【インクルーシブ・リーダーシップ】多様性をうまく対処する自信のあるリーダーが、ILを発揮して効果を挙げられる!?(Houston et al., 2023)
久々に、インクルーシブ・リーダーシップに関する最新の文献を紹介します。多様性自己効力感(Diversity Self-Efficacy)という概念の存在を初めて知りました。
どんな論文?
この論文は、多様性に対してうまく対処できるという効力感を持つリーダーが、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)を発揮しやすく、その結果として、フォロワーから評価される、というパスを実証的に示したものです。
また、ILがフォロワーから評価されるといった効果は、チームにおける人種の多様性が高いほど強くなり、多様性が低いほど弱まるようです。
モデル図は以下の通りです。
このパスを明らかにするため、著者らは2つの量的研究を行いました。
1つは、大病院内の相互依存的なワークグループで働く101人のグループリーダーと1470人の医療従事者のサンプル(研究1)と、コンピューター・テクノロジー、建設、外食、接客、製造業など様々な業界で働く135人のリーダーとフォロワーの2人組のサンプル(研究2)からの調査です。
2つの研究とも、自分のダイバーシティ・マネジメント能力についてより自己効力感を感じているリーダーほど、インクルーシブ・リーダーシップ行動を示す可能性が高く、その結果、人種的多様性がより高いワークグループにおいて、フォロワーが評価するリーダーの効果性に有効であることが示されています。
著者らは、この研究結果をもとに、ダイバーシティ・マネジメントがますます重要なリーダーシップ・スキルとなりつつある中で、リーダーの多様性自己効力感を高める研修などの必要性を主張しています。
多様性自己効力感(Diversity Self-Efficacy)
この論文の肝である、多様性自己効力感について補足しておきます。
簡単に言えば、多様性に対してうまく対処できる効力感のことで、以下の5つの項目によって測定されるようです。
本研究では、この多様性自己効力感を用いて、どんなリーダーが、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)を発揮しやすいのか、という示唆を提示しました。つまり、多様性自己効力感の高いリーダーこそが、ILを発揮しやすい、というパスを実証的に示しています。
ILの先行要因を実証的に示した研究はあまり多くないので、貴重な研究と言えると思います。
理論的な背景
この研究は、インクルーシブ・リーダーシップが、リーダーの多様性自己効力感と、リーダーの有効性へのフォロワー評価との間を媒介するパスを示しましたが、これは2つの理論から説明されています。
1つ目は、社会的認知理論(Bandura, 1997)です。社会的認知理論とは、ものすごくデフォルメして言えば、「人は他者の行動を観察・認知し、そこから学んで行動に移し、自己効力感を高める」という理論です。
この論文では、この社会的認知理論の構成要素の1つである「自己効力感」を引き合いに出し、特に多様性にうまく対処する自己効力感を強く持つことで、集団間バイアスを生み出すカテゴリー化を防ぐなど、インクルーシブな職場環境を推進する、ILの発揮に繋がるとのこと。
2つ目は、カテゴリー化・精緻化モデル(The Categorization-Elavolation model; van Knippenberg et al., 2004)です。
この理論は、簡単に言えば、多様性のプラス・マイナスを理論的に示したモデルです。
目に見えやすい多様性(すなわち、表層的ダイバーシティ)でカテゴリー化を生じ、マイナスの影響を生む一方で、目に見えにくい多様性(深層的ダイバーシティ)は、情報・経験・視点など、意思決定にプラスの影響を与える、というモデルです。以前の投稿で、この理論について詳しく記載しています。
このモデルによると、カテゴリー化が少ないと、情報・経験・視点等の多様性が有効に機能するとのこと。
1つ目の理論と組み合わせると、リーダーの多様性自己効力感があると、ILが発揮されやすく、インクルーシブな職場環境の推進によってカテゴリー化が少なくなり、結果として、多様性が有効な結果につながる、というプロセスを、理論的に示しています。
感じたこと
多様性自己効力感を持つリーダーが、ILを発揮しやすいというのは、なるほど、と感じます。
以前の投稿で紹介した、「多様性信念」を持つリーダーと近い考え方だろうと想像しました。それがゆえに、新しい発見というより、「まあ、そうだろうな」という感じであったのも確かです。
研究は、理論的に緻密であり、ほんの小さな新奇性をもとに発見事実を世に問うていくようなものだと感じています。そのため、「まあ、そうだろうな」的なことを、統計的な手法で分析し、実証したことに価値がある、とも思います。
まずは、小さな新奇性でも、論文として世に出すことから。。。
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