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デザインを選ぶ際に、知っておきたい家のこと

(※2話をまとめたので長いです。適宜目次からジャンプしてお読みくださいね)

家というのは長い時間を過ごす場所ですから、少しでも快適に過ごせる空間に整えておきたいですよね。

その求める「快適」の中には、
「自分の趣味趣向にあったデザインに囲まれたい」
と願う方も多くいらっしゃいます。
建築には住み家としての機能だけではなく、そこに造形としての芸術性を求められることも、自然な感情かもしれません。

しかし、デザインを優先することで、機能を損なう場合もあるということは、ぜひ知っておきたいところです。デザインは選択の段階である程度確認することができますが、使い勝手やメンテナンス性というのは、実際に使ってみないとわからないことも多いものです。

というわけで今回は、「どのようなデザインを選択すると、後々どのような問題が生じるのか?」について、詳しく考えてみようと思います。


【メンテナンス性】

最近の内外装に用いられる建築素材には、お手入れがラクになるような工夫が施されているものが多くあります。親水性を高めたコーティングで雨が降る度に外壁がキレイになるとか、凹凸を無くした形状でサッと一拭きとか。

そのような製品は、カタログにも「お手入れ簡単」「美しさ長持ち」などと表記されていますので、ぜひ注意して選んでみてくださいね。

それとは逆に、最初の仕上がりは美しいのですが、その美しさを保つのが難しい仕上げというものもあります。
どんなものがあるのか、見ていきましょう。

木造住宅での床タイル仕上げ

タイルは独特の質感と美しさがあり、内外装材として人気の素材です。

木調の床タイルも素敵ですね (LIXIL HPより)

しかし木造住宅の床に張る場合には、目地が割れやすいという弱点に注意が必要です。
なぜかというと、木造住宅の床は合板(木材)が下地となっており、木は湿度に応じて膨張・収縮し、また歩行や地震などにより振動する(たわむ)という性質があるからです。下地の木が動いても、タイルは剛性が高いために追従できず、タイルとタイルの隙間を埋めている目地に力が集中し、ひび割れてしまうのです。

木造住宅であっても、例えば1階の床で下地が土間コンクリートなど剛性の高い材質であれば、問題はありません。
木造住宅で床にタイルをご検討の場合は、事前に設計者や施工店とよくご相談なさってくださいね。

間接照明に溜まるホコリ

間接照明とは、天井や壁の凹みに照明器具を隠して設置し、光だけが柔らかく広がる演出性の高い照明手法です。
直接照明よりも照明効率が悪くなるため、全体の明るさを確保するためには照明器具は多く必要になります。また、照明設置用の凹みの造作や配線工事などが複雑になるため、工事代金も高額になりやすいです。

ふわっと柔らかい雰囲気になりますね (KOIZUMI照明HPより)

上記は素敵なインテリアの写真ですが、天井を照らしている照明は木目の天井材の上の凹みに隠されています。このように凹みに水平面があると、どうしてもそこにホコリが溜まってしまうのです。

照明器具の上にもホコリが溜まると明るさが減ってしまいますので、このような間接照明を計画する場合は、天井まで届く大きめの脚立を用意し、定期的にホコリを払うよう注意したいですね。

形状が複雑で掃除しにくい

最近はすっきりしたフラットなデザインが人気ですが、そこには「凹凸が少ないためホコリが溜まりにくくお掃除がラク」というメリットもあります。

上下にフレームがなくホコリが溜まりにくいガラスドア(パナソニックHPより)

框組や額縁などデコラティブなデザインも素敵ですが、凹凸が多いものはどうしても長い時間にホコリが溜まり、汚れて古く見えやすくなります

また調湿・消臭効果などの機能的なインテリアタイルも、立体感があるものは独特の陰影が美しいのですが、やはり「凹凸の美しさ」には「ホコリのたまりやすさ」と切り離せないジレンマがあります。

調湿・消臭効果で人気のエコカラットタイル(LIXIL HPより)

ホコリは白っぽいグレー色のため、濃色よりも淡色で多色をミックスした柄を選ぶことで、お掃除を多少サボってもホコリを目立ちにくくさせることができます。

シンクが広いと汚れが流れにくい

シンク(流し)部分が大きいと、多くの作業を同時にこなすことができたり、大きな鍋やフライパンも洗いやすいなど、効率良く便利に使うことができますね。

最近のキッチンはシンクが広いものが多い(クリナップHPより)

