【蒸溜所見学.202404】世界のYAMAZAKIを肌で感じてきた
2024年4月1日、新年度早々に、筆者はサントリー・山崎蒸溜所の有料見学ツアーに参加した。
現在、山崎蒸溜所は有料見学か、ショップ・テイスティングラウンジの利用のみかにかかわらず、抽選が必要である。
平日の昼間・一人で申し込めば、当たるのではないかという予想は見事に的中し、2024年度の初日は、ウイスキーを飲むことが確定した。
ちなみに、愛知県出身の筆者は、行きのみすべて在来線で——帰りは、京都から新幹線に乗ったが——名古屋-山崎を移動した。
約3時間かけて、名古屋→大垣→米原→山崎と、3回乗り換えて目的地まで辿り着いた。
いざ蒸溜所へ
11時ごろJR山崎駅に着き、蒸溜所の方へ歩いていく。
この日は天気も良く、ひじょうに心地良かった。
10分も歩かないうちに、蒸溜所へと到着する。
まず最初に目に入るのが、ポットスチルと「SUNTORY YAMAZAKI DISTILLERY」と書かれた建物。
やはり、ロゴやポットスチルのインパクトは絶大だ。
これを見るだけで、蒸溜所に来たということ、これから見学ができるということが思い起こされ、自然とワクワクしてくる。
緑豊かで心地よく、春の陽気を存分に感じられた。
ウイスキー館見学
ウイスキー館で受付を済ませ、ツアーの開始時刻まで、同館にある展示を見て過ごす。
この展示を、シラフの状態でしっかり見たいと思い、ツアーの開始時刻(12時30分)の1時間以上前に来た。
受付の方は、「もし時間が潰せそうになければ、一度敷地外に出ていただいても構いませんよ」と伝えてくださったが、博物館や史跡を訪れるのが好きな筆者は、じっくり展示を見るため時間がかかる。
展示を見たり、写真を撮ったりしていたら、ちょうどツアー開始の10分くらい前になっていた。
展示を一通り見るだけなら、30分もあれば十分であろう。
しかし筆者は、一つひとつのブースで立ち止まり、映像資料や写真、解説ををじっくり見る、そんな時間が好きである。
ウイスキー館では、①会社の歴史、②ウイスキー作りの工程解説、の2つがパネル展示などで鑑賞できるようになっている。
受付の反対側、建物向かって左側では、サントリー創業の歴史が解説されている。
100年以上前、日本に洋酒を根付かせようと思い立ち、それを実行に移していく。
そうした歴史を、存分に感じ取れる展示である。
展示展示に沿って建物奥側まで行くと、有料試飲のコーナーが現れる。
工場見学をする人は、安全のため、試飲コーナーのみ利用不可となっている。
メニュー等を確認し損ねてしまったのだが、山崎が手頃な価格で飲めるようである。
また、有料試飲ブースの壁には、樽から採取したと思われる、大量の原酒のサンプルが並んでいる。
整然と並べられた原酒は、調合を待つ化学薬品たちのようである。
有料試飲ブースから2階へと階段を上がると、ウイスキー作りの工程を解説したブースと、ミュージアムショップが現れる。
山崎や響にかんする展示もあり、こちらも大変興味深い。
ツアー開始
12時30分になり、ツアーが始まる。
受付の方が、流暢な英語で応対していたことから予想はついていたが、海外からの旅行者もおおい。
やはり山崎は、その名を世界的にも轟かせるウイスキーなのだな、と改めて実感する。
ツアー客が見学できるのは、仕込・発酵・蒸溜・貯蔵の一部分である。
香りや熱気など、その場にいるから味わえる臨場感とともに、我々は、大麦がウイスキーへと変容していく、その一端を垣間見た。
中でも、貯蔵庫は圧巻のスケールだった。
ひんやりとした空気の中に、揮発していったアルコールの香りが豊かに漂っている。
貯蔵庫のどの位置に、どの高さで置くのか、といった諸条件で、味わいもそれぞれ違ったものになるようだ。
