見出し画像

【マネジメント】『イメージとマネージ』(平尾誠二・松岡正剛)を読んで

最近、少し体調を崩していたので、積読となっていた書籍をパラパラと読んでいました。(学術書や論文は頭に入ってこなかった・・・)

今回は、積読シリーズの中から、ラグビー界のレジェンドである故・平尾誠二氏と、編集工学研究所所長の松岡正剛氏の書籍と金言の数々を紹介します。


どんな書籍?

1996年に集英社から発刊された書籍で、平尾氏と松岡氏の対談がベースとなったものです。平尾氏のラグビーに対する考え方、戦術、コミュニケーションなどを松岡氏が引き出していくのですが、平尾氏の考えていた「インテリジェント・ラグビー」の素晴らしさや、松岡氏の「翻訳力」にほれぼれします。

私が立教大学大学院リーダーシップ開発コース(LDC)で学んでいる際に何度か耳にしたのが「イメージできないものはマネージできない」、という言葉でした。どれだけイメージを具体的に、解像度高く持つかの重要性をびしっと指摘した言葉です。

しかし、この本を実際に読むと、イメージとマネージは、それ以上に深いものを指していたことがわかります。

平尾氏の卓越した考え方と、それを引き出す知識豊富な松岡氏のやり取りは、この書籍が20年以上も前に編まれたものとは思えない「本質感」を感じさせてくれました。


金言の数々


1.イメージとマネージについて

松岡「マネージをイメージして、またイメージをマネージする。ふたつは一緒に考えられなければならないでしょうね。ところがこのふたつはついつい分離するんです。なかなかつながらない。また、マネージが得意な人とイメージが得意な人も別々になってしまうことが多い。でも、スポーツでも、また企業や文化でも、実はマネージとイメージは切り離せないんですね。」

平尾「僕が考えてきたラグビーは、まさにマネージとイメージをつなげることなんです。」
「ポジションに必要とされるスキルはマスターしなきゃならないわけです・・・(中略)・・・つまり、スクラム中のボールをマネージできなければ、しょせん話にならないわけです。ところが、これだけではラグビーにはならない。やはりそれぞれのプレーヤーにはイメージがなくてはならないわけです。しかもそのイメージはかなり豊富である必要がある。ひとつだけのイメージは実はマネージと同じで、それはスキルなんです。そうではなく、たくさんのイメージを思い浮かべて、自分のアタマの中でラグビーを拡張していかなければだめなんです。イメージの多様性が拡張を生む。」

P12-13

2.データ(静的なもの)と感覚(動的なもの)

平尾「とくにラグビーのゲームは、データよりも感覚で動くものなんです。感覚というと、あまりにも頼りない話というか、不確実性があるような気がするけれど、そんなことはなくて、僕はいちばん確実だと思う。というのは、そこに自分の本性が出てくるわけですから。
そこに自分の経験や考え方も全部含めて、ぱっと瞬間的に出てくることは、それを本能ではじき出しているところがあるんですよ。逆に時間があり過ぎると、余計なことを考えてしまうからダメなんです。テンポの速いゲームの方が考えさせてくれないからいいんです。」

松岡「よくわかるなあ。本を読む時でも文章を書く時も、企画を立てるときもね、あまり時間を掛け過ぎるとダメですね。読書も運動量が増えて、スピードに乗らないとだめでね。それが情報感覚というものです。
仕事と同じですよ。企画も中に入り過ぎると見えなくなる。企画というフィールドを自分の目が失踪できるくらい、知的本能による情報感覚を持ってなきゃまずいんですね。」

P22

3.相手にイメージを喚起させるコミュニケーション

平尾「岡さん(同志社大学ラグビー部監督)は大学教授だったんですが、彼は日本のスポーツ界における画期的存在じゃないかと思います。(中略)「これをしろ」とはまず言わない。言う時も、物事を言い切らない。「このときはこう行けるでえ」とか、「こういう考え方もあるでえ」とか、いろんなやり方を紹介するんですよ。でも結論は出さない。あとはお前ら決めたらええやないか、といなくなっちゃうんです。それで僕も考え方の幅というか、目の向けどころもいろんな角度でできるようになりました。」

松岡「なるほど。それはイマジネーションがプレーヤーに残る指導法ですね。マネージメントよりもイメージメントを重視している。いまスポーツ界全般にいえることですが、カタチだけを教える。いい結果が出た時はよしとなるけれど、負けた時は、個人の精神や態度まで批判される。これでは、イマジネーションの入る余地はないですね。」

P45-46

4.コミュニケーションのタイミング

平尾「コミュニケーションでもっと大事なのは、「説明するタイミング」だと思うんです。タイミングを逃したり、せっかくいい宝を持っていても腐っちゃうというか、ぜんぜんものにならない。」

松岡「相手が引いている時ではなく、ちょっと前に出てきている時がいいんです。」

平尾「とくに大事なのは怒る時なんですよね。怒る時にタイミングを逸したら、憎まれるだけになってしまう。あれって紙一重ですよね。憎まれるか、「ありがとう」という気持ちになってもらえるか。(中略)叱るって難しい。努力がいる。それと、まず彼らに知りたいという欲求をどう誘発させるかなんですよ。そして、みんなが知りたいと思った時に説明をぶつける。この連続なんですよねえ。」

松岡「うんうん、よくわかります。おそらく、その誘発がうまかったんでしょうね。で、タイミングをはかる。」

平尾「まあ、誘発させるというか、まずは彼らに知りたいという欲求を持たすことが大事じゃないかと思うんです。例えば、さわりだけを説明しておいて、なぜうまくいったのかという手の内は伏せておく。「じゃあ、このへんで練習終わっとこう」と、ちょっともったいぶるわけです。そうすると、練習時間終わってもやってるわけですね。でも、なかなかうまくいかない。そこで、僕がまたひょこひょこと出て行ってですね、おもむろに(笑)、これはこうだからと疑問を解決していく」
(中略)
松岡「イン・アウトの妙ですね。つまり、一度に全部出しちゃうと逆に伝わらない、というディスコミュニケーションの現象が起きかねないから、いったん「ふくみ」や「保留」や「仮留め」の部分をつくる。そうすると、「ふくみ」に対して相手のイメージが対応してくるので、一発で説明するよりも、すでに受け入れ態勢が準備出来ているんですね。」

P126-130

5.イメージはマネージされたときに加速する

単に「マネージメント」があるのではなく、そこにはつねに「イメージメント」がはばたいているということなのである。平尾自身は、本書のゲラを構正しているときに『僕の感じでいうと、イメージはマネージされたときに加速するんですね』と言っていた。本書のタイトルが『イメージとマネージ』となっているのは、そういう意味である。

P258

感じたこと

どの金言も参考になるものばかりだった。ラグビーというスポーツにおいて、パス・タックル・ラン・体力といったスキルのマネージだけではなく、個々の自由な発想やチームでの統一されたビジョンをイメージする、そして、そのイメージをマネージすることで、さらにダイナミックな動的なものとすることで勝利を導く、という平尾氏の考えは、今でも通用しそうです。

特に、組織風土や組織文化は、組織員が抱いているイメージの集合体とも言えそうであり、価値観が多様化する中、これをマネージすることが経営上、とても重要になってきていると感じる。

ちなみに、「イメージできないものはマネージできない」は、野田稔氏の言葉だそうです。













この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?