ここから先は最後のルート、西山コースを歩きます。
思えば5月に東山コースを出発したとき、展望台から遙か遠くに西山コースを望んだのでした。コースには含まれませんが、西山の雄、愛宕山がそびえているのを東山から眺めていたのです。清滝を経て愛宕山の登山口を通過しました。一泊二日の山行を2回に分け、ついにここまで歩いてきたのです。残るは六丁峠を越え、嵐山を目指すのみ。清滝川の流れは清々しく、朝日を浴びて輝いていました。
舗装された峠道をつづら折れに登り、六丁峠を越えると蘇我鳥居本へと降り立ちました。ここは伝統的建造物群保存地区に指定された、愛宕神社の門前町です。茅葺き屋根の民家が残る情緒溢れる街並みを、嵐山へ向かって歩いてゆきます。
嵐山の名勝、竹林を通過しました。嵐山公園の展望台から保津川を見下ろし、再び川沿いの道をゆくと、渡月橋は目の前です。渡月橋の手前には保津川下りの船着き場があり、川面に浮かぶ船を、船頭が巧みな竿さばきで操っています。
『おくの細道』の冒頭の、こんな一文を思い出しました。
波に浮かんで生涯を送る船頭や、街道をゆく馬子は、毎日旅に身をおいて旅そのものを住処としている。
芭蕉がしたためた名文に、保津川下りの船頭が重なって見えたのでした。馬こそひきませんが、荷物を背負い、トレイルとして現代によみがえった古の街道をゆくぼくらハイカーも、現代の旅人であり旅に身を置いているのかもしれません。
渡月橋は修学旅行生で大いににぎわっていました。
学生をかきわけるように、ぼくらも橋を渡ります。
トレイル標識24番、阪急嵐山駅。
初めに書いたように、京都一周トレイル®はこの先、上桂まで続きます。けれどもぼくらのゴールはここ嵐山。
伏見稲荷からつないできたトレイルの旅も終わりを迎え、ここで筆をおくことにします。
旅は終わりましたが、一片の雲が風に吹かれて漂うように、現代の旅人もまたふらりと流れてゆくことでしょう。
そのときにお会いできることを楽しみにしています。
それでは、また。
旅のデータ
距離:約25.4km
コースタイム:約11時間
コース:二ノ瀬→夜泣峠→向山→洛北発電所→盗人谷→小峠→氷室→山の家はせがわ→上ノ水峠→沢ノ池→神護寺→清滝→金鈴橋→落合橋→六丁峠→蘇我鳥居本→嵐山公園→阪急嵐山駅
アクセス:行き・叡山電車「二ノ瀬」駅|帰り・阪急電車「嵐山」駅
山の家はせがわ
住所:京都市北区鷹峯船水3
電話:075-494-5150
平日11:00〜16:30(ラストオーダー16:00)|土日祝・GW期間・お盆期間10:30〜16:00(ラストオーダー15:30)
定休日:火曜日(火曜日が祝日の場合は、翌日の水曜日が休み)
この記事が参加している募集
よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは私の原動力、そしてクリエイターとしての活動費にあてさせていただきます!