ウイスキーの原酒作りに欠かせないこの「貯蔵」という工程、どうやら、完全にはそのメカニズムが解明されていないようでもある。
筆者が大学院で専攻している文化人類学では、モノ(非人間)にもエージェンシー(主体性)を認めるという考え方があるが、樽の中のニューポットも、まさしく主体的に環境とかかわり合い——ときに人間の理解が追いつかない手段で——、自らを変容させているのだ、といえよう。
貯蔵庫の外には、小さな庭園のようなものも整備されていた。
こうした自然環境があって初めて、ウイスキーはウイスキーたり得るのである。
桜も咲いており、なかなかに乙な景色であった。
1時間ほどでツアーを終えると、次は、いよいよ試飲である。
今回の試飲は、山崎の原酒3種類と、山崎×2の、合計5つ。
これに加え、燻製ミックスナッツやチョコレートなどのおつまみもついていた。
原酒は、それぞれホワイトオーク樽、ワイン樽、ミズナラ樽。
ガイドさんのレクチャーのもと、普段ブレンダーがやっているように、①色を確かめる、②香りを確認する、③原酒と同量の水を加える、④再度、香りを確かめる、という4つの段階を経て、原酒をいただく。
とくに筆者が驚いたのは、ホワイトーク樽原酒である。
原酒に加水したとき、それまでぼんやりとしか感じ取れなかったリンゴのような爽やかな香りが、一気に立ち上ってきたのである。
加水すると、それまでとは違った香り・風味を引き出すことができるというのは、知識としては知っていたが、実際に試すことはしていなかった。
改めて、ウイスキーの奥深さを知ったのであった。
普段筆者は、ウイスキーはストレートかロックで飲むことがほとんどで、水割りやトワイスアップは試したことがなかった。
「ただの水」を加えるだけでも、これほどまでに多彩な表情を見せてくれるとは、ただただ驚きである。
ちなみに、試飲トレイの一番奥に置かれているのが、1ショット分の山崎である。
これにかんしては、ガイドさんから「皆さんのお好きな飲み方でどうぞ」と案内があった。
山崎の天然水で作られた炭酸水も用意されていたため、筆者はハイボールを作ることにした。
ガイドさんの実演もあり、大多数の参加者が、ハイボールを作っていたように思う。
ハイボールは、やはりすっきりと飲みやすく、おつまみの燻製ミックスナッツ——用意されていた3種類のおつまみの中で、筆者はこれが一番好きだった——との相性も良い。
山崎をハイボールで飲む、という何とも贅沢な体験であった。
試飲のあとは、山崎(ノンエイジ)の限定販売の案内もあった。
700mlのボトルに紙袋代金20円が加算され、計7,720円。
ツアー参加者のみが購入権をもっている、とのことで、筆者も記念に購入した(会計は、paypayやクレジットカード、IDなど、各種キャッシュレス決済に対応していた)。
筆者にとって、初めての山崎購入である。
必ずしも「安い」とは言えないし、またノンエイジという一番手頃なものではあるが、すくなくとも、メーカー希望小売価格で購入できたこと、見学の記念になったことなど、総合して買って良かったと考えている。
これから、すこしずつ味わっていきたい。
ただし、HP上には「ウイスキーの在庫は流動的である」という趣旨の注意書きがある。
スタッフさんに確認していないため確証はないが、ツアー参加特典の山崎も、時期によって購入できない可能性がある。
ちなみに、ミュージアムショップでは、チョコレートやグラスなどとの抱き合わせ販売の、180mlの山崎のみが売られていた。
原酒不足の中、こうした対応はやむを得ないのかもしれない。
終わりに
大変楽しく、また驚きにあふれた工場見学であった。
抽選が当たれば、また訪れてみたい場所である。