しかし、水掛かり部分は汚れもつきやすいため、お掃除の範囲も広くなるというデメリットも生じます。これを簡単に解決できるのが、ホースを長く引き出せるシャワー水栓です。

お洒落なシャワー水栓でお掃除もラクラク(クリナップHPより)

洗面化粧台もボウルは広めの方が、水ハネもしにくく、洗濯物の手洗いなどの作業もしやすく使い勝手がいいですね。しかし「洗面化粧台で洗髪はしないから」と、引出し式のシャワー水栓ではなく固定式の水栓を選ぶ方も多いのですが、大きなボウルをお掃除する際には、やはり引き出せるシャワー水栓が便利です。水栓を選ぶ際には、ぜひショールームでも実物を確認してみてくださいね。

【性能】

家に備えなければいけない性能には、耐震性能ともう一つ、来年の4月からは断熱性能も加わります。これらは間取りなどによっても影響を受ける場合があるため、プランニングの際には意識しておきたいところです。

耐震性

日本は地震が多い国ですから、住まう人の命を守るためにも、耐震性はしっかりと備えておきたいですね。

地震による揺れから家を支えているのは、耐力壁と呼ばれる「壁」です。この耐力壁が多いほど、大きな地震に耐えることができます。より多くの壁で支えることで力を分散でき、それぞれの壁の負担も少なくなります。

しかしリフォームでは、
「この壁を取り去って、広い部屋にできませんか?」
というご要望をよく伺います。

一部の壁を撤去しても、他の壁を補強することで法的な基準をクリアする方法はありますが、壁が減れば少ない壁で全体を支えることになり、それぞれの壁が負担する力が大きくなってしまいます。

特定の壁に大きな力が集中すると、柱が引き抜けるなどの被害を受けるリスクも増加します。特に1階の壁には家全体の荷重がかかっており、また昔の基礎は無筋など耐力不足であることも多いため、リフォームの際にはできるだけ「壁や柱は減らさない」方向で検討したいものです。

新築の場合でも、1階はなるべく壁を増やし、広いLDKは2階に配置するなど工夫して計画すると、無理なくコストを抑えて耐震性を高めることができます。

ちなみにマンションの場合は、薄い間仕切り壁には耐震性はありませんので、すべて撤去して大きな部屋を造ることも可能です。(※壁構造の厚いコンクリート壁は撤去できません)
広いワンルームを望まれる場合は、マンションへの移住を視野に入れるのもいいかもしれませんね。(^^)

断熱性

前述の通り、断熱性能は来年の4月から法律によって、一定の基準をクリアすることが義務になります。

しかし義務になるのはそれ以降に建てられる新築のことで、今まで建てられた既存の家には、法律による断熱性能の義務はありませんでした。

ちなみに平成4年に目安として使われていた基準では、家から外に熱が逃げる割合は下図が目安になります。

住宅省エネルギー技術講習基本テキストより

圧倒的に窓から逃げる割合が大きいですね。
新築でもリフォームでも「窓を大きくしたい」という要望が多いですが、窓が大きいと断熱性能の弱点となりやすく、断熱性能の高い窓は重量も増えるため、大きくすると「開閉の操作が重い」と不便になることもあります。

耐震性・断熱性を配慮した窓計画を考えるなら、窓は「縦長形状」でできるだけ「高い位置に設置」とすれば、小さい窓でも換気・採光を効果的に行うことができます。

窓のリフォームは補助金が大盤振る舞いな今のうちに、ぜひご検討なさってみてくださいね。

安全性

それから、デザインを考える際につい忘れがちなのが、安全性です。

法律でも高所に設置する手摺の高さは1.1m以上・手摺子の間隔は110mm以下など、安全性を確保するための基準がありますが、法律の規制がない場所にも安全性はしっかりと配慮しておきたいところです。

お子ちゃま、落ちないように気をつけてね!(カツデンアーキテックHPより)

開放感のあるスケルトン階段へのリフォームも人気がありますが、隙間が多くなれば危険も増えます。ショールームで実際に昇降してみたりして、安全には十分気をつけてくださいね。

【屋根形状による雨仕舞】

最近人気の外観に、
「片流れで軒の出が少ない屋根」
というものがあります。
屋根を小さくして存在感を無くすことで、建物全体をスタイリッシュに見せるというデザインが支持されているようです。

