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2024年第36回佐渡国際トライアスロン 3年目の挑戦と成長

私にとって、3年連続での佐渡国際トライアスロンは、自分との対話であり、成長の証でもあった。今年もまた佐渡島へ向かい、台風10号の影響で開催が危ぶまれた中、レース当日は奇跡の晴天に恵まれた。これまで準備してきたすべてが、いよいよ試される時が来た。

移動と仲間たち

昨年までは新幹線とフェリーを使って佐渡ヶ島に渡っていたが、今年は車での移動。出発から関越道に向かう道中、台風の影響で大雨が続いていた。「今年は本当にレースができるのだろうか」と不安が頭をよぎるも、関越トンネルを抜けた途端、見事に晴れ渡る空が広がっていた。その瞬間、これまでの準備が無駄ではなかったことを確信した。

両津港に到着後、まず大会の受付へ直行し、その後、島祭りパーティへ。鼓動の太鼓の音が響くたび、心に刻まれるレースへの決意。ここでは、昨年も共に戦った仲間たちと再会し、互いに健闘を誓い合うひとときが広がった。佐渡に来るたびに、仲間たちとの時間がレースの一部だと感じる。

3年間の成長

この3年間、佐渡国際トライアスロンを通じて自分の限界と向き合い続けてきた。1年目は、ただ完走することが目標だった。何もわからず、ただゴールを目指しただけの挑戦。2年目はタイムを縮めることが目標となり、過去の自分を超えたいという気持ちが強くなった。そして今年、3年目。単なるタイムや順位だけでなく、レース全体をどれだけスマートに運べるかという、新たな挑戦が生まれた。

レース前日と準備

レース前日は雨模様。去年まであった開会式は今年はなく、雨の中で淡々と準備を進めた。試泳のために海へ向かい、波の高さや水温を確認。波は少し高かったが、水温は去年と変わらないことに安心した。アミューズメント佐渡のエキスポでは、トライアスロンのレジェンドである宮塚さんからライスジェルを購入し、レースに向けた最後の準備を行った。

佐渡での3年間、少しずつ経験を積んで、自分に必要な準備がわかってきた。初めての年は、何をどのタイミングで準備すればいいのかもわからず、終始手探りだった。2年目には少し慣れて、準備にも余裕が生まれた。そして今年、3年目は特に迷うことなく、スムーズに準備を整えることができた。これも成長の一つだと思う。

スイム

目の前には広がる海が静かに揺れていて、遠くに見えるブイがレースのコースを示している。その景色を目にするたび、これまでの練習や準備の日々が頭をよぎった。だが、不安や焦りは不思議と感じず、ただ目の前の水と自分が一体となる瞬間を待ち望んでいた。冷たい海水が足元から伝わってくる感触は、今から始まる長い旅路のスタートを告げているようだった。

スタートの合図とともに、海に飛び込む瞬間、冷たさが全身を一気に駆け抜けたが、その冷たささえも今では心地よく感じた。まるで、水が私を迎え入れてくれるかのように体を包み込み、緊張感が高揚感へと変わっていく。水と一体化したその瞬間、レースが本格的に始まるという感覚が心に強く響き、これまでのすべてがここに繋がっていることを感じた。波が体にぶつかるたび、それを押し返すのではなく、波に逆らわず、共に進んでいく感覚が自然に身についていた。呼吸を整え、リズムを掴みながら進んでいくと、周りの選手たちの存在も次第に薄れていき、ただ自分と海との対話に集中することができた。

スイムは75分を目標に、海の広大な三角コースを泳ぐ。このコースは毎年のように自分を試し、挑戦者たちにとって最初の大きな壁だ。スタート直後、冷たい水が全身に広がるが、それもすぐに慣れて、呼吸を整えながら進んでいく。最初のブイを目指す間、周囲の選手たちとの距離感が非常に近く、肩や足にぶつかることも少なくなかった。しかし、この接触も今では当たり前のこととして捉えられるようになっている。1年目や2年目では、少しの接触でさえペースを乱してしまい、焦って体力を消耗していた自分がいたが、今は違う。ペースを崩さずに、むしろ周囲の選手たちの動きからヒントを得ながら、自分のリズムを保ち続けた。

海は優しくもあり、時に厳しい。波に押し流されそうになりながらも、その流れに逆らわず、リズムに乗って泳ぎ続けた。最初のブイを無事に回った後、次のポイントに向かって再びペースを上げていく途中、突然首にピリッとした痛みが走った。クラゲだとすぐにわかったが、痛みに一瞬だけ驚いたものの、動揺することはなかった。数年前の自分なら、このアクシデントに大いに焦り、泳ぎを止めていたかもしれない。しかし、今までの経験が私を冷静にしてくれていた。クラゲに刺された痛みは感じたが、今すぐに対処する必要はないことを理解していたので、そのままリズムを崩さず泳ぎ続けた。小さなトラブルに動じることなく、自分を信じて進めるようになったのは、経験の賜物だと感じた。

