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ことばをそのまま届けるということ 〜木村龍之介『14歳のためのシェイクスピア』

木村龍之介『14歳のためのシェイクスピア』大和書房、2024年

シェイクスピア作品を手掛けてきた気鋭の演出家・木村龍之介氏による1冊。
シェイクスピア入門になっているのはもちろんだが、同時に、演劇入門にもなっているし、文学テクストの読み方の手引きにもなっている。

シェイクスピアの戯曲と同じ5幕構成。
「第三幕 PLAYの時間」では、声を出すこと、体を動かすことの価値が扱われる。「リア王」や「夏の夜の夢」の抜粋を使って、読者に実際に試してみることを促しながら。

このように、ことばに引っ張られるように身体を動かしていくと、リア王というキャラクターが持つ怒りや業の深さ、孤独や哀愁を、身をもって体感できます。

第三幕

解釈ありきではなく、「ことばに引っ張られる」ことにより引き出されるものを描く。私が、演劇的手法の持ち味を活かした活動としてまさに追求してきたものと重なる。

次の部分は、国語教育においても示唆に富む。

あまりうまくない俳優は、「怒り」の演技をする時に、がむしゃらに怒って、怒鳴ってしまいます。怒りの感情に「のまれている」状態です。そうすると、シェイクスピアの魅力が半減してしまいます。ことばをそのまま届けるだけで多面的な意味が伝わるのに、そこに怒りの感情が加わることで、ことばの意味が一つの色で塗りつぶされてしまうんですね。

第三幕

ここでの、俳優ーテクストー演技は、教師ー教材文ー指導に置き換えられそうだ。子どもがテクストとしっかり出会えるようにすることが必要なのに、教師が解釈した結果(「主題」であれ「心情」であれ)を直接的に教えようとして、元の文章の魅力を失わせてしまう。「ことばをそのまま届けるだけで多面的な意味が伝わるのに」。

「14歳のための」というタイトルだが、14歳に限らず、また、演劇に関心がある人だけでなく国語教育とか世界史とかいろんな方面の人にオススメできる。


…ということを書いていたら、たまたま、今度見学に伺う高校(国際系)の英語科の授業の教材が、シェイクスピア「ロミオとジュリエット」だと聞いた。今までもシェイクスピア戯曲を用いた授業やワークショップは、イギリスでも日本でもいくつか見てきたが、実は、「ロミオとジュリエット」のは初めてだ。本書の「第一幕」でも触れられるように、ロマンティックな印象とは裏腹に、卑猥な言い回しのあふれる「ロムジュリ」。高校生相手の授業でどんなふうに扱うんだろう。楽しみだ。

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