1)選択的夫婦別姓への賛成者が急減?
選択的夫婦別姓に関する調査が公表されました。
この調査は「家族の法制に関する世論調査」といい、最新の調査は2021年に実施されました。前回の調査は2017年です。
2017年は、選択的夫婦別姓に賛成する人は42.5%でしたが、2021年は選択的夫婦別姓に賛成する人の数が急減し、28.9%になりました。
朝日新聞によると、選択的夫婦別姓制度について「導入に賛成の割合が、調査を始めた1996年以降で最低」となったそうです。
選択的夫婦別姓に賛成する割合が急減した理由は何でしょうか。
4年間で日本人の価値観が大きくかわったのでしょうか。
実はこの急減の理由について、質問項目が変わったことが原因ではないか、と上記の朝日新聞では指摘されています。
今回その指摘を受けて、調査項目を精査した結果、色々と興味深い違いを見つけることができました。
実際にどのようにかわったのか、ご説明します。
2)2017年の調査は選択的夫婦別姓がないことの不都合を強調した設問に
2017年と2021年の調査を比較して特に目立つのが、2017年は
選択的夫婦別姓がないことにより、不便を感じる人がいることについて、あなたはどう思うか
という趣旨の質問が多いことです。
2017年には
-男兄弟のいない女性の中には、実家の姓がなくなることが理由で結婚しない人がいると思うか
-実家の姓を残すために結婚をしないことがあるとして、あなたはどう思うか
という趣旨の問がありましたが、2021年には削除されていました。
同様に、2017年には、
-結婚によって姓を変えると、今までの自分が失われてしまったような感じを持つ人もいると思うか
-結婚によって姓が変わると、今までの自分が失われてしまったような感じを持つ人がいるとして、そのことについてどのように思うか
という趣旨の問もありましたが、2021年には削除されていました。
さらに
2017年の調査では
-内縁の夫婦は法律上は正式な夫婦として認められないが、そのような男女についてどう思うか、という質問がありましたが、これも削除されています。
2017年の調査では、これらの質問がされた後に、選択的夫婦別姓についてどう思うか、という趣旨の質問がされました。
全体として、2017年の調査では、選択的夫婦別姓がないことの不都合に関する質問は多く設定されていましたが、逆に選択的夫婦別姓を導入することの不都合に関する質問はすくなかった、という状況です。
(1)選択的夫婦別姓がないことによる不都合について、いくつも考えを聞かれた後に、「さあ、あなたはどう思いますか」と聞かれる場合と、
(2)そうでない場合
を比べれば、一般的には(1)の場合に、選択的夫婦別姓に賛成する人が増えるのではないでしょうか。
2017年は選択的夫婦別姓がないことの不都合をより深堀りした結果、選択的夫婦別姓に賛成する人が増えたという可能性もありそうです。
3)2021年の調査は、逆に選択的夫婦別姓の導入による不都合についての問が追加
2017年の調査は、選択的夫婦別姓がないことの不都合についてどう感じるかを聞く設問が多く設定されていましたが、上記で記したとおり、2021年にはそれらの設問は減りました。
「減りました」といった理由は、そのような設問が、まったくなくなったわけではなく、より一般的、包括的に選択的夫婦別姓がないことの不都合を聞く形で設問が2021年には新たに作られたからです。
さらに2021年では、選択的夫婦別姓を導入する不都合について聞く質問が追加されています。夫婦の姓が違うことで、子どもにどんな好ましくない影響があると思うか、という趣旨の問です。
2021年は、2017年に比較すると、選択的夫婦別姓が実現した場合の不都合についても、深堀りしようという行政側の意図を感じます。
4)2017年も2021年も肝心の設問が分かりにくい
このようなアンケート調査では、聞きたいことが正しく伝わっているかを意識する必要があります。かといって正確に伝えようと書き込みすぎるのも、よくありません。問いが複雑になりすぎると、読む人の読解レベルが高くないと内容が伝わらないからです。
シンプルに、わかりやすくすることが鉄則です。
そのような観点で今回の肝である、選択的夫婦別姓制度の導入についてどう思うかという問いを2017年と2021年で比べてみます。下記の問、理解できますか?
2017年の選択肢については、この手のアンケートを役人時代から読み込んできた私でも、何度か読み返さないと理解できません。一方で、2021年の設問が分かりやすいかというと、必ずしもそうではないように感じます。表の意味を理解するのも結構大変です。
加えて、この問にいたるまで回答者は、たくさんの設問に答えてきて疲れていることは想像に難くありません。ぼーっとした頭で、この複雑な問の意味を理解して回答できているのか、怪しいような気がします。
5)2017年と2021年で選択肢の順番が変わった
また、4)で取り上げた選択的夫婦別姓への賛否を問う質問を、細かく見てみると、実は選択肢の順番も変わっています。
2017年は
1)夫婦同姓制度の維持(29.3%)
2)選択的夫婦別姓の導入(42.5%)
3)旧姓の通称利用の促進(24.4%)
の順番で、2021年は
1)夫婦同姓制度の維持(27.0%)
2)旧姓の通称利用の促進(42.2%)
3)選択的夫婦別姓の導入(28.9%)
の順番になっています。(カッコ内はその選択肢を選んだ人の割合)
集中力の切れた回答者の一部が、選択肢をよく読まずに無難(だと思われる)に真ん中の2を選んだ可能性も捨てきれません。結果的には、2017年も2021年も真ん中の選択肢を4割超の人が選択し、最多となっています。
6)まとめ
他にも2017年の調査は個別面接でしたが、2021年の調査はコロナの影響で郵送で行われるなど、そもそもの調査のやり方にも違いがあったこともあり、内閣府も報告書で2017年と2021年の結果を単純比較しない、としています。
世論調査はその推移を追うことで、日本人の考え方の変遷を知ることができる貴重なツールです。このような日本人の在り方を規定するような調査については、バイアスのかからない形で長期的な変化がみられる仕組みにすることが望まれます。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
フツウの人が政策を変えるにはどうすればいいか、そのコツについて伝えるノートを書いています。興味を持たれた方は是非読んでみてください