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氷山も水に還りしこの星に残りて犬と方舟(ふね)見送れり/お犬

2024年2月23日にお犬 @oinuchan_a のXのポストとして投稿された一首。

「氷山も水に還りしこの星」とは地球のことだ。ここで「も」という係助詞は類推の意味で「…でも」「…さえも」といった意味に取れる。南極大陸の氷山という壮大な自然さえも、現代の地球環境下では、溶けていってしまい海面上昇につながっている。「還り」という表現には、氷山の成り立ちに思いを馳せさせる効果がある。

「方舟」には、「ふね」とルビが振られているが、「はこぶね」と読める。旧約聖書の創世記の〈ノアの方舟〉を思わせる。〈人類の堕落〉〈大洪水〉〈人類〉〈生物〉〈難を逃れる〉が関連ワードである。

現代で考えると、環境破壊が〈人類の堕落〉であり、地球温暖化に伴う海面上昇が〈大洪水〉であろう。

〈ノアの方舟〉においては、〈人類〉を含む〈生物〉が〈難を逃れる〉こととなった。

しかし、掲出歌の作中主体は、「犬」とともに〈難を逃れる〉ことのできるはずの「方舟」を見送っている。

「犬」は一匹かもしれないし、複数匹かもしれない。作中主体とともに暮らしている犬だろうか。

止むを得ず、〈難を逃れる〉ということを諦めなければならないとき、その「犬」を見捨てることだけはせず、最悪の結果となろうとも苦難をともにする覚悟が見える。

結句「見送れり」(ラ行四段動詞「見送る」已然形+存続の助動詞「り」終止形)には、ラ行音の連なりが見られる。この音韻上の特徴は、作中主体が現実をさらりと受け入れ、苦難に毅然と立ち向かい、抗(あらが)わないさまを補完しているように思う。

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