日本学術会議とは何者か(第3回)
●はじめに
昨日の投稿では、「ジェンダー」とは一体何かについて説明し、またその理論の根本的な誤りについて指摘した
今回は、「歴史教育におけるジェンダー史の導入」を提言してきた”日本学術会議”がどのような組織なのか、占領史研究の視点から明らかにしたい。
●日本学術会議の成立経緯と三つの声明
ところで、日本学術会議が占領下の昭和24年に設立され、翌年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」という声明を出した歴史的経緯については、占領文書を実証的に研究した先行研究を踏まえる必要がある。
先行研究としては、中山茂「占領と日本学術会議」(『日本占領軍一その光と影』上巻所収論文、徳間書房)等があり、「日本占領の所産」であった日本学術会議の「実質的な生みの親」は、占領初期に活躍したニューディーラーであり、GHQ経済科学局科学技術部のハリー・ケリー次長であったことが占領文書から判明している。
また、占領軍の公的歴史を集大成した『GHQ日本占領史』第51巻『日本の科学技術の再編』日本図書センター)の中山茂の解説によれば、これは「アメリカ的視点から日本の研究態度を批判的に見、彼らが自分たちの政策意図を以て展開した事業」で、「左翼的学者の組織として最も有名な民主主義科学者協会が代表して後に日本学術会議の中に民科派をつくり、政治的発言を行う」ようになり、「亀山直人一派の路線がケリーのニューディーラー路線に一番近いものであり、後に学術会議形成の主流となる」等と日米合作の成立経緯を分析している。
初代会長の亀山直人が昭和28年11月20日に吉田首相に宛てた書簡によれば、GHQは日本学術会議の設立に「異常な関心を示し、国家機関とすることを適当と認めた」という。
昭和42年にも同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発表し、平成29年3月には、この二つの「声明を継承」した「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表し、防衛省の「安全保障技術研究推進制度」は「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」として反対したが、学術会議が今も「戦後レジーム」から脱却できていないことを示している。
北海道大学(以下、北大)は平成28年度、同制度に応募し、微細な泡で船底を蔽い船の航行の抵抗を減らす液体力学の研究が採択された。
この研究を日本学術会議が「軍事研究」と決めつけ、翌年の「軍事的安全保障研究に関する声明」で批判し、学術会議からの事実上の圧力で、北大は平成30年同研究を辞退するに至った。
これこそあからさまな「学問の自由」への侵害ではないのか。
国家基本問題研究所は「日本学術会議は廃止せよ」と訴える意見広告(筆者も賛同者)を読売・産経・日経新聞に掲載し、
・「日本弱体化を目指した当時のGHQは学術会議にも憲法と同様の役割を期待した」
・「憲法も学術会議も国家・国民の足枷と化した」
と指摘しているが、学術会議が占領政策の継承・補完的役割を担っていることは三つの声明が立証している。
一方でGHQはWGIPの一環として、左派の反日学者を結集して自虐的な歴史教育ラジオ番組を作成させたが、その中心メンバーが昭和24年に「歴史教育者協議会」(略称「歴教協」)を結成し、日本学術会議と連携してきた。
歴教協は、「日本学術会議」「歴史学研究会」(略称「歴研」)「歴史科学協議会」(略称「歴科協」)「子どもと教科書全国ネット21」等が「友好団体」であると明記しているが、歴教協と歴科協は日本学術会議より「日本学術会議協力学術研究団体」に指定されている。
●高校歴史教育分科会の提言と歴史用語の精選
歴研は戦後、マルクス主義史観のイデオロギーに偏った親ソ・親中・反米・反天皇的な反日学者の巣窟で、信州大学の久保亨教授は平成25年から委員長になり、「日本学術会議史学委員会高校歴史教育に関する分科会」委員長として、同年6月8日に開催された第6回同分科会で東京女子大の油井大三郎教授(日本学術会議特任連携会員)に、「『歴史基礎』の実験と用語限定のガイドラインについて」報告させている。
この油井報告を踏まえて、同分科会は平成26年6月13日に提言「再び高校歴史教育のあり方について」を公表し、「近隣諸国」との関係を重視(「近代における近隣侵略などの問題点を正確に教える」と提言に明記)し、教育方法としては、16の課題を設けてデジタル・アーカイブなどで調べる「Q&A方式」を重視し、生徒が課題に取り組みながら学習を進める「思考力育成型」の「アクティブラーニング」へと「歴史教育像の転換」を図った。
