【論文レビュー】業績達成と部下育成を両立するマネジメントのコツ。:廣松・尾澤(2021)
本論文では、組織業績の達成と部下育成を両立するマネジャーを対象にして、中堅社員の経験学習の促進と内省支援を行うプロセスが明らかにされています。組織業績と部下育成はともすると相反するものと捉えられていますが、両立するポイントを明らかにした本論文は、マネジャーやマネジャーを支援する人事部門にとって参考になる部分が多いように感じました。
廣松ちあき, & 尾澤重知. (2021). 組織業績と部下育成を両立するマネジャーが行う中堅社員に対する経験学習の促進と内省支援の質的研究. 日本教育工学会論文誌, 45(1), 43-65.
本論文では、中堅社員に対してマネジャーがいかに関わるか、に焦点が当たっています。ここでの中堅社員とは、ある程度一人で業務を遂行できる中間管理職手前である入社5〜15年目程度の社員を指します。つまり、手取り足取り教える必要はないのでインフォーマルなOJTが関わり方の基本となる、複雑で繊細なマネジメント・プロセスを明らかにするという興味深い論文なのです。
そのプロセスを明らかにしているのが、M-GTAという質的研究の分析手法(関心ある奇特な方は以下をご笑覧ください)を用いて、モデル図を作成しています。
モデル図はこちら↓。啐啄同時という言葉を用いているのが秀逸だなぁと感じます。こういうセンスのいい言葉を研究の中で用いられる人間に、私もなりたいものです。
このモデル図は噛みごたえのあるものなのですが、著者たちが考察のポイントとして挙げている三つに絞って、私の解釈で以下にまとめます。
①中期的な展望で業績達成支援と部下育成を統合せよ。
優れたマネジャーは、短期ではなく中期的なスパン(具体的には2-3年程度)で自組織のあるべき姿と中堅社員のキャリア志向とをすり合わせて職務アサインメントを行なっているようです。つまり、そうした職務を通じて何を経験させ、その経験からどのような学びを引き出すかを想定しているのです。
成長してもらうためには、中堅社員に試行錯誤や困難との向き合いを組み込む必要があります。ここでどのように組織業績の達成と両立させているかというと、中堅社員の現状と求められている状況とのギャップを逃さずに把握しフィードバックすることで対応しています。
②マネジャー自身も内省せよ。
企業によっては360度フィードバックによってマネジャーが自身を振り返る機会を設け、そこからどのように成長するかを支援している施策をとっているところもあるでしょう。マネジメント能力の底上げやリーダーシップ開発という側面ではもちろん有効です。
しかし本論文で明らかになったのは、優れたマネジャーは自らフィードバックを周囲に取りに行くというプロセスを回しています。それによって自らの言動を修正するフィードバック・サイクルを回すとともに、自分自身を俯瞰して捉えて関与のあり方を内省しているのです。
③仕事を通じて育成せよ。
中堅社員へはストレッチ・アサインメントを行うことで相当な努力をしないと達成できないという健全なプレッシャーを与えることが求められます。こうした経験が中堅社員を中期的な成長に導くからです。
他方で組織としての業績達成のためにはリスクヘッジも求められます。本論文では、バックアップの対応として巻き取る際の基準を明確に持つことで必要な時にすみやかに介入することを優れたマネジャーは行なっていることが明らかになっています。
廣松・尾澤論文は、マネジメントに関して実務の実感値にあった論文が多く、参考になる部分が多いです。過去に書いたものを以下にご紹介しておきます。