【読書メモ】人事担当者はHRテクノロジーとどのように向き合えば良いのか?:『HRテクノロジーの法・理論・実務』(労務行政研究所編)
人事担当者宛の販促メールの謳い文句の中に、何らかのHRテクノロジーの単語を見ない日はなくなったと言えます。しかし、人事担当者の中には、HRテクノロジーとの向き合い方に戸惑っている方も多いように感じます。本書の第4章では、江夏先生(神大)が「データと感覚を両にらみする人事管理」というタイトルでHRテクノロジーとの向き合い方について述べられています。
エビデンス主導型人事管理
HRテクノロジーがもたらし得る人事管理の新しいあり方としてエビデンス主導型人事管理があります。そのメリットとして、著者は三つの点を挙げられています(200頁)。
確認したい事象の特徴や相関/因果関係の強さが明確になる
意思決定やコミュニケーションの透明性が高まる
恣意性がないサービス提供が、従業員や経営層などに支持される
データ至上主義の危険性
だからと言って、著者は、データに基づくエビデンス主導型人事管理こそがバラ色の解決策であるとは決して述べていません。のみならず、データ至上主義の危険性を提示しています。
端的に言えば、データ至上主義は、人事管理に関する責任主体の問題を生み出しかねません。AIが導き出した施策を、人事担当者が遂行して重大な問題が起きた時、責任は人事担当者が持つべきでしょうが、データ至上主義を信奉する人の場合、その責任感には問題がありそうです。自動運転の車を運転していた人物が自動車事故を起こす時と同じように、データやテクノロジーを盲信することは疎外を生み出しかねないわけです。
データを無視することも危険
だからと言って、データやテクノロジーに背を向けることも危険でしょう。基礎的な統計も理解しない人事担当者は社員にも経営にも不適切なデータを提供しかねません。
たとえば、エンゲージメント・サーベイが流行っているからという理由で導入するケースを想定しましょう。因子分析も理解していない状態の場合、下位項目(カテゴリー)を恣意的に括って、経営にとって居心地の良い解釈を作文する、というような笑えない事態になりかねません。
人事の職務を再定義する
したがって、人事担当者として取り得る方向性は、タイトルにもあるように「データと感覚を両にらみする人事管理」というものにありそうです。そのためには、既存の人事の職務をHRテクノロジーに置き換えるという発想ではなく、自社のビジネスや環境を踏まえた上で、HRテクノロジーの構築や活用によってビジネスに貢献できる人事担当者の職務を再定義することが求められているのではないでしょうか。
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