アカデミー作品賞ノミネート作品「プロミシング・ヤング・ウーマン」
第93回アカデミー作品賞にノミネートされた作品のうち、日本では「サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-」が配信のみ、「ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償」がブルーレイ・DVDスルーとなったので、今回の作品賞候補作品の日本公開はこの「プロミシング・ヤング・ウーマン」で全て出揃ったことになる。
ミニシアター公開でもいいから、「サウンド・オブ・メタル」にしろ、「ユダ&ブラック・メシア」にしろ、劇場でかけてくれよと思う。
「サウンド」はアマプラ配信作品だから劇場公開は難しいのかもしれないが、「ユダ」なんてワーナー映画なんだから、映画館で上映してくれよって感じだ。
長引く洋画不況がコロナ禍の供給不足でさらに悪化してしまった現状では、大作ハリウッド映画と、ミニシアター向けの欧州やアジアの作品以外の洋画、特にハリウッドのメジャースタジオによるアート路線の作品というのは利益が出る望みがないんだろうね。特に黒人差別系の作品というのは。映画好きが見ただけではペイできないということか…。洋画好きの中高年映画ファンがコロナ禍になって映画館から遠ざかってしまったのは大きいよね。
最近、シネコンに行くと洋画に興味がない若者ばかりだしね。
本作「プロミシング・ヤング・ウーマン」もユニバーサル映画であるにもかかわらず、本来のユニバーサル作品の日本での配給担当である東宝東和ではなく、パルコでの配給によって公開されることになったのも、東宝東和は日本では当たらないと思い配給を見送っていたってことなんだろうね。
これで日本で劇場公開された第93回アカデミー賞の作品賞候補全てを見たことになるが(劇場公開が見送られた作品は除く。ただし、「サウンド・オブ・メタル」は配信で鑑賞済み)、候補作の中で個人的に一番面白いと思ったのは「ファーザー」だ。
認知症になった高齢者とその介護をする者に関する問題を描いた社会派ドラマかと思ったらホラーだったからね…。
そして、この作品も女性の権利を主張するいわゆるフェミ思想全開の作品かと思ったら、ブラック・ユーモアたっぷりのホラーだった。
主演のキャリー・マリガンの演技がホラー的というのは、アカデミー賞授賞式の中継番組がWOWOWで放送された際に、現地のCMタイムの穴埋めで解説している日本側の面々がネタバレしていたので何となく分かってはいたが、作品自体もホラーだった。
まぁ、こうしたフェミ的主張全開の作品の主演女優に関してこういう言い方をするとフェミ的な人たちからは批判されるのだろうが、メンヘラ的な主人公は可愛いと思ってしまった。
というか、本作のプロデューサーにはマーゴット・ロビーがクレジットされているが、キャリー・マリガンが演じた主人公の雰囲気ってビジュアル的にも性格的にも、マーゴットの当たり役ハーレイ・クインに近いものがあるよね。
本作の印象としては、最初は見る前に予想していた通り、男を批判したいだけの作品のように感じ、正直言って不快で仕方なかった。
しかし、途中からは、単なる男批判ではなく、名誉男性として男に媚びる女性や、“女の幸せは結婚して子どもを産むこと”的な古い思想の女性も、女性の活躍を阻む要因として批判されているようにも思われ、なかなかバランスの取れた作品だと思った。
そして、本作の最大の魅力は音楽だと思う。
音楽担当のアンソニー・ウィリスによるちょっとおどろおどろしいインストによるブリトニー・スピアーズのカバー“TOXIC”は最高だった。
ここ最近、ブリちゃんの父親からの虐待問題が議論されているが、ブリちゃんの問題は本作の主人公や亡くなった友人に通じるものを感じるので意図的な選曲なんだろうなとは思った。
それから、上映開始間もない頃にはスパイス・ガールズ“トゥー・ビカム・ワン”が流れていたが、多分、幼少時にスパガに夢中になった現在のアラサーのサウンドトラック的な使い方なんだろうね。
そういえば、日本ではスパガといえば、スパイス・ガールズではなくSUPER☆GiRLSのことになってしまったよね…。そして、スパイス・ガールズ出身者で一番のセレブが音楽面での貢献が少なかったヴィクトリアというのもヒット曲を連発していた当時は想像できなかったよね…。
そのすぐ後に、“ハレルヤ・ハリケーン”がかかるのだが、スパガのジェリがソロでやったカバー・バージョンでも、ウェザー・ガールズによるオリジナルでもなく、デスバイロミーによるバージョンでかかるというのはちょっと謎だった。
それから、CYNの“Uh-Oh”も使われていたが、この曲って、シャンプーの1994年のヒット曲“トラブル”が元ネタだよね?
そして、何よりも最高な使われ方をしていたのがパリス・ヒルトンの“スターズ・アー・ブラインド”だと思う。パリスというだけでバカにする人も多いが、バカにされながらもヒットしてしまったこの曲は本当、名曲だと思う!
まぁ、この曲が好きな彼氏のその後の作中における処遇を見ると、やっぱり、パリスをバカにした使い方なんだろうなとは思うが、でも、この曲がかかっているシーンは本当に良かった。
あと、終盤にかかるジュース・ニュートンの80年代初頭のヒット曲“夜明けの天使”の使い方もなかなか良い。この曲が流れる中、クソ男に制裁が下されるシーンの爽快感はなかなかのものだと思う。
ということで、音楽の使い方が良い作品は作品自体の出来も良いという持論にぴったり合致した作品だった。
ところで、本作をTOHOシネマズ新宿で鑑賞したが、入場時の検温で劇場スタッフに“きちんと体温が測定できないからマスクをずらしてくれ”と言われたのは理解不能なのだが。
マスクをずらすというのは、きちんとマスクをしないということだと思うが、そういう状態でないと体温を測定できない機械って意味ないでしょ!
全然、感染症対策になっていないよね。
それから、1席あけての座席販売となっているのは感染症対策のはずなのに、あいている隣の席に荷物を置いている観客が多すぎる!
それは、1席あけた隣の席の人に荷物経由で感染リスクを高めていることになるんだぞ!
本当、TOHOシネマズ新宿に来る観客のマナーって悪いよね…。