1周目を終えると、少しの疲れを感じながらも、体はまだ十分に動ける状態だった。水から一旦上がり、軽く水を飲んでから再び海に入ると、自然と体が再びペースを取り戻していた。2周目に入ると、周囲の選手たちもそれぞれ自分のペースに落ち着き、全体のリズムが一つにまとまっているような感覚だった。海の中で、自分と水が調和しているかのような瞬間が訪れる。波の流れに逆らわず、むしろその力を利用して前に進んでいく感じだ。呼吸も乱れることなく、穏やかな気持ちで水をかき、足を蹴り続けた。

最後の直線を泳ぎ切り、陸地が近づいてくると、スイムアップのタイムが頭をよぎった。目標の75分に対して、最終的なタイムは1時間14分52秒。ほぼ予定通りのタイムだが、コンディションが良かったことを考えると、昨年よりも少しタイムが落ちたことが悔しかった。水の中での感覚は非常に良く、ペースも安定していたが、その結果がタイムに結びつかなかったことが少し心残りだった。それでも、今年は体力を温存し、次のバイクパートにしっかりと備えることができていたという手応えがあった。

バイク

スイムを終え、次は190kmに及ぶバイクパートが待っていた。佐渡のバイクコースは、ただ長いだけではなく、Z坂大野亀、小木の坂といった難所が選手たちの前に立ちはだかる。ここでは、体力だけでなく、精神力までもが試される瞬間がいくつも訪れる。昨年の自分が、このバイクコースにどれだけ苦しんだかはまだ鮮明に覚えているが、今年は違った。過去2年間の経験が、冷静な判断を下させ、最適なペース配分と体力のコントロールを可能にしてくれた。

軽くてスピードが出やすいカーボンフレームの自転車を使う選手が多い中、クロモリフレームの自転車でレースに臨んだ。実は、クロモリしか持っていないのだ。クロモリは重く、特に登り坂ではその重さが負担になる。しかし、これが私のバイクであり、これまでのトレーニングでも共にしてきた相棒だ。この重いクロモリフレームで、どれだけ自分の限界を押し広げられるかが、今回のチャレンジだった。

最初に待ち受けていたのは、Z坂。急勾配の坂道を登り始めた瞬間、去年の自分のことが頭をよぎる。去年は、ただひたすらペダルを回し、坂を登り切ることだけを目標にしていた。景色を楽しむ余裕などなく、坂の頂上が遠く感じられ、ただ登り切れればいいという気持ちで一杯だった。しかし、今年は違う。今年は坂の勾配を正確に感じ取り、その都度適切にギアを切り替える余裕があった。ペダルを踏む力も、無駄なく配分し、体力の消耗を最小限に抑えることができた。

クロモリの重さは、坂を登るたびに脚にその負担がのしかかる。Z坂の急勾配では、クロモリの重さを感じるたびに「これは本当に大変だ」と思わされるが、同時に、この重さを受け入れながら登ることが、自分にとっての成長だと信じていた。バイクが重い分、ペダリングのリズムを崩さずに進むことが、体力を保つための鍵だった。ここまでのトレーニングで培った脚力を信じて、一歩一歩、確実に前へと進んでいく。

一方、クロモリの重さは下り坂や平坦な道でその真価を発揮した。坂を登り切った後のダウンヒルでは、重さのおかげでスピードに乗りやすく、安定した走りが可能だった。クロモリならではのしっかりとした走行感が、自転車をスムーズに前に押し出してくれる。カーボンの軽快さはないが、クロモリの重量感がかえって下りでの安定感を与え、スピードが自然と出ていく感覚は心地よかった。

次に待ち構えていたのは大野亀の坂。ここでもクロモリの重さが脚に負荷をかけてくるが、ペダルを踏み込むごとに、筋肉の力がバイクと一体化している感覚があった。坂の勾配に逆らうことなく、ペースを一定に保ちながら、徐々に頂上に向かって登っていく。頂上に達したときの達成感は、毎年感じるが、今年は特に大きかった。

大野亀の坂を越えた後、目の前には小木まで続く快適な区間が広がっていた。ここでは追い風が吹き、クロモリの重さがアドバンテージに変わった瞬間だった。スピードに乗った状態でダウンヒルポジションを取ると、風を感じながら、バイクが軽やかに進んでいく。クロモリ特有の安定感が、風と路面の微妙な感触を吸収し、スムーズに前に進ませてくれる。重さの恩恵を感じながら、余裕を持って景色を楽しむことができた。美しい佐渡の海岸線を眺め、風を受けて進むこの瞬間は、まさにレース中の至福のひとときだった。

