色々あった2020年に読んで特に良かった本8選
ジーンクエストというゲノム解析ベンチャーを経営している高橋祥子です。「おすすめの本は何ですか」とよく聞かれるので、2020年に読んだ本のうちここ1-2年以内に日本で出版され、読んでとても良かった本達をご紹介します。私は生命科学分野の人なので、特に科学者が社会や人間について書いた本が心の底から好きです。
読書とは、生体反応のように「刺激(書籍)」と「受容体(読者)」の状態によって反応が決まるため、よく知っている人であれば今の状態に合わせてお薦めしたいと思っていますが、それでもいろんなステージの人に薦められる普遍的な内容の本もあり、今回はそのような本を選んで紹介していきたいと思います。
1. 危機と人類
なんといっても今年はこの本です。2020年は感染症による世界的な危機の年で、危機に対する心構えや考え方についての良い本がないかと探しているなかで、個人的に最も良い知見が得られた本です。
過去の危機の歴史を人類はどのように乗り越えてきたのかを学ぶことができます。
国の危機、個人の危機など様々な危機について、危機対応がうまくいっているときに共通している特徴を述べていて、例えば『危機にあるということをメンバーみんなが認めていること』や『アイデンティティーがあること』『基本的価値観』など10ヶ条を提唱しています。
これは会社経営にもとても応用ができ、平時のときと有事のときに何をすべきかが整理されて行動に移せるという点でとても学びがありました。また、日本の明治維新についての章もあるので、日本人にとっては、馴染みやすい本なのではないかと思います。日本人が語る日本の歴史は学びますが、海外から見た明治維新の捉え方を知ることができてとても新鮮でした。
会社・家庭・個人の人生の危機にある人、危機に備えたい人は必読だと思います。
2. 感染症の世界史
こちらの本も感染症に関連して、今年だからこそ読むべき本です。発売されたのはコロナ前の2018年ですが、内容がまさに今年のことを予言しているようでそれゆえにとても説得力があります。
ウイルスとは何か、過去の感染症はなぜ起きたのか、今後のウイルスと人間の未来はどうなるのかについてマクロな時点で理解できます。ウイルスによる感染症は単に偶発的なものではなく、例えばエボラ出血熱の流行は大規模な自然破壊の直後に発生することが多いなど、人間の経済活動と感染症の関係についてよくわかります。
貧富の格差拡大で慢性的な防疫体制の遅れにより不衛生な環境の地域がある+世界的な人口急増+グローバル化+高齢化によって、今後も新しい世界的な感染症のリスクは依然高いということです。
それに対処していくためには、結局SDGsの掲げる課題(貧困・環境等問題)の解決が大きな備えになるのではと思いました。コロナを機により一層SDGsが大事になる理由を、とても納得して理解できる本です。
3. 進化の意外な順序
この本は「進化の意外な順序」というタイトルでありながら、メインは進化の話というより神経科学者による「感情・心」とは何か?の話です。
2020年は世界的な感染症流行で、科学・医学がとても大事にも関わらず、フェイクニュースも多く出回りました。感情が優先して事実を曲解してしまうことは何故起こるのかと疑問だったのですが、この本を読んでよく理解できました。
なぜ感情が生命活動にとって根幹として大事なのか、なぜ感情に振り回されてしまうのか、感情は生体を生存に有利にするものにも関わらず感情に任せていては組織、国、政治は成り立たないのはなぜか?と生物学的な観点で説明されていて、著者にとても感謝しました。
感情と向き合いたくなったら読むと良いインプットが得られると思います。
4. 時間は存在しない
私がとても好きな本は物理学者が書く本が多いのですが、この本も物理学者による時間とは何かの解説です。
みんな生まれてから死ぬまでの間の時間の中で過ごし、現代社会においては、日々時間に縛られているような感覚もあります。今年は時間の過ごし方や感覚が変わったという方も多いかもしれません。そんな中、そもそも「時間」とはなにか?どのような性質のものなのか?など、人類は時間軸に対する正確な認識をできるとより進化できるのではと個人的に考えています。
物理学者にとっては当たり前の内容かもしれませんが、理論物理学者の視点から時間に関する様々な考察が明快で、時間に関する性質の理解にとても役立ちました。
逆説的ですが、時間のある方は時間は存在しないを読んでみては。
5. 社会はどう進化するのか—進化生物学が拓く新しい世界観
人間の社会や経済活動のメカニズムに、進化生物学の観点から切り込んでいく本です。進化論を道具として社会、集団、企業の持つ性質やあり方を考察していく本、面白かったです。
社会的相互作用の産物として私たち個人が存在するということ、変化に適応していくときに進化生物学から言えること、低次の生物的自己利益の追求が無条件に公共善に資することはないと進化的観点から言えること、など、組織やチームを作ったり社会と自己の関わりを考えていくときにとても有用な本だと思います。
