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いつもよりちょっといい朝
毎朝すれ違うブロンズヘアーの彼を、勝手にトムと呼んでいた。もちろん心の中で。
トムはスーツに大きな黒いバッグを肩に掛け、いつも同じタイミングで向こうからやって来る。
その朝も、バタバタと家を出て、通勤電車を途中下車し保育園へ向かった。
人通りの多い商店街をぬけ、植え込みのある広い歩道を住宅街へ。細い坂道を登って右に曲がると目指す保育園が見える。
1人なら10分かからない道のりを、歩き始めた娘とよちよち行く。3歩進んで2歩下がるイメージ。保育園は近くて遠いのだ。
よちよち歩きの好奇心は最強で、石ころにありんこ、ダンゴムシと次々見つけては、しゃがみ込んで観察を始める。
わかるよ、わかる。
気になるものがいっぱいあるもんね。
わたしだってありんこやダンゴムシを見ていたい。でもそろそろ行かなきゃ仕事に遅れちゃう。いつものことだけど、いつものように時計を見ては、早く早くと念を送る。
いつもの辺りでトムがやって来た。
いつものようにすれ違う…と思ったら、その朝トムはにっこり笑って言ったのだ。
アカチャン カワイイデスネ
ママモ カワイイデスネ
(ママモ?! カワイイ?!)
なんて素敵な朝だ。
想定外のお言葉に思わず小躍りするわたし。もちろん心の中で。
いつもの毎日が「ママモカワイイデスネ」で一気にバージョンアップ。
単純なわたしはすっかり気分を良くし、以来大きな心で、ご機嫌に3歩進んで2歩下がる…ようになったのだった。
さて、あれからウン十年。
それなりに色んな経験を積んだ。積んだ割には未だ迷走中ではあるけれど。
先日ふとあの朝を思い出した。それは「自分に出来る子育て支援」をぼんやり考えていた時のこと。
きっとトムは、毎朝大荷物でお疲れ顔のわたしとすれ違い、ついに見かねたあの日に声をかけてくれたのだ。しかも「ママ、タイヘンデスネ」ではなく「ママモ、カワイイデスネ」。
さすがトムである。
さりげなく嬉しいひと言と笑顔。主語がママなのがポイントだ。その結果、
ママご機嫌→赤ちゃん喜ぶ
ママ笑う→赤ちゃん喜ぶ
これは素晴らしい!
子育て支援ってそこからなのだ。
まずはママが笑うこと。
ずいぶん時間が経ったけれど、あの時の嬉しい気持ちを次の誰かに繋げなければ。
“ペイフォワード” だ。
いつもよりちょっといい朝と、未来に繋げるきっかけをくれたトムに伝えたい。
ありがとう。
娘もわたしも元気です。
(※もちろんママをパパに変換しても同様に)