法治国家
「人を殺しました」
当直係に言うと奥の部屋に通された
確かに"殺した"という感覚があった
自ら出向いて償いを乞うたのに
「病院に行きなさい」
諭されて涙ながらに退室した
懺悔すらも許されないのか
それが法治国家というものかと
思い知らされた夜は
いつもと同じように
ただ白々と明けた
私が殺めた愛しい者は
自分の居場所を知ることもなく
ふらふらと漂っているのだろう
一心同体と感じてくれてる
仕方なく納得することで
辛うじて日々を送っている
時に、心と躰は乖離する
一度でも経験した者は
身を律するということの
意味を否が応でも知らされる
堅気とかヤクザとか
納税してるとか生存権とか
法治国家に暮らしてるとかに
考えを向けても馬鹿馬鹿しい
おそらく乖離を経験したから
住む家があり生業があり
社会との関わりがあり
仮に係累があったとしても
自分の居場所を知ることもなく
ふらふらと漂っているのだろう
当直係に頼ることはもうないし
懺悔をすることも叶わない
法治国家に身を委ねたまま
またぞろ同じように
白々と明ける夜を過ごすのだろう
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