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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILがプロアクティブな行動を促進するには、「信頼」と「公正な組織風土」が大切(Chang et al.,2022)

今回は、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)研究において、マルチレベル分析が活用されている研究について紹介します。実は、研究の複雑さやデータ収集の難しさゆえか、IL研究におけるマルチレベル分析の文献は多くないのが実態です。

Chang, P. C., Ma, G., & Lin, Y. Y. (2022). Inclusive Leadership and Employee Proactive Behavior: A Cross-Level Moderated Mediation Model. Psychology Research and Behavior Management, 1797-1808.


どんな論文?

この論文は、ILがプロアクティブ行動に与える影響を、従業員による信頼が媒介し、手続き的公正な風土がその効果を調整する、ということを定量的に示したものです。

手続き的公正とは、資源配分の方針、プロセス、手続き、決定、および結果が、公正な原則に基づいている、という組織員の認知を指します。
これが、集団レベルにまとめられている状態を「手続き的公正な風土」と設定されています。
以下がモデル図です。

若干、著者らの想定を乱暴にまとめてしまうと、

①ILがメンバーの積極的な行動を生むためには、「信頼」が大切 
②ILが、信頼や積極的行動につながる上で、組織内の方針やプロセス、手続きが公正・フェアであるという風土が大切

ということを、マルチレベル分析によって明らかにしています。
※正確には、IL→信頼→プロアクティブ行動の媒介効果は「部分的」でした


ILがプロアクティブ行動を促進するメカニズム

これまで、ILがメンバーの心理的安全性に影響する、といった文献は多かったのですが、信頼が鍵となる、という文献は少なかったようです。

文献によると、従業員の信頼は、従業員とリーダーとの積極的な相互作用によって生み出される前向きな心理状態であり、従業員の一連の認識、態度、行動にさらに影響を与えるとのこと。

そのため、従業員は、リーダーとの相互作用を経て生まれた信頼により、前向きな態度、特別な努力によって、従業員のプロアクティブ行動が高まる、とのこと。したがって、ILとプロアクティブ行動の間には、「信頼」が大切(媒介する)としています。

また、ILの有効性を高めるものとして、手続き的公正の風土に着目したのもオリジナリティがあります。

著者らは、先行研究をレビューし、手続き的公正の風土が低いチームに所属する従業員は、仕事に関連する懸念や結果を避けるために、個人的な利益を守る傾向がある、と指摘します。

特に、「公正でない」風土の組織では、従業員の取り組みがうまくいかなかったり、失敗したりすると、インクルーシブ・リーダーがどんなに寛容で奨励的であっても、組織的な原因に目を向けるのではなく、個人を非難することが多いようです。手続き的公正な組織の特徴や、その組織におけるILの役割が以下引用部のように語られています。

一貫性がなく偏った手続き的な職場環境は、従業員に平等な重要性が与えられていないことを懸念させ、役割外行動の対人的リスクをもたらし、ILによって奨励され支援されているにもかかわらず、従業員の信頼を低下させることになる。代わりに、手続き的公正風土は、従業員が自由に声や新しいアイデアを表現することの否定的な結果の認識を心配する必要のない、公正で透明で民主的な職場を提供し、人間関係や仕事のフィードバックにおける不確実性のリスクを軽減する。手続き的公正風土のもとでは、ILの役割は従業員の感情的依存と信頼を高め、その見返りとしてチームへの帰属意識を強くする影響力を最大限に発揮するだろう。

P1802

実践的な意味合い

今回の分析結果を基に、著者らは以下のような実践的な意味合いを提案しています。

1.リーダーシップの側面から、リーダーは従業員の信頼を高めるために、部下に感情的なサポートと仕事のリソースを提供する包容力を培うべきである。

  • ILは、チームメンバーの帰属意識と集団アイデンティティを高め、チーム内の資源競争を減少させ、チームメンバーが仕事の課題やパフォーマンスのプレッシャーに対処するのを助けることができる。

  • さらに、ILは積極的な性格を持つ従業員をナビゲートするだけでなく、非積極的な性格の部下が率先して変化し、仕事のパフォーマンスを向上させるよう促すこともできる。これは、どのような性格の従業員であっても、ILの支援と励ましを感じることができるため、リーダーや組織に対する信頼が高まり、より積極的に仕事に取り組むようになるからである

  • (ここまで言い切れるかな・・・?)

2.組織開発の観点からは、包括的な雰囲気と手続き的公正の尺度を促すことが重要である。

  • 効率的に業績を上げるためには、目標志向のリーダーシップだけでは不十分であり、特にチーム志向の組織構造は、短期的な目標のために一時的に職種横断的なチームを編成することが多い。そのような状況では、部下を指導して仕事を完遂させ、目標を達成させることは難しい。

  • したがって、組織は、チームの信頼関係を向上させ、互いに協力し合い、成功した経験や知識を共有し、より効果的かつ効率的に組織の業績に貢献できるような公正な職場環境を作るべきである。


感じたこと

信頼の重要性は言うまでもありませんが、今回のように、組織風土の影響やリーダーシップによるメンバー行動の促進をメカニズムとして捉えた点に価値があると感じます。(言い換えると、WOW!という発見があるわけではなかったですが)

また、組織風土が個人の信頼や行動に影響する、といった関係を明らかにするのは、マルチレベル分析の醍醐味だと感じます。組織は、集団としてのダイナミクスと、個人の集合体としての両方によって変化するとすれば、両者を明確に分けながら、影響関係を明らかにすることが説得力に繋がる、と感じました。


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