平坦な道でも、一度スピードに乗ると、クロモリの重さがかえって有利に働き、快適に飛ばすことができた。特に大野亀から小木の区間では、追い風が吹いていたこともあり、ダウンヒルポジションを取って軽快に進んだ。スピードに乗りながら、沿道の応援にも手を振って答える余裕があった。風を切り、景色を楽しみながら、クロモリでの走行がむしろ楽しく感じる瞬間だった。

佐渡のバイクコースのもう一つの特徴は、道中に現れる地元の方々やボランティアの方々の応援だ。レースを通して、道端で手を振る人々や、ボランティアの方々が大きな声で「頑張れ!」と声援を送ってくれる。その声が、疲労を感じる体に新たな力を与えてくれた。特に、佐渡の集落を通過するたびに出迎えてくれる地元の方々の温かい声援は、この長いコースを乗り切るための大きな励みになった。

とはいえ、レースはやはり厳しいものだ。後半に差し掛かる頃、徐々に左足の小指側に痛みが出始めた。右足の小指の付け根にも違和感が現れ、少しずつその感覚が大きくなっていった。「これもレースの一部だ」と自分に言い聞かせる。この感覚がいつしか訪れることは予想していた。レースには、必ずこうした予期せぬ体の反応が起こるものだ。だが、今年はそれを恐れることなく、受け入れることで心を乱さずにペダリングに集中することができた。

補給も、これまでの経験をもとに的確に行う。自分の体が今何を必要としているのかを理解し、そのタイミングを逃さずに補給食や水分を摂取した。何度もエイドステーションでボトルを受け取り、使い終わったボトルは後方のケージに移し、無駄なくリズムを保ちながら進んでいく。

しかし、終盤に近づくと、疲労が体全体に広がってきた。足の痛みや疲れが徐々に重くのしかかる中、前方に見えたのは佐和田の海岸線。波が穏やかに打ち寄せる風景を目にすると、再び心に余裕が戻ってくる。「あと少しだ」という気持ちが、自分をもう一度奮い立たせてくれた。

最終的に、190kmのバイクパートを終えて時計を確認すると、バイクタイムは6時間54分30秒。昨年よりも30分近く短縮できたことに驚きと喜びを感じた。重いクロモリで挑んだこのレースが、逆に自分の体力と精神力を強くしてくれたことを実感した。

ラン

バイクからランへと移るトランジションで、思いのほか靴を履くのに手間取ってしまった。バイクで疲労が蓄積している中で、靴を履き替えるという単純な動作すらもスムーズにいかない。だが、ここで焦ってはいけないと自分に言い聞かせ、ゆっくりと準備を整えた。ランパートに移行するとき、心の中では「ここからが本当の試練だ」と覚悟を決めた。今年のランは、過去2年間とは違った感覚があった。何度もこのコースを経験していることで、体も心も、どう戦えば良いのかを理解していた。

佐渡のランコースは10kmを4周回する形式だ。美しい海岸線を走るものの、昼過ぎの灼熱の太陽が容赦なく照りつけ、気温が上昇するにつれて体力を奪っていく。走り始めてすぐ、暑さが厳しいことを感じた。過去の経験が頭をよぎり、「この暑さをどう乗り切るかが、レースの鍵になる」とすぐに気づいた。だが、エイドステーションでの補給や体温調整がしっかりできれば、必ずこの暑さも乗り越えられるはずだと信じていた。

最初のエイドステーションに到着すると、ボランティアの方々が笑顔で差し出してくれる冷たい氷とコーラが視界に入る。氷は手渡された瞬間、まさに命の水のように感じた。柄杓で頭から氷水をかけてもらうと、一気に体温が下がり、暑さで火照っていた体が一瞬にして冷える。その冷たさが、まるで心と体にリセットボタンを押してくれるかのようだった。氷の塊をウエアの中に詰め、再び走り始めた。冷たい感触が背中から腰へと伝わり、これが次の数キロを乗り切る力になった。

また、コーラも補給の大きな助けになった。砂糖が含まれる甘さと炭酸の刺激が、疲れた体にエネルギーを与え、気持ちも引き締まる。毎回エイドにたどり着くたびに、ボランティアの方々が手渡してくれる冷たいコーラに救われていると感じた。彼らの「頑張って!」という声援が、足を前に進める大きな力になっていた。

走るたびに、次のエイドステーションが楽しみになっていた。10kmの周回コースは、毎回同じ場所を通るが、ボランティアの方々の変わらない笑顔とサポートが心の支えになった。ランコースには限られた影しかなく、暑さが厳しさを増す中で、エイドステーションでの氷や水、コーラは体を冷やし、エネルギーを補充するための貴重な救いだった。

