【論文レビュー】キャリア・アダプタビリティが高いとその後のキャリア促進行動が弱くなる!?:Spurk et al.(2020)
本論文が興味深いのは、キャリア・アダプタビリティ(career adaptability:以下CA)とキャリア促進行動(proactive career behaviours:以下PCB)の関係性を三時点で時系列比較している点です。結論として、両者がいずれの時点でも関係していることを明らかにしていることは先行研究から類推できますが、非常に面白いのは、最初にCAが高い(=PCBも高い)人は、その後の時点でPCBが低くなるという点です。
著者たちは、CAとPCBの関係性についての研究が、ある時点における関係のみに焦点が当たってきたことに課題を感じていました。Savickasは、CAをその一部として提唱しているキャリア構築理論(career construction theory:以下CCT)の中でキャリアとは人生を通じて構築するプロセスとしています。したがって、CAを中長期における変遷として捉えることが重要だと著者たちは考え、長い期間における変化を追おうとしたわけです。
まずわかったのは、冒頭でも触れた通りCAが高かった人はその後にPCBが低くなるという点です。その理由には、CAの先行要因であるAdaptive Readinessの中に楽観性が関係します(詳細は以下のブログの「①Adaptivity:影響を与えるもの」を参照ください)。
つまり、CAが高い人は楽観的に将来を捉えるため、PCBを積極的に取ろうとしないのではないかという背景を著者たちは指摘しています。加えて重要なことは、PCBが低くなってもその結果としてのキャリア満足(career satisfaction)を低下させていないということも著者たちは述べています。楽観的に捉えるから意識的なPCBは減るけれども、変化に対応できるという意識はある(CAは高い)ので自身のキャリアには満足しているということでしょう。
直観的には「なんで?」と疑問に思うものの、データの読み解きと考察で「なるほど!」と思わせるこのような論文を書いてみたいものです。いやー、面白かった!