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【ダイバーシティ】異文化と多様性、2つの研究の接点にある「インクルージョン」(小山、2023)

今回は、最近のダイバーシティ・マネジメント研究のトレンドをわかりやすく示している、以下の論文をご紹介します。

小山健太. (2023). 異文化マネジメント研究とダイバーシティマネジメント研究の統合的検討: 研究ノート.

この研究は整理や論理展開が秀逸で、異文化マネジメント研究に対する批判や、その批判に対する検討視点としてのダイバーシティ・マネジメント研究の応用、そのポイントとしてのインクルージョンに触れています。
実証研究ではありませんが、参照点としては最適の文献でした。


どんな論文?

比較的歴史の長い異文化マネジメント研究に、ダイバーシティ・マネジメント研究を活用することでの発展可能性を論じ、どこに接点があるのかを整理した論文です。

昨今、人事界隈でも目にすることの多い「コーポレート・ガバナンス・コード」ですが、2021年に改訂され、以下の文言が追加されたようです。

補充原則2-4 ①」には,「上場会社は,女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等,中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに,その状況を開示すべきである。
また,中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み,多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである」

P161

このように、ダイバーシティ・マネジメントの状況開示が企業に求められる、異文化マネジメントを含めたダイバーシティ・マネジメントを充実させる必要性を紹介します。

その上で、異文化マネジメント研究やダイバーシティ・マネジメント研究、両者の接点であり、異文化の相互作用や活用に有効と考えられる「インクルージョン」概念や、両者をうまく統合した研究例などを説明しています。


異文化マネジメント研究

誤解を恐れずに簡単に纏めてしまうと、異文化マネジメント研究が以下のような変遷を経て、異文化を活かす方向に進んでいると筆者は述べています。

  • 異文化マネジメント研究は、Hofstedeの文化・国民性の違いに関する研究に端を発し、GLOBEプロジェクト、Meyerのカルチャーマップ、Hochの国民文化研究など、異文化「差異」に焦点が当てられてきた(各研究の詳細はここでは割愛します)

  • しかし、このアプローチは、国民が同質的な価値観を持っているという前提で、「平均値」に着目し、国家内部の「分散」(多様性)に注意が払われていない点に批判もある

  • そこで、異文化「接触」の研究の必要性が高まる。異文化の持つ「差異」によるネガティブな事象(不信,不和,ミスコミュニケーションなど)だけでなく、「差異」を個性として捉え活かすこと、つまり異文化接触のポジティブ面(創造性の向上など)に関する分析に注目が集まる

  • 企業現場でも創造性・イノベーションの必要性が高まり、そのための要素として、多様な考え方や価値観の衝突、およびそれによるブレイクスルーが目指されたことも、異文化「接触」への注目の背景にある

また、異文化マネジメント研究と、ダイバーシティ・マネジメント研究の接点として、文化的多様性(Cultural diversity)が紹介されます。

文化的多様性は、「発散プロセス」(多様なアイディアや意見がみられること、問題解決の方法が多様化するなど)を増幅させる一方、「収束プロセス」(価値観の一致や行動の一貫性など)を減衰させるというプラマイ両方の側面を持ち、両者が緊張・トレードオフ(Tensions and tradeoffs)の関係にあるるようです。

また、各プロセスの影響にも、以下のようなプラマイがあるようです。

■発散プロセス:創造性の増大(+)、コンフリクトの増大(-)
■収束プロセス:集団浅慮の抑制(+)、結束力(Conhesion)の減少(-)
集団浅慮(グループシンク)とは、集団での合意形成時に、楽観性や批判的意見の軽視などが起こり、個人での意思決定よりも失敗するリスクが高まる、というものです。以下にわかりやすい解説を貼っておきます。

この文献は、企業現場では異文化チームの正の影響のみが強調され、負の影響を抑制するための対応がなされないことが多いことや、正の影響を強化し負の影響を抑制する調整変数を究明する必要性がある(Stahl & Maznevski, 2021)ことを指摘しています。

そのためには、異文化の持つ多様性を、どのようなプロセスによってプラスを高め、マイナスを押さえるか、という、ダイバーシティ・マネジメント研究の知見が活用できそう、というわけです。


ダイバーシティ・マネジメント研究の「諸刃の剣」

筆者は、多様性にもプラマイ両面があることを紹介しています。

■多様性のポジティブな面:創造性の促進,貢献意欲の向上,市場での適合性の向上、イノベーション,経済的な競争優位性の向上など

■多様性のネガティブな面:団結力の低下,コミュニケーションの減少,内集団と外集団の意識の強化,不和・不信の助長,品質の低下,マーケット志向の欠如、対立・不信・集団間緊張などの高まり、労働意欲の減少,社会的・経済的にネガティブな結果の助長など

これらの「諸刃の剣」をマネジメントする上で重要となるのが、「インクルージョン」です。

筆者は、年齢,性別,人種・民族などの属性、つまり表層的ダイバーシティというより、態度,価値観,知識,スキルといった深層的ダイバーシティを「個性」(Uniqueness)と捉え、個性発揮の価値と帰属感の2つで構成されるインクルージョンの大切さを説き、

「ダイバーシティの「諸刃の剣」に対処するためには,深層的ダイバーシティのほうに着目して,一人ひとりの個性が発揮されるようにすることが必要となる」

とまとめ、そのためのアプローチとして、インクルーシブ・リーダーシップにも触れています。

また、異文化マネジメントの研究は、国民性や国民文化といった「表層的」ダイバーシティへの着目であり、「深層的」ダイバーシティの観点が少ないことから、後者の研究を統合的に考えることの有用性や、応用例を紹介しています。(ここでは詳細割愛します)

感じたこと

インクルージョンの有用性が、異文化マネジメント研究と、ダイバーシティ・マネジメント研究の接点から説明されている点が秀逸だと感じました。また、多様性のプラス・マイナスがわかりやすくまとめられており、頭の整理にもなります。

加えて、上述した「国民が同質的な価値観を持っているという前提で、「平均値」に着目し、国家内部の「分散」(多様性)に注意が払われていない」という表現は、大変参考になりました。

統計的な分析には、「平均値」に光を当て、それ以外の周縁を捨ててしまうという難しさがありますが、「分散」を見ることで、ばらつきや多様性にも目を向ける、という視点を持たねば、と考えさせられます。

この論文は、今後も何度か復習することになりそうです。まさに、「巨人の肩に乗る」ように、胸を借りたいと思う、そんな良文献でした!


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