
【インクルーシブ・リーダーシップ】正規雇用/非正規雇用を問わず、ILがキャリア展望や創意工夫につながる!?(荒木、2019)
今回も数少ない、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)の日本語論文を紹介します。
荒木淳子. (2019). 雇用形態の異なる社員が協働する職場のマネジメント-上司のインクルーシブ・リーダーシップに着目して-Management in workplaces–from the perspective on inclusive leadership of managers. 産業能率大学紀要= Sanno University bulletin, 39(2), 41-53.
どんな論文?
この論文は、ある人材サービス企業197名へのアンケート調査を踏まえ、正規雇用・非正規雇用の別を問わず、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)が有効に機能することを明らかにしたものです。
筆者の問題意識は、ダイバーシティの中でも、雇用形態の多様さにあります。非正規雇用の割合は年々増加し、2017年時点で就業者全体の約4割にも上る、と説明されます。
また、女性のキャリアにおいても、一時的に非正規雇用を選ぶケースもあることから、雇用形態の異なる社員が協働できる職場を明らかにすることを狙い、インクルーシブ・リーダーシップに着目したようです。
定量的な調査の結果、ILは、正規雇用、非正規雇用いずれの社員においても、組織コミットメントを通じてキャリア展望とジョブ・クラフティングを促すことが示されました。
よって、雇用形態の異なる社員が協働する職場のマネジメントには、インクルーシブ・リーダーシップと組織コミットメントが有効といえそうです。
また、知る限り、この論文がILをはじめに日本語訳して用いた文献です。(その意味では、もっと引用されてしかるべきだと思いますが・・・)
研究デザイン
多様な雇用形態の社員が協働する、職場のマネジメントに影響を与える要素として、ILに着目しています。
また、媒介変数として組織コミットメント(情緒的コミットメント)、目的変数として、キャリア展望とジョブ・クラフティングが採用されました。
それぞれの変数を、正規雇用(N=133)・非正規雇用(N=64)で比べたところ、インクルーシブ・リーダーシップやジョブ・クラフティングにおいては、正規・非正規で有意な差は出ず、キャリア展望や情緒的コミットメントでは有意な差がみられました。
加えて、それらの平均値は、正規雇用>非正規雇用、でした。
キャリア展望⇒正規雇用2.91、非正規雇用2.38
情緒的コミットメント⇒正規雇用3.31、非正規雇用3.13
※文献中に記載がないものの、おそらく5件法
非正規雇用の社員はキャリア展望を描きにくいと思いますし、有期であることから、職場に対する情緒的コミットメントも、正規雇用と比べて高くないことは想像に難くありません。
また、パス解析の結果(以下図の通り)、正規・非正規ともに、インクルーシブ・リーダーシップからジョブ・クラフティングへの直接効果は有意ではありませんでした。

一方、情緒的コミットメントを媒介すると、両方の雇用形態において、ILはジョブ・クラフティングやキャリア展望に影響を与えることが示されました(以下図の通り)。

感じたこと
上でも述べましたが、私の知る限り、この論文がCarmeli et al. (2010)のインクルーシブ・リーダーシップ尺度を一番初めに日本語化しています。その意味で、日本のインクルーシブ・リーダーシップ研究に大きく貢献したことは間違いないと思います。
日本の研究においていち早くインクルーシブ・リーダーシップに着目し、研究されたというその慧眼さには舌を巻くばかりです!
また、雇用形態の違いに着目した点もユニークです。働き方の多様性が増す社会において、性別や年齢といった多様性でなく、雇用形態の違いにどうアプローチすればよいか、という実践的な視点を与えてくれる論文です。
一方で、もやもやする点もいくつかありました。
「論文は批判的に読むこと」と習ってきたためか、はたまた論文を続けて読んできたためか、論文レビューをしていると、だんだん細かい点が気になるようになってきています。(良いのか悪いのか・・・)
偉そうに評価できる立場には全くありませんので、あくまでも「個人的な感想」であることを強調した上で、後々自分の役に立つよう、備忘録的にもやもやした点を記述しておきます。
①暗黙的に、リーダーシップは職場マネジメントに影響を与える、という前提が置かれており、その違いについての説明はありませんでした。リーダーシップvsマネジメントは難しい部分ですが、この点、論文を書く際には気を付けたいと思いました。
②目的変数に、なぜキャリア展望とジョブ・クラフティングが設定されたかに関しての合理的な説明が少し物足りなく感じました。
正規雇用・非正規雇用社員では、キャリア展望やジョブ・クラフティングに違いがありそうなのはわかるのですが、そうした想定の根拠となる先行研究レビューや状況説明に乏しいため、そう感じたのかもしれません。
なぜ、その変数を選ぶのかの合理性をわかりやすく説明することを意識したいと思います。
③ILがキャリア展望に直接的な影響を及ぼさないのかどうかも知りたい、と思いました。目的変数のうち、ジョブクラフティングについてはパス解析の結果が記載されていましたが、キャリア展望については記載がありませんでした。気になります・・・!
自分の研究に活かす糧にしないと、全く意味がありません。著者の慧眼さに敬意を払いつつ、こうした先人の肩に乗らせていただき、インクルーシブ・リーダーシップの研究を進めていきたいと思います。