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【インクルーシブ・リーダーシップ】女性広報担当者のエンパワーメントやキャリア開発にILが有効?!(Meng & Neill, 2021)

今回は、女性、しかも広報担当者に焦点を当てた論文において、インクルーシブ・リーダーシップが取り上げられた論文を紹介します。

Meng, J., _ Neill, M. S. (2021). Inclusive leadership and women in public relations defining the meaning, functions, and relationships. Journal of Public Relations Research, 33(3), 150-167.


どんな論文?

この論文は、女性の広報担当者にフォーカスを当て、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)がエンパワーメントやキャリア開発の機会に繋がる、というメカニズムを示したものです。

著者らが着目したのは、多文化が混在する今日の広報(パブリック・リレーションズ)の職場環境において、おそらく最も必要とされているのは、インクルーシブ・リーダーシップではないか、と言う点でした。

マイノリティのインクルージョンを高め、支援するという、ILの研究上の位置づけから、特に女性のインクルージョンやエンパワーメント、キャリア開発機会は、ILによって高まるとの仮説を立案し、定量的な調査によって、その仮説を検証しようと試みています。

調査は、インターネットの調査会社によって募集された、女性の広報担当者512名に対して行われました。使われた変数や想定された関連性は以下図の通りです。

P160

結果としては、ILが、組織的な文脈(ダイバーシティの風土や、参加型リーダーシップへの認知)に影響し、エンパワーメントやキャリア開発機会を高める、というメカニズムを明らかにしています。

インクルーシブ・リーダーシップが参加型リーダーシップに影響を与える!?


ここで気になるのは、インクルーシブ・リーダーシップから、参加型リーダーシップに影響を与える、というパスです。

P160

リーダーシップが、リーダーシップに影響を与える・・・?

紛らわしいのですが、こちらは、参加型リーダーシップの実践に対する所属組織の取り組みに対する回答者の認識を測定したものでした。(正確に言えば、Perception of participative leadershipです)設問例は、

「私の組織は、私のような女性が様々なプロジェクトや委員会活動でリーダーシップを発揮するのを支援している」
「私の組織は、私のような女性と意思決定権を共有している」

といったものです。

参加型リーダーシップは、リーダーシップの理論の1つとして名高い、パス・ゴール理論 (House & Mitchell, 1974) の構成要素です。
「参加型マネジメントの観点から、生産性を最大化し、集団のパフォーマンスを向上させるため、従業員のモチベーションを喚起し、取り組みや意思決定に参加するよう促すもの」とされています。

これに基づき、ILによって、女性広報担当者が組織による参加型リーダーシップを認知し、その結果として、エンパワーメントが高まる、というプロセスが想定されました。


米国における、女性広報担当の位置づけ

この論文そのものが、Journal of Public Relation Researchというニッチなジャーナルに掲載されているので、想定する読者層は広報担当者という前提です。

この論文では、女性広報担当者が直面している状況として、以下の点を指摘しています。

  • 女性が米国の広報労働者の70%を占めているにもかかわらず、業界のトップリーダー職の30%未満しか占めていない

  • 特に、ジェンダーの不平等や 差別は有色人種の女性により顕著であり、有色人種の女性らは、業界の女性専門職人口の6%未満しか占めていない(U.S. Bureau of Labor Statistics, 2020)。

  • 制度的障壁(またはガラスの天井)の存在が、女性の昇進を妨げ、女性の昇進を制限する本質的な主要要因である

  • トップリーダーへの道は、ジェンダーや人種のステレオタイプに根ざした様々な歴史的・社会的要因のため、有色人種の女性にとって特に困難である(Hon, 1995; Grunig et al., 2001; Wrigley, 2002)。

  • 過去40年間のパブリック・リレーションズにおける女性に関する研究の最近の広範な文献レビューの中で、トピッチら(2020)もまた、女性が指導的地位に到達することを妨げている、継続的な偏見と差別を指摘する


リーダーシップ論から見たインクルーシブ・リーダーシップ

本論文の特徴として、ILを丁寧にレビューしている点が上げられます。ILはインクルージョン研究をベースに発展してきた考え方ですが、この論文では、リーダーシップ研究における位置づけを分析しています。以下、該当箇所を引用します。

インクルーシブ・リーダーシップに関する先行研究では、インクルーシブ・リーダーシップは関係性リーダーシップ理論の特殊な形態とみなされている。関係性リーダーシップの観点からすると、包摂性の定義は、リー ダーとフォロワーの相互作用を通じて実現され、社会的に 構築されるものであり、そのような相互作用を通じてリー ダーシップが生み出され、有効化されるということになる(Uhl-Bien, 2006)。(中略)Roberson(2006)は、インクルーシブ・リーダーシップとは、個人が重要な組織プロセスの一部であると感じる度合いを説明するものであると主張した。同時に、インクルーシブ・リーダーシップは、 リーダーとフォロワーとの間の双方向の影響プロセスとも定義されており、チーム内および組織マネジメントのコンテクストの中で、共有された意思決定、積極的な協議、 参加が強調されている(Hollander, 2009)

感じたこと

上述したような、リーダーシップ研究におけるILの位置づけ整理はそこまで多くないので、参考になります。

どちらかと言えば、ILはダイバーシティやインクルージョンに関連する研究の文脈で発展してきたリーダーシップですが(ただ、2021年第9版のNorthouse『Leadership』には、1章しっかりと掲載されています)、フォロワーとの関係性や相互作用などによるリーダーシップという説明は、なるほどと思わされます。

また、女性広報担当者に焦点を絞った研究と言うのも興味深いです。
ただ、著者らも論文中で述べていますが、広報担当者に限らず、他の職能の社員にも同様のことが言えそうな結果でした。

広報担当者特有の文脈で、このメカニズムが機能する、という点に対する言及は読む限り見当たらず、そこが惜しいと感じました。


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