(虫が苦手なので表紙が怖くて買うのを躊躇したのですが)とても面白く読んでよかったです。
6. ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史
経済格差、人種間対立、国家間対立など、何かと格差・分断が注目される時代に、今後どうなってしまうのだろうかという議論もありますが、この本はその風潮に対する解の一つの可能性を提案する本です。
人類は長短様々な進化期間を経て、より安全で穏やかな世界を築く方向に働いているという人間の遺伝子としての愛や繋がりについての共通性に焦点を当てた生物学×社会学の視点の内容です。
ビル・ゲイツが「これほどの『希望』を感じて本書を読み終えるとは、予想もしなかった」と感想を書いているので、一体どんな解決策が書いてあるのだろうと期待して読むと実はそうではなく、私たち自身である人類のことをより好きになり、現代の課題を解決していける潜在性があると信じられるようになる本だと思いました。
また、人が形成するコミュニティについて「意図せざるコミュニティ」「意図されたコミュニティ」「人工的なコミュニティ」など書かれていて、単純に、仕事やプライベートでコミュニティ作りをする人にもヒントがたくさんあると思いました。
7. 現代経済学の直観的方法
これはもう傑作としか言いようがなく、本として世に出してくださってありがとう!と言いたいです。
資本主義とは何か、経済とは何かを、直観的に、映画を見るかのように理解したい方にはお薦めで、特に理系の方で経済に苦手意識のある方にはドハマりなのではないかと思います。そういう捉え方で理解できるのか、と読んでいて気持ちがいいです。
特に経営者や経済学に関わっている方の中では、最後の方の章の現在・未来についての内容については議論がある内容だと思いますが、それもそれまでの章がとても素晴らしく良書であることの前提だと思います。
8. ライフスパンー老いなき世界
最近、不老長寿系のスタートアップが欧米中では増えてきていますが、これは長寿研究で有名なシンクレア教授が書いた本で、不老長寿に関する最新の研究動向とそれが実現したときの世界の課題や解決法を提唱するものです。
遺伝子の研究をしている私としても、こういう本がいつか出るのではと期待していましたが、ついに出ましたね。単純に不老長寿ってできたらいいよね、という個人レベルの話ではなく、地球上に人口は何人まで生存可能なのか?寿命が長くなれば貧富の格差も広がるのではないか?CO2の排出量も増えるとどうするのか?など、思考をストレッチさせるにはとても良い本です。
まとめ
1. 危機と人類
2. 感染症の世界史
3. 進化の意外な順序
4. 時間は存在しない
5. 社会はどう進化するのか
6. ブループリント
7. 現代経済学の直観的方法
8. ライフスパン 老いなき世界
他にもたくさん震えるくらい面白く読んでよかった本がたくさんあり、著者の方や出版社の方々に本当にありがとうと言いたいくらい感謝しています。その中でも今回は、特定の事象の課題解決にとどまらず多くの人の人生に広く関係するような本を紹介させていただきました。
是非多くの方に読んでいただきたいと思い、まとめてみました。年末年始に是非読んでみてはいかがでしょうか??
また、Twitterなどでも紹介していきたいと思います。
最後に9冊目・・
読んだ本の知見も活かしながら、これからの未来を生きるすべての人たちへ伝えたいと思っていることを一冊の本にします。2021年1月8日発売予定です。是非多くの方々に読んでいただきたい内容を書きましたので、先行予約発売にてお手に取っていただけると嬉しいです。
ビジネスと人生の「見え方」が一変する生命科学的思考(高橋祥子)
「生命の原則」を知れば、人生はもっと自由になるーー。
生命科学研究者であり、起業家でもある著者がたどりついた、一度きりの人生を迷いなく生きるための思考法!
本書を通じて伝えたいのは、「生命には原理や原則があることを客観的に理解した上で、それに抗うために主観的な意志を活かして行動できる」ということです。生命原則を客観的に理解し、視野を自在に切り替えて思考することで主観を見出し行動に移せば、自然の理に立脚しながらも希望に満ちた自由な生き方が可能となります(はじめにより)。
もっと知りたい方は・・
Twitterでも気が向いたときに書籍紹介してますので気になる方はフォローください。また生命科学オンラインサロン「高橋祥子ラボ」のラボメンバーを募集中です!みんなでペア読書をしたり、オンラインでニュース配信・ライブ配信をしたりメンバー同士でディスカッションをしたりしています。興味ある方は是非どうぞ。
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