毎朝すれ違うブロンズヘアーの彼を、勝手にトムと呼んでいた。もちろん心の中で。 トムはスーツに大きな黒いバッグを肩に掛け、いつも同じタイミングで向こうからやって来る。 その朝も、バタバタと家を出て、通勤電車を途中下車し保育園へ向かった。 人通りの多い商店街をぬけ、植え込みのある広い歩道を住宅街へ。細い坂道を登って右に曲がると目指す保育園が見える。 1人なら10分かからない道のりを、歩き始めた娘とよちよち行く。3歩進んで2歩下がるイメージ。保育園は近くて遠いのだ。 よちよ
お湯を注いで3分待つのだ…… やっぱり来た。この感じ。 ほんわかあったかくて、きゅんとするような、懐かしいなつかしいこの感じ。 小学1年生の頃、ランドセルを置くや否や毎日のように遊んでいる友達がいた。ともに幼稚園中退という経歴をもち、入学式に意気投合した彼女の家は徒歩5分、青い三角屋根の素敵なおうちだった。 当時、母親から「お友だちのおうちで食事をご馳走になってはいけない」と言われていた私は、しっかり言い付けを守り、ごはん時は避けていた。 ところが、あの日あの時は突然訪
仕事が終わった。 今日はまっすぐ帰宅するのだ。1時間後の幸せそうな自分を想像しながら電車に乗って、冷蔵庫の中身を思い出しながら電車を降りる。 駅前のスーパーでお豆腐と豚肉を購入。駅の向こう側のスーパーの方が少し安いけど、もう1秒でも早く帰りたい。だってお腹がぺこぺこなのだ。 直径17cmのお気に入りの土鍋に、キャベツとしめじ、お豆腐に豚肉を詰め込む。ねぎを買い忘れたから玉ねぎを入れておこう。残っていた竹輪も入れちゃえ。あと人参。彩りは大事なのだ。 白だしとお味噌でグツ