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【論文レビュー】メンバーの多様なライフキャリアに対応するためにも「柔軟な人事管理」が求められる!?:江夏・穴田(2021)
よーく存じ上げているお二人による論考を改めて読みました。人事管理論は、私自身の研究領域とは少々遠いように思っていたのですが、改めて拝読してみて多くの示唆をいただきました。ただ単に気づくのが遅いとも言えるのですが。
江夏幾多郎, & 穴田貴大. (2021). 利害調整に基づく 「柔軟な人事管理」 1. 日本労務学会誌, 21(2), 21-43.
ブラックボックスとしての人事管理
人事管理は、組織を取り巻く環境要因の影響を受けて、従業員のパフォーマンスを経て組織のパフォーマンスに影響を与えると想定されます。
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ただ、上の図にあるように、人や組織のパフォーマンスからの影響も受けることにより、複雑な関係性があることは、組織で働いているとイメージしやすいのではないでしょうか。
収束する人事管理から遷移する人事管理へ
変化が激しい環境ということを鑑みれば、高業績作動システム(High Performance Work System:HPWS)を導入し、浸透させることで人と組織のパフォーマンスが向上するという考え方(収束する人事管理)ではワークしない状況になっていると言えます。
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そこで遷移する人事管理という概念を著者たちは本論文で紹介し、収束する人事管理から遷移する人事管理へという流れについて説明し、タイトルにもある柔軟な人事管理を提示されています。
個別化する人事管理
この柔軟な人事管理を、人事管理から従業員のパフォーマンスへという観点で捉えると個別化する人事管理とも言えるかもしれません。著者たちも以下のように述べています。
労使関係は 退潮したのではなく個人化そして多様化したのであって,労働市場の状況を踏まえた提言や異議申し立てを,人事担当者から経営者に対して 行う局面も多くなる。複数の役割を担うのは現場の管理者も同様で,現場の一員であると同時に,従業員にとっては経営者の代理人であるし, 経営者や人事担当者が制定した人事施策の運用責任者である。
マネジャーとメンバーというミクロな関係性に限定して捉えれば、企業における人事管理と整合しつつゆるやかに柔軟な対応をすることで、メンバーのパフォーマンスを担保するという考え方といえます。こうした個別化する人事管理によって、従業員の個別的なイシューであるライフキャリアについても対応することができると考えることもできるのではないでしょうか。