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実習における学生の「驚き」へのかかわり 〜看護教育分野での論文より
私は日本教師教育学会で、「実践研究」をテーマとする課題研究Ⅰのまとめ役を務めている。この第12期(2023年秋から3年間)より立ち上がった部会だ。
教師教育分野での実践研究の特質や論点を考えるために、部会メンバーと協力しながら、他の教育系学会での実践研究をめぐる議論を参照したり、医学教育や看護教育など他領域の専門職教育を扱う学会での議論に目を配ったりしている。
そのなかで、面白い論文を見つけた。
佐藤 智子、谷津 裕子(2024)「初めて看護過程を展開する実習における学生の驚きに対する看護系大学教員のかかわり」『日本看護学教育学会誌』33巻3号、pp.1-15
看護師を目指す学生らが初めて病棟実習に出たとき(大学2年次だそう)に、彼らはいろいろな驚きや当惑やショックを経験するわけだが、それに対して看護系大学の教員がどのようにかかわっているのかを、6名の教員へのインタビューを通して明らかにした研究だ。
教員のかかわりとして、
1 驚きを予測し備える
2 驚きに気づく
3 驚きの意味を考える
4 驚きに向き合い展開を助ける
5 驚きが転換され考えが深化したことを見届ける
の5段階を見出している。なお、この5段階は、直線的に進むとは限らず、行きつ戻りつの場合もあるとのこと。
さて、教育実習の場合でも(教職大学院の実習を含め)、学生はさまざまな驚きを経験する。
つい先日も、今まさに実習に行っている学生が、授業のなかで小学校2年生の子らにプリントを糊で貼り合わせさせようとしたら予想以上の混乱を招いてしまって、「こんなはずじゃなかった」と衝撃を受けていたところだ。
が、そのわりに、教師教育分野では、実習を行う学生の「驚き」に注目するというのは、少なくとも研究レベルでは、ほとんどないんじゃないかなと思う(いや、あるのかも。あったら教えてください)。
なんでだろう。
まあ、看護教育の場合と比べると、驚きの場面を事前に予測しにくいとか、学校というものを学生が被教育者の立場としてはすでに一度は経験してきてしまっているとか、「教育実習生たるものこうふるまうべき」的な規範が強いとか、いろいろ要因は考えられそうだけれど。
ただ、きっと学生らが実習校でたくさん経験しているであろう「驚き」が教師教育の実践上&研究上、大事に扱われてきていないのだとしたら、それはなかなか考えさせられる事態ではある。
佐藤&谷津の論文ではこう述べている(なお、ここでの「教員」は、看護系大学の教員のこと)。
教員が学生の驚きにかかわることは、学生を成長に導くことだけでなく教員自身が教育者として成長することに繋がっていると考えられる。……教員は、学生の感情の動きから離れず、むしろ感情が動いたことを活かすかかわりを行うことで、学生と共に教育者として発展をとげているといえる。
私含め、教員養成にたずさわる大学教員は、どれだけ「学生の感情の動きから離れず、むしろ感情が動いたことを活かすかかわりを行う」ことができているのだろうか。
そして、どれだけ「学生と共に教育者として発展をとげ」ることができているのだろうか。