このような屋根は業界用語で「軒ゼロ」と呼ばれていますが、実はこの軒ゼロ・片流れ屋根の家は、雨漏りリスクが高いのです。

雨漏りしやすい屋根形状

日本は雨が多い国ですから、昔から「雨仕舞」といって、雨漏りを起こさないようにするための知恵が家の形状にも多く取り入れられてきました。
屋根は家の「傘」の役割を果たすため、雨仕舞の視点から見れば、すべての軒先(先端)に向かって下り勾配・かつ軒の出はできるだけ広く、というのが建物を濡らさない「傘」の条件になります。

しかし上図のような「軒ゼロ・片流れ」では、屋根が傘の条件を満たせていません。雨が降る度に全身がびっしょり濡れますから、外装材のどこにも隙間を作らない「完全防水」を保たなければならないのです。

ところが、この「完全防水」という重要な役目を担っているシーリングという防水材が、わずか10年ほどで亀裂を生じ、水の侵入を許してしまうのです。

シーリングが劣化して切れると、壁内に雨水が侵入してしまう

シーリングが切れても内部にはもう一つ防水層があるため、すぐに雨漏りを起こすとは限りませんが、雨漏りのリスクは非常に高い状態になります。

上記のような外観の家にお住まいの方は、雨漏りのリスクを減らすために少なくとも10年に一度は足場を掛け、外装材のシーリング打ち直しを必ず行うように計画しましょう。

【輸入設備機器類】

ヨーロッパなど、海外の製品にはデザイン性の高い設備機器類が多くあります。デザインが文化として栄えてきた歴史があるからこその意匠性と言えますが、日本製品もそれらから学び、デザイン性は日々向上していると感じます。

それでもやはり、工業製品ならドイツ製、見た目の美しさならイタリア製など、ブランド感も手伝って海外製品には今も根強い人気があります。

ここで気をつける点は、海外製品は「輸入に時間がかかる」ということです。設備機器類というのは、使っているうちに部品が壊れたり、故障することがあります。またその時は、ある日突然やってきます。

故障をしたと海外メーカーの日本代理店に連絡すると、
「交換部品は船で届くので、納期は発注後2か月です」
などという対応が普通に返ってきます。

この点、日本企業のアフターサービスは実に素晴らしいと思います。
大手企業の良く使う部品であれば、施工店が常備していてすぐに直してもらえたり、特殊な部品でも製造停止から数年間はメーカーが部品を保存していて、数日で入手できることが多いです。

では、故障した際に困りやすい輸入機器類を見てみましょう。

システムキッチンのビルトイン機器

冷蔵庫・レンジ・特殊なコンロや食洗器など
一般的な規格寸法で代替品がすぐに入手できればいいのですが、特殊な形状で後継品が限られる場合は、その商品を数か月待つ必要があります。
商品が届くまでの数か月を、レンタル機器などでしのぐという方法も検討できるといいですね。

便器

給水などの部品に消耗品があります。トイレが使えないのは本当に困りますよね。日本のトイレは世界的にも品質が高いと評価されていますので、後々のことを考えても、トイレは国産品がおすすめです。

お風呂の浴槽

レアケースですが、浴槽が割れたこともありました。ユニットバスは入る浴槽が限定されるため、交換できる浴槽を数ヶ月待つより、浴室丸ごと交換した方が早いし安い、ということにもなりかねません。

それから故障ではないのですが、水栓の操作棒が上部についているデザインで、濡れた手で水栓を操作したら操作棒の隙間から水が侵入し、化粧台の内部に水が漏れるという事象がありました。
それを海外メーカーに不具合として伝えると、
「上から水を掛ければ漏れるのは当たり前。水を掛けないよう注意してご使用ください」
と言われて終了でした。
まぁその通りですが、日本製品ではこのような事象は経験したことがありませんでした。やはり日本製品の品質の高さはピカ一だな、と実感した一件でした。

いかがでしたでしょうか。
見た目が美しいに越したことはありませんが、それを維持するために手間やお金がかかる、または不便を強いられることもある…となると、優先先順位も変わってくるかもしれませんね。

家というのは耐用年数が長いため、もし「失敗したな」と思えば、数十年もその思いを持ち続けることになるかもしれません。
事前に知り得る情報をしっかりと学び、ぜひ後悔しない家づくりに役立ててくださいね!(^^)

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高橋みちる|リフォームコンサルタント
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