【インクルーシブ・リーダーシップ】ILがチーム・イノベーションに与える影響をわかりやすく整理した良論文!(Duc et al., 2023)
今日は朝からトラブル。子供のサッカー試合に送迎途中で、水筒から麦茶が半分以上漏れるという、この暑い日には致命的な事件が起きてしまいました。幸い、車に積んでいた2リットルの水があったので、継ぎ足して水分は確保。うっすーい麦茶を飲みながら、彼は一日頑張ることでしょう。
余談はこの辺にして、今日はインクルーシブ・リーダーシップ×イノベーションの文献を紹介します。
どんな論文?
この論文は、ベトナムの小売サービスのチームリーダー300人から収集した調査データに基づいて、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)とチーム・イノベーションの間のメカニズムを明らかにしたものです。
ILがチーム・イノベーションに及ぼす影響において、「チームで共有される心理的契約の充足」が媒介し、かつ、「チームの主体的な特性」が、ILと心理的契約の充足を媒介する、というモデルを実証したものです。
このように記載するとやや複雑なのですが、図にすると以下のようなモデルになります。
概念の補足
今回の研究で用いられている概念について、補足をしておきます。
■「チームで共有される心理的契約の充足」
(Shared team psychological contract fulfillment:STPCF)
まず、心理的契約の充足(PCF)ですが、これは「契約当事者の一方が、他方がその義務を果たしたとみなす程度」を指し、簡単に言えば、明文化された取り決め以外の相互的な約束がどれだけ守られているか、です。
この考え方は、当初、個人の知覚として概念化されましたが、最近ではチームレベルにも拡張され始めているようです。その理由として、組織は、個人からチームへの約束に焦点を変える傾向がある(Laulié & Tekleab, 2016)という説明がなされます。
まとめると、チームで共有される心理的契約の充足(STPCF)とは、「組織がチームに約束した義務の履行度合いに対する、チームメンバーの認識の度合い」(Laulié & Tekleab, 2016, p.662)であると、論文で紹介されています。
■チームの主体的な特性
(Team proactive personality:TPP)
まず、主体的な特性(プロアクティブ・パーソナリティ)について説明します。この概念は、「機会を特定して行動し、イニシアティブを発揮したり、変化をもたらすまで頑張る気質」(Crant & Bateman, 2000, p.65)と説明されます。
リクルート創業者の有名な「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉に近いパーソナリティ、と言えるかもしれません。(ちょっと違うかも?)
主体的な特性は、主に個人の特性ですが、研究においては、こちらもチームレベルに拡張され始めているようです。主体的な特性を発揮する個人が積極的に発信する中で、チームメンバー間の業務における相互作用が生じ、結果チームで主体的な特性に対する認識が共有された状態が生まれるとのこと。
この状態が、チームの主体的な特性、と説明されています。
メカニズムを支える理論:社会的交換理論
社会的交換理論の定義について、日本の人事部HPから定義を引用させていただきます。
この理論は、「返報性の原理」というものがベースとなっています。また、以下のサイトでもわかりやすく解説されてましたので、リンクを貼りつけておきます。
この社会的交換理論に基づき、著者らは、リーダーがILを発揮することで、返報性を感じるメンバーが感謝、義務感、信頼の感情を高め、チームとしての主体的な行動や、心理的契約の充足に繋がり、その結果として、イノベーションに資する行動が生まれる、と想定しました。
加えて、著者らは、小売サービス業においては、社会的交換理論がより重要になる、と言う点に着目します。
小売りサービス業では、メンバーがサービスの主体そのものであり、ポジティブな感情や信頼がサービス提供に影響するため、社会的交換理論に基づいた、リーダーとチームメンバー間の交流によるポジティブな感情の喚起や、チーム認識の向上が重要、としています。
人が資本、ということが強調される昨今のビジネスにおいては、ますます、こうした社会的交換理論にもとづく、リーダーとメンバー、あるいは、メンバー同士の交流や、その結果としての成果創出が重要となりそうです。
ILがイノベーションに影響する理由
この論文は、とてもわかりやすく、ILとイノベーションの関係を整理してくれているのですが、中でも、以下のロジックは明朗で、ぜひ参考にしたいと思いました。
チームワークによって、チームメンバーはイノベーションを達成するために多様な専門知識や視点を提供することができる(Thayer et al., 2018)
これは、チームメンバーが自分たちの間でアイデアを共有し、議論することに心地よさを感じるときに起こる(Leroy et al., 2022; Randel et al., 2018)。
チームメンバーのこうした行動は、リーダーのリーダーシップ・スタイルによって影響を受ける(社会的交換理論)
リーダーシップ・スタイルの中でも、インクルーシブ・リーダーシップは、メンバーに独自性を表現することを奨励し、意見やアイディアの提案を促進する
これにより、各メンバーがユニークな存在として認識され、チームに対するメンバーの貢献が独自の視点の表現をサポートされていると感じると共に、メンバーに強い責任感とチームとのつながりを与え、帰属意識につながる可能性が高く(Leroy et al., 2022)、返報性の原理が高まる(社会的交換理論)
このように、チームがILから利益を感じると、チーム目標を達成するために多様でユニークなアイデアを生み出し、推進し、実行することによって、 チームのイノベーションを高める(Jiang et al., 2019)
また、インクルーシブリーダーは、チームメンバーの仕事タスクや目標に対する認識に影響を与え(Leroy et al.,2022;Randel et al.,2018;Van Knippenberg & Van Ginkel, 2022)、ニーズや期待をチームメンバーと話し合い、約束通りに個々のニーズを満たす可能性が高い(Laulié & Tekleab, 2016; Randel et al.)(チームにおける心理的契約の充足による媒介)
加えて、主体的な特性を高いレベルで共有しているチームは、インクルーシブリーダーと交流して社会的交流関係を築き、 積極的に自分たちのコンテクストを変えていく可能性が高い(Wang et al., 2017)(チームの主体的な特性による媒介)
感じたこと
最近出たばかりの論文ではありますが、IL→イノベーションの間のパスをわかりやすく整理された論文で、読んでいて納得感の高いものでした。
加えて、著者らは、ILとイノベーション(あるいは、革新的な行動)の関係を示した実証論文を網羅的にレビューしています。IL→イノベーションの関係を整理・理解するのにきわめて有用で、これは見習いたい・・・と思う内容でした。
自分はまだまだ論文を読み漁っている状態なので、この論文のように、しっかりと整理整頓したり、概念間をつなげるような先行研究の参照を行ったり、社会的交換理論のようなベースとなる理論をもとにメカニズムを検討する、ということを行う必要性を痛感させられる、良論文でした!
社会的交換理論に基づき、それをチームの文脈に拡張することで、
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