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【社会的アイデンティティ】グループに女性や外国人といったマイノリティメンバーが多いと一体感が薄れる?!(Chattopadhyay & Lawrence, 2004)

今回も社会的アイデンティティに関する文献を紹介します。ダイバーシティと社会的アイデンティティ理論は関連が深いため、学びが多いです。

Chattopadhyay, P., George, E., & Lawrence, S. A. (2004). Why does dissimilarity matter Exploring self-categorization, self-enhancement, and uncertainty reduction. Journal of Applied Psychology, 89(5), 892.


どんな論文?

この論文は、グループ内での「人口統計学的な違い」、つまり性別や国籍などの違いが、メンバーの自己認識にどのように影響を与えるかを研究したものです。

オーストラリアの大学で行われたこの研究では、MBAプログラムの学生が34のグループに分かれてプロジェクトを行い、そのグループ内での性別や国籍の違いが、集団に対するメンバーの認識にどう影響するかを調べました。

研究の結果、グループ内で女性や非オーストラリア人(マイノリティ)の割合が高い場合、全体としてグループのプロトタイプ(そのグループを代表する典型的なイメージ)がネガティブに評価され、明確さが低くなり、個々のメンバーがそのプロトタイプに自分が合っていると感じにくくなる、その結果、集団の一体感が損なわれることがわかりました。

本研究では、自己カテゴリー化理論(社会的アイデンティティ理論からの派生)によれば、人々はグループの一員であることで安心感を得たり、自己評価を高めようとしますが、メンバー間の違いが大きいと、これがうまく機能しないことが示されています。

自己カテゴリー化理論が解説されているサイトから、以下の説明を拝借してきました。

学生であれば、○○学校の学生としてや、学部や学科、あるいはサークルや気の合う仲間など様々な集団に属しており、自分を位置づけるのに適した集団というのは、会話の相手や文脈などの状況によって変化する。このように社会的アイデンティティが活性化しやすいのはどのような集団(カテゴリー)かを階層構造によって説明した理論を、自己カテゴリー化理論と呼ぶ。

自己カテゴリー化理論によると、外集団の人間と自己との違いを際立たせ、内集団の人間と自己との類似性を明確にする集団が、社会的アイデンティティが活性化しやすい集団となる。

出典:科学辞典「所属意識」所属意識 | 社会心理学 (kagaku-jiten.com)


グループ内の違いが大きいと、グループの一体感が薄れる理由

では、集団内におけるメンバーの違い、しかも、女性や外国人がいることによって、グループの一体感が薄れてしまうのは、どのような理由からなのでしょうか?

著者らによると、自己カテゴリー化理論と社会的ステータスから、このメカニズムを検討しています。
人々は集団内で自分の所属を認識する際、集団の典型的な特徴(プロトタイプ)をもとに自分自身を評価します。
つまり、所属している集団に高いステータスを持つメンバー(この研究では、男性やオーストラリア人といったマジョリティ)は、自分と似たメンバーが多いほど、グループのプロトタイプをポジティブに感じやすくなるとのこと。

一方で、グループ内に低ステータスとされるカテゴリー(女性や非オーストラリア人といったマイノリティ)のメンバーが増えると、高ステータスメンバーにとってはグループのプロトタイプが自分に合わなくなり、プロトタイプの評価がネガティブになるようです。

これは、異なる属性を持つメンバーが増えることで、グループ内の一体感や同質性が低下し、自分がグループに属しているという感覚が薄れるため、と説明されます。
結果として、グループ全体のプロトタイプが不明確になり、ネガティブに評価され、結果として集団における一体感が弱まるとのこと。



人は、自分の位置づけにおける不確実性を減らしたい(安心したい)

ここまでの説明でも、まだピンと来にくい部分もあるように思います。
なぜ、集団の典型的な特徴をもとに自分を評価しようとするのでしょうか?集団がどのような属性のメンバーで構成されていようとも、あまり気にしない人もいるように思えてしまいます。

この点において、論文では「不確実性を低減したい」という動機の影響が語られます。
具体的には、人々は自分がどのグループに属しているのかを明確にし、そこでの自分の位置づけを確立することで、不確実性を減らそうとする傾向があるようです。

グループにおいて、メンバーは
「自分がこの集団にどれだけ適合しているか」
「集団全体の特徴が自分にとって理解しやすく、明確であるか」
を重要視するとのこと。

集団の特徴(プロトタイプ)が明確で、なおかつ自分自身がそのプロトタイプに合致していると感じると、メンバーは安心感を得ることができ、不確実性が減少するようです。

逆に、性別や国籍が異なるメンバーが増えることで、グループ全体のプロトタイプが曖昧になると、メンバーがそのグループに自分が属しているという感覚を持ちにくくなると指摘されています。

(例えば、マッチョな日本人男性ばかりの職場において、女性や外国人のメンバーは「異邦人」だと感じてしまう、という感じでしょうか)

この結果、集団内での不確実性が増し、メンバーはグループに対する同一性の認識が低くなるようです。

特に、高ステータス(マジョリティ)のメンバー(男性やオーストラリア人)は、似た属性を持つメンバーが多い場合には、グループのプロトタイプが自分に適合しやすく、不確実性が低くなるものの、異なる属性を持つメンバーが増えると、自分の立ち位置がマジョリティ側にあるとは言えない状態になり、不確実性が高まるため、グループへの同一性が薄れるようです。

この研究が示す示唆として、組織や学校などでのグループ編成や多様性管理において、特定の属性要因が集団の一体感やメンバーの自己認識に与える影響を考慮する必要性が挙げられます。

特に、性別や国籍の異なるメンバーが多い場合、グループの一体感を高めるためには、プロトタイプの明確化やメンバー間の協力を促進する施策が重要です。
たとえば、同じ「目的を持った仲間」であるといった共通の目的を浸透することで、属性の違いに対する意識が薄まる、といった施策が有効かもしれません。


感じたこと

職場の多様性を増すような取り組みは企業内でどんどん押し進められますが、インクルーシブな施策を同時に進めないことには、多様性はむしろ負の効果を生みかねない、ということは良く言われます。(D&Iがセットで語られるゆえん)

ただ、なぜ多様性が負の効果を生むのか、多様性が増すと集団の中でどのような心理メカニズムが起こるのか、といった点の理解は、まだまだ浸透していないように思います。

多様性を取り巻く議論をしっかりと理解するためにも、社会的アイデンティティ理論・自己カテゴリー化理論のように、集団での力学を説明する理論を深く知る必要があると痛感させられました。

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