インパクトのある研究は「研究哲学」から始まる -存在論-:Unit1 Week02
前回の記事ではWeek01で学んだ、研究の成果を考える上で重要なインパクトについて紹介しました。
Week02(2020年10月12日〜)では、インパクトのある研究をする上で欠かせない研究哲学:research philosophyについて学びました。今日の記事では存在論という考え方を土台に、研究哲学における実存論と相対論について書いています。
1. 研究とは?研究哲学とは? -定義と重要性-
研究とは世の中の現象を説明可能な状態にすることで、新しい知識を生み出す行為です。そして、この行為が始まる前から、研究者の頭の中には「この世界はどのように成り立っているか」「知識の獲得はいかにして可能か」といった問いに対する、それぞれの考えや立場があります。
これらの考えや立場を明文化したものが研究哲学であり、研究領域や対象に関係なくあらゆる研究プロジェクトが研究哲学を土台に動き出します。いわば研究プロセスの土台や基礎にあたるもので、研究のスタート地点となります。
研究哲学が定まっていると「世の中はどのように成り立っているのか」「その成り立ちの上で、どのように新しい知識を生み出すのか」といった方向性が明確になります。
逆に、研究哲学が曖昧な状態で研究を進めると勢い任せの研究になってしまい、以下のようなトラブルに高い確率で遭遇することになります。
このような自体を避けるため、授業内で学んだのが研究者の基礎的教養としての研究哲学でした。
今日の記事では研究哲学を考える上での最初の一歩、存在論について紹介します。
2. 存在論:Ontology
かなりざっくり存在論を二分すると「現実は一つしかない」と考える視点と「様々な現実が存在する」と考える視点の2つがそれぞれ対極に存在します。
前者の立場であれば「常に正解は一つ」という発想になり、後者なら「場合によって正解はいくつもあり得る」となります。
Aさんは「万人に共通する幸せが存在する」と世界を捉えており、Bさんは「人それぞれである」という捉え方になります。このように、世の中がどう存在しているかについて扱うのが存在論です。
3. 実存論 vs 相対論
研究哲学の存在論においては、Aさんのような立場を実存論:realism、Bさんの方は相対論:relativismと整理されています(Moon et al., 2014)。
もう少し説明を加えると、実存論の発想は次のようなものです:
一方の相対論ではこうなります:
どちらも対極の考えであるため両者の間にはグラデーションがありますが、あなたはどちらの考えの方により親近感をもつでしょうか?
僕の場合、イノベーションや起業家精神のエコシステムを専門領域としており、研究対象は広い意味での社会現象になります。社会という存在自体、人間がいなければ成立しない現象であると考えており、その社会を構成する人間はそれぞれ異なる考えや感情を持っている、と捉えています。
どちらかというと相対論よりですね。ただし、社会現象が完全に相対的なものであるとは考えていません。例えば、ある企業が雇用している従業員の数だったり、その業界における平均賃金だったり、明らかに一つの解釈しかできない現象も社会には存在します。
よって、僕個人の研究哲学は「社会全体は、私たち人間がそれぞれ考え感じる主観的な要素と、共通認識を持つことができる客観的な要素の両方によって、互いに影響し合いながら成り立っている」というものになります。
まとめ
研究哲学において重要な要素である、存在論についてかなり簡単に紹介しました。実存論の立場に親近感を覚える人もいれば、相対論の立場に親近感を覚える人もいるでしょう。
個人的には、自然科学は実存論、人文科学は相対論、そして社会科学は両方をミックスさせて研究すると相性が良いのではないかと感じています。
次回の記事では、理論構築を行う際に重要なもう一つの研究哲学の視点、認識論:Epistemologyについて紹介します。
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この記事の執筆者:柏野尊徳(Takanori Kashino@アイリーニ)
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