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【イノベーション】越境経験の学習が革新的な行動に与える影響?(川九、2021)

前回に引き続き、イノベーション関連の論文を紹介いたします。

川九健一郎. (2021). 越境経験学習によるイノベーション行動の開発: 学習の場が拡張する企業の人材育成活動の事例検討. 立教ビジネスデザイン研究, 18, 49-63.


どんな論文?

本研究は,日常的に行われている職務経験の延長線上で行われる人材育成施策(つまりOJT)ではなく,職場での実務経験とは異なる体験や,職場とは異なる空間での体験の学習機会が、革新的な行動(Innovative Working Behavior)の開発に影響することを示した論文です。

職場におけるOJT、ワークプレイスラーニングで学べることも多いですが,著者は、越境学習経験として設計された研修プログラムが、参加者の革新的行動にどう影響するか、Before・Afterの本人・上司サーベイをもとに分析しています。

プログラム参加者(N=10)のBefore/AfterにおけるIWB尺度の平均値をt検定で分析したところ、参加者の評価においては有意差はなかったものの、上司による評価においては、以下、2つの項目において、前後でIWBにおける有意な上昇が認められました

「イノベーティブなアイデアを有用な施策に転換している」
「イノベーティブなアイデアの有効性を評価している」

この2つの項目は、IWB の「アイデアの適応」の2/3に該当しており、限定的ではあるが,越境経験の学習を行うことで、イノベーティブなアイデアが,ビジネスの場において,役に立つ認識のもと,アイデアを取り入れ,実行策に落とし込む行動に変化が見られたことが示唆されました。

※IWBは、3カテゴリ9項目で表される、メンバーの革新的な行動を測定する指標です。イノベーション行動の3カテゴリとは、①アイディアの意図的な創造,②アイディアの導入,③アイディアの適応、を指します。

前回の投稿でもIWBに触れていますので、こちらもご参照ください。


越境経験学習プログラム

文献で紹介されている「越境経験学習」は、筆者が企業内で実施した研修を指すようで、以下の6つより構成されるプログラムで、7か月間にわたって、時々集まってグループワークを行うものです。

①オリエンテーション:プログラムの概要,目的,ねらいを理解する

②社会課題のインプット:テーマ領域に対して仮説をもてるようにインプットの学習を行う。ここでは社会課題に対する問題を認知し,何を問題
として取り扱うのかの仮説を対象者が考える

③課題設定:グループ内のメンバー間で相互に話し合い,何について調べるのか決定する

④洞察:仮説と現実(洞察から得られる情報)の乖離を明確にする。たとえば、環境問題について知るフィールドワークでは,海でのマイクロプラスチックについてのワーク,一次産業についての社会課題については,山間部で農業のフィールドワークを行う。地方に赴き,洞察を行うことが多い。

⑤解決策立案:洞察から得られた知識をもとにして,問題解決に適応する案を考える

⑥プレゼンテーション:プログラムによって学習してきたことをまとめ上げ,対象者(洞察対象者)との合意形成を行う

内容自体は、よくある地域の課題解決型研修に似たものと想像されます。今回の参加者は、とあるIT企業の社会人10名でした。

行動変容を測る指標:IWB

この文献では、,Janssen(2000)のInnovative Work Behavior(IWB)が指標として使われています。ありがたいことに、設問全文が日本語化され、掲載されています・・・!

IWB は「仕事のパフォーマンス,グループ,また組織に利益をもたらすために,新しいアイデアの意図的な創造,導入,及びその適応」(Janssen, 2000, p.288)として定義された概念で、9 つの革新的な仕事の進め方から構成される指標です。

従業員はこうした革新的な仕事の進め方を職場において,どれくらいの頻度で遂行しているか(how often performed)を7 点尺度(1 "never"~7"always")で回答します。(この調査では、5点尺度で実施したようです)


感じたこと

Innovative Work Behaviorを使用した日本の研究はまだまだあまり多くないようですが、革新的行動を量的に測定した数少ない文献の1つとして、この文献の存在は貴重です。

ただし、N数が多くないため、項目の妥当性・信頼性までは分析されていないため、海外文献を含め、もう少しこの尺度の利用可能性について検討するために、文献レビューを続ける必要がありそうです。

また、本文献は、プログラム実行の前後比較をt検定で行ったものですが、介入研究の論文として参考になる部分もありました。特に、本人評価だけでなく、上司の評価を取って行動変容を確認するのは有効です。

なかなか現場では、上司の負担もあるので、アンケート取りにくいですが、、、

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