第4期教育振興基本計画を読み解く
●教育基本法と、教育振興基本計画の関係 ― 不易と流行
今後5年間の教育政策全体の方向性や目標、施策などを定める「教育振興基本計画」は、平成20年7月に初めて策定、以降5年おきに策定され、令和5年度~9年度の第4期教育振興計画の冒頭に「教育の普遍的な使命」として、次のように明記している。
教育基本法は第1条において、教育の目的として、
「人格の完成」
「国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」
を掲げ、第2条において教育の目標として、
「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」
など5つの目標が規定されている。
その上で、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性(VUCA)の将来予測が困難な時代、精神的豊かさの重視(ウェルビーイング)などの社会の変化を踏まえて、Society5.0(超スマート社会)で活躍する、主体性、リーダーシップ、創造力、課題発見・解決力、論理的思考力、表現力、チームワークなどを備えた、2040年以降の社会を見据えた「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を2大コンセプトとして位置付けた。
※参考
Society1.0:狩猟社会
Society2.0:農耕社会
Society3.0:工業社会
Society4.0:情報社会
●基本方針の注目される点
ウェルビ―イングとは、身体的・精神的・社会的に良い状態にあることであり、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる「持続的な幸福」を含む概念である。
「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」については、幸福感、学校や地域でのつながり、利他性、協働性、自己肯定感、自己実現などが含まれ、協調的幸福と獲得的幸福のバランスを重視し、個人が幸せを感じるとともに、地域や社会が幸せを感じられる教育の在り方、日本発の調和と協調に基づくウェルビーイングの発信の重要性を強調している。
さらに、今後の教育政策に関する基本的な方針として、
⑴グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
⑵誰一人取り残されず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進
⑶地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進
の三大方針を示した上で、
⑴の中で「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善
⑵の中で「個別最適・協働的学びの一体的充実」などの多様な教育ニーズへの対応
⑶の中で「家庭教育支援の充実による学校・家庭・地域の連携強化」
などを列挙している点が注目される。
ちなみに、第3期教育振興基本計画の基本的方針では「教育を通じて生涯にわたる一人ひとりの可能性とチャンスを最大化する」として、「夢と志を持ち、可能性に挑戦するために必要となる力を育成する」などの教育の目指すべき方向性が示されたが、これが第4期教育振興基本計画に継承されていると思われる。
●問題点①PISA調査という教育データの無視・隠蔽
第4期同基本計画は「今後の教育政策の遂行に当たっての評価・投資等の在り方」として、客観的な根拠を重視した教育政策のPDCAサイクルの推進や教育データの分析に基づいた政策の評価・改善の促進などの「教育政策の持続的改善のための評価・指標」を重視し、今後5年間の教育政策の目標・基本施策と具体的な指標を例示している。
最も注目される教育政策の目標は「豊かな心の育成」である。
道徳教育の推進、いじめ等への対応、自殺対策の推進、発達支持的生徒指導の推進、伝統や文化等に関する教育の推進などの基本施策を例示しており、OECDのPISA(国際的な学習到達度に関する調査)などの指標を例示しているにもかかわらず、2022PISA調査で、本note拙稿※で詳述したように、保護者のサポート、親子の絆が日本は著しく低いことが明らかになっている重要なデータを、文科省が隠蔽していることは重大な問題である。
※参考①以下のnote記事を参照⇓⇓
参考②図 II 3.17.家族のサポートと学校への帰属意識↓↓↓
教師のウェルビーイング、保護者のウェルビーイングと子供のウェルビーイングは密接不可分の関係にあり、前述したように「今後の教育政策に関する基本的な方針」として「家庭教育支援の充実による学校・家庭・地域の連携強化」を明記しているにもかかわらず、PISA調査という教育データの分析に基づく「客観的な根拠を重視した教育政策」になっていない点を文科省は猛省する必要がある。
●問題点②「流行」に関心が払われ、「不易」が軽視されている
また、教育基本法の「不易」な教育目標と16の教育施策の目標との関連が検証、分析された記述は見られず、「流行」の教育目標の導入と検証に関心と力点が置かれているという根本的な問題がある。
学習指導要領の目標が変化している点(歴史分野の目標)については昨日の拙稿で述べたが、教育基本法の「不易」な教育目標が軽んじられ、棚上げされて「流行」の教育目標の実現に偏り過ぎていることは黙視できない。
●第4期教育振興基本計画の2大コンセプト実現のために
第4次教育振興基本計画の2大コンセプトである
・「持続可能な社会の創り手の育成」
・「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」
の実現のためには、教育基本法の「不易」と「流行」の教育目標の調和とバランスこそが求められているのである。
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