見出し画像

シェアリングエコノミーでの戦略PRを考える:(長いけど)まずは経緯の把握

わたしは今、貸し会議室の会社でマーケティングのお手伝いをしていますが、情報をいかに活用して会社を元気にしていくか、ということになると、マーケティングの上位にあるストラテジックコミュニケーション(パブリックリレーションズ)を導入したほうがはるかに簡単だな、と思ったので、その提案書を社長に作りました。

その提案内容を要素分解して、シェアリングエコノミー向けに構成しなおしたらどうなったか、というようなものをまとめてみました。

ポジションペーパー

戦略PR、ストラテジックコミュニケーションを志向する担当者なら、この方法は知っていて当然、のはずな手法です。日本語に訳すと「意見書」が近いかな。定期・不定期にパブリックリレーションズ部門が世の中のウオッチ状況を分析して、マネジメントにアイデアを提示する(=報告兼、提案をする)、というものです。

だいたいは経営戦略を実行している中で、今後障害になりそうなテーマやトピックを中心にまとめていきます。直近ですぐに対処しなければいけないものから、近い未来おこりうる危機としてのリストまで、緊急度合いやテーマの深堀り具合はその都度変わりますね。

政策面での内容が多いので、実施面で「ではパブリックリレーションズ部門がこれをやります」というようなことは少ないです。言い逃げできます(笑)。

論点というより、ツッコミたいところを切り口にするとカンタン

どんなトピックを扱うか、というと、事業を進めるうえでツッコミをいれたくなるようなことを扱うとすらすらと書けます。

フォーマットはとくに決まっているわけでもないので、企画書とほぼ同じ感じですが、「実行を促すアイデア」色が強いので(パスエーシブpersuasive)、現実的な内容が圧倒的に多くなるのは確かですが、そもそも意見表明なので、まったく新しい視点やアイデアを大胆に提案しやすい場でもあります。さらにパブリックリレーションズ担当者としては言いたい放題な規格でもあるので、ガツンと言うときは思いっきり書いてしまいます。

内部要因と外部要因の比較

外部からもちこまれる課題と、事業進行の上で社内で問題になっていることをリストし、関連すること、リンクすることを最重要課題と位置づけます。ですので、内部の分析も重要になります。以下はその具体的なものですが、経営陣向けに提出するときは、それぞれのテーマがもっとリスト化したスリムなものとなっています。今回はまったく分野外の人も読んでもらうことを想定して、背景解説をなんとなく含めたものに加筆していますので、長文化していますが(通常の5倍程度)、ご容赦ください。

小規模会議室の低価格競争を激化させた?民泊新法

民泊新法が2018年6月に施行されてから、宿泊規制についていろいろとグレーゾーンだった民泊が旅館業法並みに規制されることになり、その条件に合致しない事業者や個人のオーナーたちは相次いで撤退した。。と騒がれたのですが、条件を満たしながらも収益的にぎりぎりの事業者たちは、貸し会議室分野に部屋を開放し、収益を得る活動を一斉に開始しました。

いわゆる二毛作という方法で、民泊新法の営業許可日数180日の範囲内では民泊で営業し、それ以外の日数は時間貸し(つまり貸し会議室などのスペース利用)に転換する、という方法です。貸し会議室以外だと、マンスリーマンションやシェアハウス、パーティースペースなど、さまざまですが、とくに貸し会議室に活用することが収益面でもクローズアップされており、サポートする各種サービスが充実していくにつれて、参入者は日増しに増えていっている状況です。

二毛作をサポートする事業が急成長。シェアリングエコノミー協会など大勢力になる予感が

まず、会議室がどこにあり、いくらで借りることができるのか、という情報ポータルが必要です。スペイシースペースマーケットは、小規模会議室の情報提供をうまくこれら民泊二毛作組にアプローチしたようで、事業拡大が止まりません(既存の会議室ポータルはたくさんありましたが、もともとサイズが大きいところを対象にしていたのと、小規模会議室は控室扱いというオーナーサイドが大半だったので、この動きに乗り遅れた感があります)。

