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私がハイパーミディになったら母は喜ぶだろうか
「あんたこれ、面白いから読んでみなさいよ」
私と母の共通言語は少ない。
思春期特有の自意識を拗らせて、お互いの会話はいつも少しぎこちない。
そんな私たちが同じ空間で時を過ごせる数少ない趣味、漫画。
気が向いて、長期休みで帰省して。真っ白な空間を埋めるように好きなタイトルを勧め合う。
母が取り出したのは「ハイパーミディ中島ハルコ」、林真理子原作の漫画化作品らしい。
描画は「東京タラレバ娘」 「海月姫」などで女性ファン層の厚い東村アキコが担当している。なるほど、さすが私の母親を26年もやっていることはある。
ハイパーミディ中島ハルコの内容は単純明快だった。
恋に仕事に、悩めるオトナ女子いづみ(38歳)が、歯に衣着せぬ物言いで周囲を圧倒し続ける実業家中島ハルコに振り回されるストーリー。
1話ごとに入れ替わり立ち替わりハルコを訪ねる相談者(大抵いい思いをし、つまずき、過去の栄光を忘れられずにいる)はいかにも可哀想で、彼らをバッサリ「努力してこなかったんでしょ?仕方がないじゃない」と言い切るハルコの姿は爽快だ。
中高年の消費者層も厚くなった漫画界で、少女漫画に心をときめかせてきたミドルエイジな夢見る乙女にグサリグサリと刺さる現代版勧善懲悪モノだと思う。
さて、3巻の単行本を読み終え、私はなぜ母がこのタイトルを勧めてきたのか考えあぐねていた。
いづみかハルコか。
この2パターンに全ての女性を分けるとしたら、私はハルコのカテゴリに入ると思う。
いわゆるバリキャリ、独立思考も強く、仕事でもプライベートでも相談をするよりは受けることが多い。
手垢のついた設定だが、彼氏に「お前は1人でやっていけるかもしれないけど、あいつには俺がいないとダメだから…」というなんとも他責事由でフラれるタイプだという自覚がある(今のところまだそんな男は現れていないけれど)。
このまま人生のコマが進めば私は、生活レベルの大小はあれど、ハルコに似たような暮らしをするだろう。
しかし決定的な違いが2人に存在する。それは、結婚を経験しているかどうか、だ。
ハルコはその高飛車な性格から一定数の男には常に気を持たれ、2度の結婚と離婚を経験している。
とはいえ元夫から事業の相談を今でも受けるなど、決して泥沼試合での別れではない、というのも美しいところだ。
一方私は、ハルコの1度目の結婚年齢をとうに過ぎ、おそらく今後もそのようなチャンスを手にすることはないのだろうと考える。
できない、したくない、というよりも、想像がつかないという方が個人的にはしっくりくる。
親元を離れて暮らすようになって4年程、「自分以外の生活リズムと同調して生きていく」ということにあまりにも不寛容になってしまったようだった。
ハルコは文句や見返りを求めつつも他人のために時間を使うことを惜しまない。
彼女とのディナーを数多の事業家が列を連ねて待っているというが、それは彼女が決して自分のためだけに夕食の時間を使わないということを意味している。
私は今日、自分のためにキッチンに立ち、1時間程度湯船に浸かり、乾燥肌の身体を労るためにいつもより多くボディクリームを塗り込んだ。
他人のために時間を使わない人間に、誰が時間や人生をかけたいと思ってくれるだろうか。
母はこの頃、一度は結婚をしてみなさい、別れてもいいから、とつぶやく。
私は心の中で、私はそれに足る人間なのだろうか、と嘯く。
このままだとあなたは寂しいハイパーミディの親になるかもしれないね。
そう思いながら単行本を返す私の手は、じっとりと濡れていた。
大地真央さん主演でドラマ化するそうです。楽しみ。