同提言は「近現代のアジア太平洋史に重点」を置く新科目「歴史基礎」の構成原則として、「近隣諸国重視」「歴史の理解を深めることを主眼とする」等を掲げているが、「歴史教育像の転換」という大義名分の奥に潜む真の狙いは一体何かを明らかにする必要があろう。
・「近代における近隣侵略などの問題点を正確に教えること」
・「教科書の記述に当たって使用する歴史用語の数を制限するガイドラインを作成することが重要である」
・「歴史用語を限定するガイドラインの作成は、考える歴史教育に転換するための一つの方策であって、高校と大学の教員を中心とする話し合いに基づいて行われるべきである」
と本音が吐露されている。
同提言には参考資料として、「歴史基礎」科目カリキュラム試案が示された。
「日本が近隣への再拡張を始めた時、アジア太平洋地域に何が起きただろうか」という課題を掲げ、
・「日本の軍部はどのようにして権力を握ったのだろうか」
・「日本軍の侵略に対し、中国人はどのように対応しただろうか」
・「日本はどうして欧米とも戦争を始めたのだろうか」
という問いを例示している。
また、「特別な問い」として、「現在の世界で男女の関係はどのように変化しつつあるだろうか」という問いを特別扱いしている点も注目される。
同分科会が平成28年5月16日に公表した提言「『歴史総合』に期待されるもの」作成には、油井大三郎・君島和彦幹事が深く関わり、平成23年と平成26年の日本学術会議の提言で指摘したように、
と強調している。
油井大三郎教授は『未完の占領改革』(UPコレクション)において、「占領改革の成果を守り、発展させる課題」は、「日本人の双肩にかかっている」と結論づけている。
歴史用語の精選を推進してきた高大連携歴史教育研究会会長が油井教授で、副会長は竹島は韓国の領土だと明言した君島和彦東京学芸大名誉教授で、日本学術会議の歴史教育分科会をリードしてきた。
君島副会長は、平成19年3月5日の「歴史認識・歴史教育に関する分科会」で、「日本と韓国での歴史共通認識と歴史共通教材」について報告し、歴史教育者協議会と韓国の全国歴史教師の会の交流の成果である『向かいあう日本と韓国・朝鮮の歴史一前近代史編・上下』(青木書店、2005)、日韓「女性」共同歴史教材編集委員会編『ジェンダーの視点から見る日韓近現代史』(梨の木舎、2005)、広島県教職員組合と韓国の教職員組合の交流の成果である『日韓共通歴史教材・朝鮮通信使一豊臣秀吉の朝鮮侵略から友好へ』(明石書店、2005)、さらに、東京学芸大とソウル市立大の交流の成果として日韓両語で出版された『日本と韓国の歴史教科書を読む視点』(梨の木舎、2003)、『日韓歴史共通教材 日韓交流の歴史一先史から現代まで』(明石書店、2007)等が「非常に高い水準」に達していると自画自賛している。
平成29年11月、「高校歴史教科書・大学入試出題用語精選基準に関するアンケート調査のお願い」が、日本学術会議史学委員会高校歴史教育に関する分科会・日本歴史学協会歴史教育特別部会・高大連携歴史教育研究会運営委員会の連名で、大学教員、高校教員、教科書執筆者、教科書編集者、大学入試関係者などに送られている点にも注目する必要がある。
高大連携歴史教育研究会の歴史用語精選案では、用語の選定基準の政治的恣意性が顕著であり、坂本龍馬、吉田松陰、高杉晋作、武田信玄、シベリア出兵などが削減され、「従軍慰安婦」「南京大虐殺」「戦時性暴力」「ベトナム反戦運動」「排外主義的ナショナリズム」「平和運動」「ジェンダー」「家父長制」など「日本軍の加害性を強調」する「日本を悪玉にする特定史観の印象を受ける」(伊藤隆東大名誉教授)概念用語の導入により、歴史の見方の歪曲が目立つ。
同研究会の油井会長と君島和彦副会長が日本学術会議史学委員会をリードし、中教審答申における歴史系科目の「用語の整理」につながっている点を見落としてはならない。
●日本学術会議と科研費をめぐる問題
日本学術会議と科学研究費問題が論議を呼んでいるが、年間約2400億円の科研費を審査する審査委員はすべて日本学術会議の推薦者であり、杉田水脈議員は、慰安婦問題や徴用工問題の研究者が、韓国側と組んで科研費を使って「反日プロパガンダ」を行っていると国会で指摘し、「歴史問題に取り組む外務省や政府の後ろから文科省が弾を撃っているようなものだ」と批判した。
実際に調べてみると、関東学院大の林博史教授は、「対日戦争犯罪裁判の総合的研究」「日本軍『慰安婦』制度と米軍の性売買政策・性暴力の比較研究」等の研究で5千万円以上の科研費を獲得している。
ここから先は
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?