また、これらの会社とシェアリングエコノミーという新ジャンルを定義し、関連するサービスを行う団体・一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し、会議室や民泊のみならず、コワーキングスペースやレンタカーなど、「シェアする経済」の啓もう活動を行いながらオピニオンリーダーを目指す活動を開始。投資ファンドなども呼び込んで会員企業の勢力拡大をさまざな形でサポートするグループを作っています。シェアエコは今後も拡大傾向が続くとみられており(総務省情報通信白書「シェアリングエコノミーのもつ可能性」2018)、備品のレンタルサポートや運営代行など、サポート事業とからめて急拡大するきざしを見せています。

大量参入は価格競争に

しかし、一方で大量参入が値下げ合戦など低価格戦争を引き起こしている感があり、もともと100㎡以上の大規模会議室を運営していた企業にもユーザーの価格意識の変化を通じてじわじわと影響を及ぼすようになってきているのを現場にいて感じます。実際に東京駅周辺の会議室状況を50㎡以下に絞り込んで比較してみると(利用予定時間4時間、12人)、1時間あたり1000円~8000円と、値幅が大きくなっていて、価格面だけをフォーカスするとかなりめちゃくちゃな設定がされている会議室が出てきている印象を受けます。

人手不足が深刻になる要素

生産人口がこれから20年で未曽有の減少を経験する日本。人手不足は現段階でも「甘ちょろいレベル」なのでしょうか?人手不足が深刻になる要素は、わたしは「ブランド力のあるなし」と、「生産性向上にひっかかる仕事」の2つが結構効いてくるのではないか、と思います。これを阻害する要素としては「性差別」「年齢差別」「生き方差別」の3つが重くのしかかっています。

「性差別」「年齢差別」「生き方差別」

あまり細かく書きませんが、企業の存立を今後左右する要素としてはこの3つをいかに解消するか、放置するかにかかっているかと観測します。

性差別は男女格差の問題として、ずーーーーーーーーーっと課題になっているテーマです。これにMeToo運動などセクシャルハラスメントのようなアンチハラスメント要素が加わって問題が相当根深いことが表面化しているのは、すべての人がご存知だと思います。

また、性差別はダイバーシティをどう認め、日々の生活に受け入れていくか、という課題も新しく加わっている、というか、本格化しています。

年齢差別は、ひとことでいうと、企業が採用時に年齢だけで人を選別する風土を言います。この解釈を拡大すると、履歴書だけで選別する姿勢も含まれます。人手不足の要素は、雇用のミスマッチもそのひとつですが、相手の希望をくみ取らずに上っ面の印象だけで採用しつづけるシステムのツケを払わされているともいえるテーマで、いまだにこの状況は改善の兆しがない深刻な問題だと思っています。

年齢差別はまだ本格的にクローズアップされていませんが、今話題になっているのは60歳以降の人材に対する企業のエントリー拒否問題があります(それでも多少は動き出している厚生労働省労働経済白書平成30年版)。ほかには10年前くらいから本格化している女性の35歳問題(女性は35歳をすぎると転職がしづらくなる、というのと、主婦になった人が子育てで一服して社会復帰するだいたいの年齢ラインがこのくらいで、これまた就職難になっているというもの)です(関連資料:内閣府男女共同参画白書 平成29年版 )。今後は団塊ジュニア世代の転職エントリーを拒否する問題、さらにその子世代のエントリーを拒否する問題が待ち構えています(水面下ではかなり深刻な問題となっていたりする)。

生き方差別は、典型的なものは女性に対する就労上の差別でしょう。育児と仕事の両立を妨げるさまざな要因は大きな改善に結びついているとは言えません。また、直近で深刻化しているのは、メンタルヘルスで一線を離れざるを得ない環境を作ってしまう問題、介護離職で復帰ができない問題、引きこもり数の中高年化問題など、「ちょっとレールを外れた人」に対するひどい扱いについてのことです。

ブランド力がない会社には、そもそも人が注目できない

あたりまえですが、知らなければ行動なんてできないのです。これを防ぐには一発芸を仕込んで爪痕を作らないといけない。つまりは何らかの形でブランド力をつけているか否か、というところです。

