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腐女子同好会とオサラバした、ユーミンが神の高校時代 【SIDE-B】
先日、高校時代の友人たちに誘われ、数十年ぶりに再会を果たした。彼女らは古典文芸同好会の仲間だ。幽霊部員の私を懲りずに誘ってくれ、久しぶりに盛り上がった。
昔話に花が咲き、私もついつい黒歴史のような過去を思い出す。
幽霊部員になったのには理由がある。この同好会には許しがたいムードが漂っていた。いまでいう腐女子の集まりだったのだ。
古典を愛する女子が集まり、和歌を始め、色恋ものが花盛りの古典文学を読みあさる。お気に入りの歌人を見つけては追いかけ、自分のアイドルにするというお決まりパターン。
我が校は自由精神を高らかに謳う女子校である。おかげで不良こそいないが、別の意味で暴走、暴走、また暴走。
かの「源氏物語」も「宇治拾遺物語」にも爆笑とエロスが満ち満ちている。古典愛読女子たちはオリジナルな現代訳の同人誌を作り、ライフワークのように勤しんでいた。
そりゃあその手の活動が全てではない。でも部室には稲垣足穂の『A感覚とV感覚』『少年愛の美学』みたいな耽美系本、タカラヅカのレコードやパンフがズラリ。この嗜好性、まさに元祖・腐女子の巣窟である。
こうなりゃ古典なんて関係ない。
私も在原業平サマをアイドル化していた一方で、「この魔境から抜け出せ」という、強烈な心の声と戦っていた。
だってその頃、私の神様はユーミン(松任谷由実)だったんだから。
ユーミンの音楽は、オシャレで都会的で、スキーと海。太陽の下、濡れたシャツを胸の下で結んで日焼けの肌をさらす世界。月のゲレンデに銀の線を引きまくり、恋人がサンタクロースのクリスマスなのだ。
いつでも隣にかっこいい男の子がいる世界。彼らはカラスの群れのようなサーファーだったり、外国へ行った年上の彼氏だったりする。
なのに我々は何? 隣にいるのは蹴鞠と夜這い文化の古人か? マヌケな秘め事談義を読み、爆笑している年頃じゃないだろう?
ああやだやだ。こんな同好会にいるから私は夏でも真っ白だし、サーフィンどころか運動オンチで5メートルしか泳げない。
いくらユーミンが好きでも、レコードなんか1枚もないじゃないの。我が家はお小遣いではなく、欲しいものは親に申請する制度。購入許可は洋楽オンリー、泣いて反抗するも無駄骨だった。
80年代、ヒット曲はラジオが命だ。今みたいに何でも好き放題聴けるなんて夢の夢。
あとはレコードを持ってる友だちや、テープに録音してくれる友だちが頼みの綱。こうなりゃ試験対策ノートを必死で作り、交換交渉に精を出すまでだ。
深夜に及ぶ努力が実り、荒井由実時代から松任谷由実まで、アトランダムに聴く幸せにどっぷり浸った。
習い事のクラシックピアノなんかはそっちのけ。ユーミンの曲をコピーして弾きまくり、自分の体に染み込ます日々である。借りたアルバムを返した後は、自己演奏で再現するのだ。
そのうち自分の価値感が、「オシャレ」か「オシャレじゃない」かで二分されていく。
勿論、元祖・腐女子の皆さんは全然オシャレじゃないほう。ためらいもなく決別である。
さよならだけが人生だ。
退部は面倒なので幽霊部員を決め込んだ。現在ではとっくに廃部になったこの同好会だが、邪な活動はほんの一部。名誉のために書いておくが、皆さん普段は聡明な文学少女たちである。
ではこの私、同好会を無視して帰宅していたかというとそうではない。その時間、なぜか男子校訪問の放課後が待ち受けているのである。
(次回『男子校放送部、プログレッシブな戦いの果て』に続く)
◉【SIDE-B】とは、筆者の体験談や思いだけを綴るエッセイ記事です◉
*サムネイラスト photoAC もにょれいん
*一部、歌詞を引用して文章化しています。