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「ニセモノの自分」をコントロールする「本当の自分」の確立を

平成9年2月~5月、神戸連続児童殺傷事件という悲惨極まりない事件が起きた。
酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)を名乗る中学3年生の少年が、児童5人を襲い、うち2人を殺害したこの事件を私たちはどう受け止めるべきか。

同年11月に、長崎大学にておこなった講演録である。


日  時:平成9年11月
場  所:長崎大学
演  題:私たちの問題として「神戸事件」を問い直す

※神戸事件(酒鬼薔薇聖斗事件)とは・・・




●少年が把握していた二つの自分

僕はあの神戸の小学生連続殺人事件は現在の教育問題があると思っています。あの事件については様々な分析や評論がありました。

その中で、小田晋という先生は、この事件はとても特殊な事件で一般的に教育問題として論じるべきではないと言われました。確かにそのような意見はあるが、僕は異論があった。

何故かというと、インターネットで同世代の子供達に僕はこの事件に関する感想を求めたんですね。その子供達の49%が「行動は許せないが、気持ちは分かる」とアクセスしてきた。

まあインターネットにアクセスしてくるのは熱心な中学生ですから、一般的な平均度は分からないが、それにしても約半数は「気持ちは分かる」と答えている。

しかも、「自分も同じ衝動を抑えている」「行動も理解できる」などと答えた中学生が少なくなかった。

これは決して特殊な事件というふうに突き放して見られるものではなく、現代の子供達の心に共通した問題を抱えていると認識する必要があるんじゃないかと思う。
犯人の少年は次のように供述している。

〈・・・小学生6年のころから猫を殺し始めた。猫を殺すことに満足する自分と、嫌悪するもう一人の自分を意識するようになった。・・・(中略)自分は感情をコントロールできない面があるが、臆病で気が弱いため、自分よりも弱い同級生や下級生に暴力をふるっていた。・・・〉

少年は猫を殺して喜ぶ自分と、一方でそれに対して嫌悪感を抱く自分という「二つの自分」を意識していた。

事件前に、少年が書いた「懲役十三年」という作文で、「自分の心の中に魔物が住んでいる」「人生の中で最大の敵は、自分の心の中の魔物である」という言葉がありました。

僕が作文の中で一番注目したのは、少年が「心の改革が根本である」と書いてある事だった。

つまり猫を殺して喜んでいる魔物の自分に操られる、それが一番の敵だと思っていた。しかしその作文の最後は「人の夜の旅路は半ばふと気づくと俺は普通の道を見失い、暗い森に迷い込んでいた」と結ばれているんですね。

つまり、猫を殺して喜んでいる魔物の自分の方が、現実の自分を操っていたという結果になった訳です。



●自己のいのちの叫びが分からなくなった悲劇

僕はこの作文を読んですぐに思ったのは、岡政志君という12歳で自殺をした子の事です。

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