上場企業はそういう点で何段も有利ですね。特筆すべきはESG投資対策として、統合報告書を作り始めたことでしょう。これは会社がなぜ社会に存立しえるかを、企業理念と社会ニーズに結び付けてちゃんと解説することをフォーマット化したということです。

ただ、企業が存立しえている理由の一つは、何かに特化している特徴を必ず持っているからであり、それを純粋にピックアップして表現に結び付けることができるかだとも思っています。

また、ほとんどすべての企業が、存立するための重要な理由のひとつに継続的に安定した人材登用ができるかが課題です。となると、働き方改革にいかに早くフィットし、かつ独特の制度を打ち出せるか、先にあげた3つの差別のうちなにを改善するかで差がつくように思います。

生産性向上にひっかかる仕事に将来性はない

ひとつの好例が「今後AIに仕事を奪われる職種」系の話題です。明日無くなるわけではないですが、勤続20年、30年となった場合、すごく不安になる職種、という意味で人手不足を加速させる、というか、逃げ出される現象が起こっています(多様性社会になることが想定されているのに単細胞に20年も勤続できる社会が将来あるのかという議論の存在は別として)。そのため、新卒採用の対象となる大学生たちは大人が思う以上にこのトピックに敏感ですね。

人々の多様性をいちはやく認めて制度に採り入れ、自発性を引き出し各位が日々新しい仕事を創出していく環境づくりを、社会的意義に沿ってやってるんですっていう見せ方ができるか・貫くことができるか、ってことではないかと思います。作業ではなく、想像・創造ができる人間を求める風土でしょうか。

貸し会議室業界は仕事がロボット的なので疲弊しやすい人材難である

すくなくとも、私が勤めている会社の状況を見ると、表題の通り「疲弊しやすい」環境であり、これが人材の長期安定を妨げる要因になっていると言えます。

会議室業界は基本的に盛況なので、営業スタイルは受注営業という、問合せを受け取って対応する受け身型です。仕事のスタイルは契約を結ぶまでにある程度定型化されているので、それに慣れてしまえばパートタイムでもこなせる職種なのです。で、実際には、就業の半分以上をパートタイムに依存しています。

正社員とパートタイムをわけるものは、単純に取扱件数の差と、個別案件の「めんどくささ」度合に対する責任感の担保の差です。スキル面での差は、あまりありません。逆にミドルクラスをパートタイムとして使っている場合、パートタイムのほうが対応力が社員より高いケースもかなり多かったりします。また、提案営業にシフトしないかぎり、業務進行は淡々と規定のプロセスをこなすことの方が多いので、件数をたくさん持たされると疲弊していきます。この疲弊度と給与などの待遇面で、その人の精神的均衡が崩れると、フルタイム・パートタイム問わず離職に結びつきます。

「派遣社員がいちばんもたない状態」が示すもの

この、バランスを崩して離職の傾向として、いちばんもたないのが派遣社員です。次にアルバイト、社員、と続きます。

派遣社員がだめな存在ということではなく、世の中の常識をいちばん察知できる能力という意味でこの人たちのアクションは非常に参考になります。その視点で「まず派遣社員が離脱する」という状況は、給与に対して抱える仕事の責任が重すぎる、あるいは拘束時間などがきつすぎる、ということを示唆しています。受注業務はすでに人間の仕事として成立していない、とみなしていいのではないか

迫る同一労働同一賃金の危機

受注受付業務や会場設営業務でパートタイムに大きく依存している会社は、労働内容がフルタイムとほぼ同じなのに責任の重さの差というような理由で2倍から3倍の年収格差を生んでいます。これはすでにパートタイムのほとんどが認識済みで、業務の種別をまったく異なるものにしないかぎり、日々積み上げられている不満となっていきます。これはスーパーマーケットや接客業のほとんどにもあてはまる現象ですね。

