BtoC ビジネスの価格転嫁の進め方と留意点
元々電子部品メーカーに勤めていたり、顧客の多くが製造業であることから BtoBを意識した価格転嫁記事が多いですが、今回はBtoCビジネスを念頭において解説したい。BtoC ビジネスも幅広いですが消費者を対象に製品を生産・販売・サービスする取引であり、食品製造業、飲食、旅館、小売り・サービス等が該当します。
1. BtoCとBtoBの違いと価格転嫁の留意点
価格転嫁の進め方と留意点はBtoCとBtoBとでは大きく異なります。ボイントを明確にするために以下に比較表を作成しました。BtoCとBtoBの大きな違いは、対象がBtoCは消費者・個人でBtoBは 法人や団体であることです。消費者は価格に非常に敏感であり、値上げは顧客離れを招くリスクが有ります。東京商工会議所が昨年末に行った調査では、取引条件の改善・さらなる価格転嫁に向けた問題・課題ではBtoCでは48%の企業が「販売量の減少」としています。この数値はBtoBを上回っておりBtoCにおける価格転嫁の難しさを物語っています。
BtoCの値上げ交渉は料金の改定の通知であることから短期間で結論が出ますが、価格転嫁実施までの検討は様々な視点から行う必要があり、時間をかけ慎重に行う必要があります。BtoCにおける価格転嫁は料金表を改訂し、張り出したり通知することで実施に移せます。また原材料やエネルギーのコスト要素別事情は定性的分析において、価格転嫁額を検討する際に財務分析等でシミュレーションしますが、顧客に提供する製品やサービスの一点に絞って検討します。
2. BtoCビジネスにおける価格転嫁検討フロー
価格転嫁を効率的に進め所定の成果を得るためには手順を定めて一歩一歩着実に進めることが大切です。そのためにBtoCビジネス価格転嫁検討フローを検討し以下に示しました。一瞥するとわかるように定量分析と定性分析があり、財務分析は経営数値に疎い読者は警衛するかも知れません。その際には金融機関や財務コンサルタントに依頼しましょう。また自分でやりたい読者は支援ツール「」があのますので活用しましょう。
ここでの目的に材料等の値上げにより縮小した利益を回復するために、どの位の値上げが必要かシミュレーションすることです。また削減可能な経費や運営システム費は自主努力で削減・効率化することも必要です。小規模中小企業経営者は自社や自分の商売を客観視することを苦手としています。外部の手を借りることをお勧めします。
定性分析の狙いは自社の強みを明確にし、強みのある製品やサービスはシッカリ値上げをします。しかし競合と左程の違わない製品やサービスは値上げにより顧客が離れる可能性がありますので、地域の同様な製品・サービスの価格を調べ顧客の値上げ受容力を調査します。
一律に値上げ行うことは難しく、値上げにより消費者が離れてしまい販売が失速した製パン製造業の事例もあります。特徴があり競争力のある製品は100%値上げしますが、競合のある一般品は最低限の値上げに留め売上維持を図るのです。不足分は新製品を開発上梓し新製品にて利益回復を図ります。これはBtoBでも値上げの難しい製品は廃番にして、機能を絞った新製品にチェンジする手法と同じです。現行製品の値上げには顧客の抵抗が発生しますので、代替品や対案を提案することが求められます。
3. 成功事例に見るのBtoC価格転嫁具体策
A社は従業員7人の地域の菓子製造業です。2022年頃から材料の小豆・砂糖・鶏卵の価格が高騰し15%程度原価が上昇しました。新商品の発売タイミングで上昇した原価を反映した価格を設定しました。2023年にはどら焼き、プリン、あんみつなど5品目について新商品を発売しました。
一方材料を工夫し原価率を抑えながら、地域の名水の利用、高級感のある瓶容器の採用、進物用パッケージのリニューアルなどで付加価値を高めているます。これらは看板商品であり、毎年1個10円ずつ値上げしています。
当店は「きちんとした材料を用いたおいしい菓子を届ける」ことをモットーとしており、値上げで獲得して原資により、良質なくずを適正な価格で仕入れることで、地元の生産者を守っています。
B社は従業員4名の地方温泉旅館です。冬季の人気食材であるカニは価格変動が大きく、利益を圧迫していた。金融機関の協力を得て原価を分析し価格改定計画を作成しました。
カニとフグを提供するプランは20%値上げを皮切りにその後複数回の価格改定により1.5倍まで引き上げました。一方ゆでガニなしの低価格・お手軽プランを新設しました。
値上げ計画検討に当たって周辺の同等ランクの旅館と比較し、料理や湖に面した立地・温泉などを総合的に評価した「適正価格」を算出しました。
顧客の約40%がリピーターですが、カニ目当ての利用客からは値上げに対する拒否反応はほとんどなく、客単価アップと原価見直しで収益が改善し、コロナ後の赤字から黒字に転換できました。
4. 中小企業BtoCビジネスの強みの見極めと強化
BtoC中小企業は、大手企業・中堅企業の低価格・好立地戦略に対抗すべく、品揃え、店舗・施設、品質、雰囲気、専門性、接客サービス等に拘り、これらを組み合わせ優位性の構築を図ることが基本戦略です。従って価格転嫁に当たっては、単なる値上げではなく、強みの見極めと継続的な差別化強化を平行して実施していくことが必要です。