30kmを過ぎた頃、ふくらはぎに違和感が出始めた。バイクパートとランでの連続的な負荷が、徐々に体の各部に影響を与え始めているのがわかる。この瞬間がレースの分かれ道だと感じたが、ここでも冷静さを失わず、自分のフォームを慎重に調整した。ピッチ走行に切り替え、足の負担を軽減させながら進むことで、痛みを最小限に抑えることができた。

過去のレースでは、この辺りで足が止まってしまい、歩くことが増えていた。しかし今年は違った。3年間の経験が、自分を成長させてくれたのだ。過去の失敗や限界を超えるために、今年は自分の限界を再定義する瞬間だと感じた。ボランティアの方々の応援、補給の助けがなければ、この地点で歩き出していたかもしれないが、氷や水が私を前へと押し出してくれた。

ランのタイムは4時間34分。昨年よりも少し遅かったが、全体的なペース配分や補給戦略を考えると、非常に満足のいく内容だった。

ゴール後

ゴールラインを越えた瞬間、体は疲れ切っていたが、心は喜びで満たされていた。12時間51分というタイムは、昨年から23分の短縮。これまでの努力が報われた瞬間だった。そして、年代別では9位という結果を残すことができた。自分にとってこの順位は大きな意味を持っていた。毎年少しずつ進化してきた自分が、ようやく目に見える形で評価されたことに感動を覚えた。

ゴール後、仲間たちの笑顔に包まれると、何よりも心が温かくなった。完走を祝福してくれるその姿は、まさに自分が求めていた最高の報酬だった。レース中に感じた孤独感や疲労が、仲間たちの言葉一つで消えていくようだった。みんなが頑張った結果を称え合いながら、その場で少しだけ疲れた体を休める時間が心地良かった。

佐渡の夜空に打ち上げられた花火が、ゴール後の疲労感を包み込むように静かに広がっていった。夜空に咲く光の花は、まるでこの3年間の自分の成長を象徴しているかのように感じた。1年目は、ただゴールすることが目標で、走り切るだけで精一杯だった。2年目はタイムを意識し、ただその数字に追いかけられるように必死に走っていた。そして、今年、3年目の挑戦では、冷静に自分のレースを運び、過去の自分と向き合うことができた。これまでの経験があったからこそ、今回の達成感が一層深いものとなった。

翌朝、レースの余韻を楽しみながら向かったのは、佐渡で有名な回転寿司店「弁慶」。店内はトライアスリートたちで賑わい、まるでレースの続きを楽しんでいるかのような空気が流れていた。ネタの新鮮さと美味しさは、まさに疲れた体に染み渡るようで、レースで消耗したエネルギーを一気に補充してくれるかのようだった。特に地元の海で獲れた魚の刺身は格別で、噛むごとに新鮮な旨味が広がった。寿司を食べるたびに、佐渡の自然の恵みに感謝し、この島の魅力を再確認する瞬間だった。

寿司の後は、佐渡で最も古い日帰り温泉「新穂潟上温泉」へ向かった。温泉はレースで疲れ切った筋肉をじっくりと癒してくれる。湯に浸かると、体の緊張が一気に解け、筋肉の疲労がゆっくりと溶けていくのがわかった。温泉に浸かっていると、レース中の痛みや疲労がどこか遠くへ消えていくようで、その瞬間、日々のトレーニングで張り詰めていた自分の心まで癒されていることに気づいた。地元の人々で賑わう温泉の雰囲気も、どこか温かく、島の自然と共に育まれた人々の優しさを感じさせた。

湯から上がると、温泉のすぐ近くの田んぼに目をやった。そこで群れを成していたのは、美しいピンク色の鳥、朱鷺だった。野生の朱鷺を見たのは初めてで、その優雅な姿に息をのんだ。田んぼの水面に映る朱鷺たちは、まるでこの島が自然の楽園であることを象徴しているかのようだった。レースの疲れを忘れさせてくれるほどの美しい光景に、思わず時間を忘れて見とれてしまった。

温泉と寿司に癒され、体も心もほぐれた翌日、島で過ごした時間を振り返りながら、来年への思いを強くした。佐渡の自然の中で、自分は確かに成長してきた。毎年この島での挑戦が、自分を一歩ずつ強くしてくれていることを感じた。そして、また来年もこの島に戻ってきて、さらなる成長を遂げたいと思った。

この先も、挑戦は続く。来年はさらに上を目指し、今以上に成長した自分でこのコースに戻ってこよう。佐渡の海と山、そして仲間たちが、また私を待っている。

朱鷺


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