経営としては、人手がかかる仕事をパートタイムを使うことで人件費を抑制する効果を見込んでいるのは確かで正論です。が、働き方改革の目玉である同一労働同一賃金の制度が取り入れられると、パートタイムは正社員給与の100%にならないまでも、大幅に引き上げられるようになっており、単純に人件費を引き上げると経営を圧迫する要素になりかねないリスクも含まれています。賃金格差があっても納得するまるっきり違う職種の創出で正社員をそちらに配置し、パートタイムむけの職種を創出するなど、対策が必要です。

一定的な財務体質はたかが知れた成長予測になるかも

貸し会議室はハコモノである以上、そこをいかに効率よく活用したかが経営力のよしあしの指標になります。高単価低稼働率、とも言われ、経営でまず取り組むのは稼働率アップと、付加価値による収益アップの二本柱になります。料金体系は、稼働率100%となったときに家賃の何倍になるか、という計算から逆算するか、最低稼働率を設定して、それでも赤字にならないようにするにはいくらの設定でいいか、というような計算になります。高付加価値型と低価格戦争型ではまったく考え方が異なりますが、収支のポイントは今あげたようなことです。

経常利益率でいうと、12%以上はほしいところで、これを会議室運営のみで稼ぐのか、別の業態を連結させて稼ぐのか、ということになりますが、基礎部分(12%)は会議室で稼ぎ、その上積みを別の業態で稼ぐのがいい経営のパターンです。

上積みのアイデアがない場合、会議室運営は稼働率勝負になります。が、上積みをせずに会議室運営に特化しているところがほとんどのようなので、収益予測は稼働率、ひいては景気に左右されるものの、だいたい想像がつくものになります。大きなチャレンジをしなくてもいいが、大した収益も見込めない、ということが起こりうる構造です。

埋没する情報

貸し会議室の営業としては、どこにどんな会議室があって、それはいくらするのか、ということを、いかに利用候補者に伝えるか、にかかっています。すべての人向けのビジネスではないため、お客さんとしては会議を外で行う法人の部署や会議スペースを探す旅行代理店、各種発表場所に使いたいエージェントなど、アプローチする相手はほぼ特定されていて、かつ限定されています。が、そこに届けるのが一苦労で、これは利用履歴からあたりをつけて新規開拓をしていくしかありません。

会議室情報を自前ですべてやっていくか、ポータルを使うかは、経営判断によります。それぞれにメリット・デメリットがありますので、会議室がどんな路線なのかによりここは意見が分かれるところです。

わたしの所属する会社の会議室運営は、いちおう高級路線なので、価格競争のポータル登録は避け、自前主義で成果を上げています。しかし、冒頭にも述べたように小さいサイズの会議室が低価格競争に陥っているため、手持ちの会議室の中にもその比較対象にさせられてしまうものが数件あり、お客さんから相見積もりの依頼が来たりします(価格だけの比較対象なので、絶対に受注にならない)。また、割引圧力も法外なものが増えつつあり、お客さんのブランド認識の確認と、会社が高級路線といってもどんなビジョンで運営するのかという明確な意思表示が必要になってきています。

情報発信がちぐはぐな構図がこういうことを引き起こしているのですが、マーケティング、営業、経営と連携して発信方針のコントロールができていません。また、どんな情報が価値があるのかが共有できていないということは、社内のナレッジも蓄積されていないということです。どんな情報に価値があり、どれを保管し共有していこう、という方針があれば、メッセージやサービスのポイントがより明確に絞り込めるはずなんですが。

情報は日々、埋没していっているようです。

ポジションペーパーとしての論点

やたら長くなりましたが、ポジションペーパーとしての論点は、ヘッドライン化すると、以下のようなQになります。

1.貸し会議室会社による意見表明と団体組織化、保護の法律の必要性

2.人手不足解消策は「人を雇わなくてもいい」構造実現ではないのか?

3.現行の人材はアップデート価値が十分であるがその転向先は何か?

4.財務の上乗せとして現場で注力する事業を特定すべきではないか?

5.情報機関を設立し、ブランドコントロールにまで発展させたらどうか?

内部要因・外部要因を見渡すと、上記の5つのポイントがシェアリングエコノミー、特に貸し会議室業界として共通の課題と言えるのではないでしょうか。

次回はこの論点に対してどのような提言をするかを書いてみたいと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?