【論文レビュー】キャリア・アダプタビリティ尺度を創る一年前に、同じ著者たちがよく似た尺度を創っていた!?:Savickas & Porfeli(2011)
昨日、中原研・田中研の合同ゼミでJohn Critesのキャリア成熟尺度(Career Maturity Inventory)について文献発表する機会がありました。その際に田中先生から、「キャリア成熟尺度は2011年にSavickasさんが改訂版を再度出しているみたいですよ」と教えていただきました(田中先生、ありがとうございました!)。職業柄(研究柄?)、読むべき論文なので目を通してみたところ、①共著者が2012年のキャリア・アダプタビリティ尺度論文と全く同じ!、②設問数は同じなのに設問項目が全く異なる!、というサプライズがあったので、これらの点を中心にマニアックに書きます。
キャリア成熟尺度とは
キャリア成熟とは、Superの職業成熟という概念をより中長期に時間軸を伸ばして概念化したもので、態度尺度と能力テストの二つで測定できる概念です。詳細については、以前noteで書いたので詳しく理解したい方はご笑覧ください。
その後に改訂が何度か行われており、原著者にとって最後の改訂となった1996年論文はSavickasとの共著です。昨日の合同ゼミで話した内容を一文で意訳的に要約すると、(1)試験時間の短縮、(2)対象を成人レベルにまで拡張、(3)下位尺度の廃止、(4)キャリア開発に活かすためのガイドの策定、(5)採点方法の多様化対応、という五つの目的で改訂したとCrites & Savickasは仰ってます。
キャリア・アダプタビリティ尺度と似ている点
本論文内で著者たちは、既存のキャリア成熟尺度にあった態度尺度と能力テストという二つに加えた新たなフォームとして、キャリア選択準備(career choice readiness)を測定するツールを提供しています。これがキャリア・アダプタビリティの下位次元として想定していたConcern、Control、Curiosity、Confidenceの四つと連動しています。
しかし、確認的因子分析の結果、モデル適合度は十分なものの、高次因子との相関係数の低さからControlを落としています。落ちる前(Figure 1)と、落とした後(Figure 2)の結果図の両方を載せていることから、四つの下位次元で出したかったという強い意志を感じるのは私だけでしょうか。(すみません、邪推です)
高次因子分析を行って高次概念で捉えているのも、2012年のキャリア・アダプタビリティ論文と同様です。下位次元についてはキャリア・カウンセリングや個人でのレビューに用いるものとして著者たちは想定していて、下位次元単位で他の変数と分析することはあまり考えていないのかもしれません。
キャリア・アダプタビリティ尺度と異なる点
他方で、本論文と2012年の論文とで全く異なるのが尺度の内容です。まず、本論文での24設問をご覧ください。
次に、2012年論文の尺度です。
マニアックな感想になるのですが、キャリア・アダプタビリティ尺度をみた時、「なにこの紋切り型??」「strongで五件法にするのはなぜ?しかも真ん中がおかしくない??」「この教示文は何事!?」と不思議に思いました。しかし、本論文を読んだ今となっては、2011年に四つの下位次元で構成できなかったことを踏まえて工夫した結果が、2012年のキャリア・アダプタビリティ尺度なのかなと思い直した次第です。(すみません、再び邪推です)
なぜ自分たちの論文をスルーしているのか?
著者たちは、本論文の翌年(2012年)にキャリア・アダプタビリティ尺度を世に問うています。このnoteを書いている時点で被引用数2,491のスゴイ論文です。その論文では、2011年の自分たちの論文を参照せず、またCritesのどの論文にも触れていません。
ゴシップ的な書き方をすれば、「これからはキャリア・アダプタビリティが重要だ!」「キャリア成熟ではキャリアの事象を捉えられない時代になった!」ということなのでしょうか。(すみません、三たび邪推です)