【インクルーシブ・リーダーシップ】ILがイノベーティブな行動に効くメカニズムとは?②LMXへの着目(Javed et al., 2021)
前回の投稿に引き続き、Javed氏らによる、インクルーシブ・リーダーシップ×イノベーティブな行動に関する論文の第二弾をご紹介します。
どんな論文?
この研究は、パキスタンにある比較的小さな資本の繊維企業の社員を対象に、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)、リーダーとメンバーの交流(Leader-Member Exchange:LMX)と、イノベーティブな業務行動(IWB)の関係を探ることを目的に行われたものです。
モデル図は以下の通り、(今回も)シンプルです。
著者らが小資本企業を選んだのは、小資本企業ほど、革新的で変化志向が強く、革新性を高め得るとのことでした。さらに、こうした企業は、官僚主義がなく、変化に対する抵抗が少ないとのこと。
(逆に、これまで何度かNoteで紹介してきた「マッチョイズム」は、官僚主義的行動にも影響し得る文化であり、こうしたIL→IWBの関係を弱めてしまう可能性が想定されます)
こうした小資本企業の社員は、イノベーションのプロセスを促進するために、インクルーシブ・リーダーとの深い関係(高LMX)を経験しているのではないか、という仮説が立てられました。
データは、150人の上司と部下から収集され、定量的な分析の結果、IL→IWBの影響関係と、ILとIWBをLMXが媒介する関係が示されました。
研究の背景・問題意識
そもそも、色々あるリーダーシップの中で、著者らはなぜILとIWBの関係に着目したのでしょう?
これは、ILを研究しようと思うと、常につきまとう問いです。ILが他のリーダーシップと何が異なるのか、なぜILなのか。こうした問いに、先行研究を紐解きながら答えていく必要があります。
では、著者らの見解を見ていきましょう。以下に原文から引用します。
つまり、著者らは、先行研究を踏まえて、
過去のリーダーシップは、リーダーそのものに焦点が置かれたが、IWBには、リーダーとフォロワーの関係(LMX)が重要である。
ILは、他のリーダーシップと異なり、オープンなコミュニケーションという性質から、LMXを高めるリーダーシップである。
よって、ILはLMXを媒介してIWBに影響する。
という論理構成にもとづき、仮説を構築しました。
IWBが発揮されるのはどのようなときか
この論文では、IWBが発揮される状況についても、研究をレビューしながら述べています。
ポイントは、IWBは従業員が支援され、報われたときに発揮される、という点です。
前回の投稿では、心理的安全な職場風土が、ILによるIWBの効果を高めるという、心理的安全性の媒介関係を紹介しました。
どうやら、IWBは、従業員の行動なので、その行動を促進するような支援や承認、および職場の肯定的な風土が重要になるようです。
なお、この研究では、前回の投稿で紹介した研究とは異なる、別のIWB設問が使われているようです。(なぜ変えたのかは記載がありません。。)
感じたこと
昨日に引き続き、Javed氏の論文を見ていきました。この2つの共通点としては、
インクルーシブ・リーダーシップ(IL)→イノベーティブな業務行動(IWB)のメカニズムを明らかにしている(前回は心理的安全性の媒介効果、今回はLMXの媒介効果)
上司と部下、同数からの回答を収集し、ILとLMXは部下に尋ね、IWBは上司に尋ねている
イノベーティブな業務行動(IWB)は、「状況的要因」によって高められるという結論を導いている
といったあたりが特徴的です。一方、この2つの論文は2019年と2021年で、比較的最近なのですが、IWBの測定尺度を変えています。(前回:Janssen (2000)、今回:De Jong and Den Hartog (2010))今回の論文で、別の測定尺度を選んだ理由は、「多くの先行研究で使われているから」とあるだけ。
この疑問を解くためには、原点や、後者の尺度を使用した論文にあたる必要がありそうです、、、(研究レビューの旅はつづく、、、)
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